-事業内容を教えてください。
1932年の創業以来80年、当初の下請け業からの脱却を目指し、装飾めっきのエキスパートとして技術を磨き、精密装飾めっきや非金属材料へのめっきなど新技術の開発に注力してきました。今では電気・電子部品、自動車部品、精密部品や光ファイバー等に対する機能めっきが中心になっています。4つの工場を稼働させて、ベテラン技能者の手作業による高品質なめっきを約500社のお客様に提供し、高い評価をいただいています。
-今回BCP策定に取り組まれた理由を教えてください。
めっき工場は多くの化学薬品を使用しているため、消防署の協力のもと毎年避難訓練を実施しています。それまでは全社的にとりまとめた手順などもなく、工場単位での取組でしたが、東日本大震災以降、地震が頻発するようになり、災害対策の必要性が明確になったので、新年度が始まるこの6月から、点呼のやり方をはじめ、全社的に取り組んできました。その過程で、有事の際にお客様の生産を止めない、止めた時にはなるべく早く復旧するようにしたいという思いをもつようになり、BCPに取り組むことを決めました。
-策定されたBCPの内容を教えてください。
対象事業は、お客様の中でも特に比重の高い、継続受注している大手メーカー1社の部品めっき加工に絞って早期復旧を行うこととしました。また、東京湾北部地震によって人員の負傷、薬液タンク・配管の破損による薬品やめっき液の流出等の二次災害発生を想定しました。
危険なめっき液の流出拡大やガスの発生といった二次被害の防止が最も大きな課題であるため、人命を守る予防策と緊急時対応を重点的に検討しました。現場のリスク総点検を行い、現場ごとに転倒・落下・損傷防止策や緊急避難通路確保策を立案するとともに、緊急排水用配管やバット・隔壁設置と自衛消防体制の構築を決めました。
重要業務であるめっき加工業務には大量の電気・水道が必要であるため、再開にはこれらのインフラ復旧が必須になります。インフラ復旧とともに速やかに業務を再開できるように、施設修復に緊急対応していただける体制の構築を協力会社に依頼するとともに、修復作業に必要な自家発電機の導入と清浄用水の備蓄を決めました。人員の負傷に対しては他業務の人員による代替で対応するため、今後、多能工化を進めていきます。
対象事業 | めっき加工 |
---|---|
対象リスク | 東京湾北部地震 |
被災シナリオ | ・ けが人発生(作業準備1名、めっき5名、検査4名) ・ 薬液タンク・配管の破損、薬品漏れ、めっき液流出、ガス発生 ・ 社会インフラ(電力、上水)の停止 |
予防・低減策 | ・ 施設・設備の転倒・落下・損傷防止策の実施 ・ 緊急排水用配管、バット・隔壁の設置 ・ 電機ヒーターから蒸気ヒーターへの転換 |
代替策 | ・ 自家発電機による電力供給(照明、工具、通信等) ・ 備蓄用洗浄水による洗浄、協力会社の緊急対応による施設修復 ・ 多能工による代替作業 |
-苦労されたポイントや、新たな気付きはありましたか?
検討の過程で、特に休日・夜間での発災を想定すると、部署に関係なく近隣に居住する社員の緊急時対応が必要ということがわかりました。その具体的な活動や注意点について現場担当者と話してみると、様々な意見や提案があり、現場の視点で考えてもらうことの重要性を改めて認識しました。
今までは「事故や災害をいかに防止するか」ということに注力してきましたが、今回改めて「災害が発生した時にどうするか」を深く考えてBCPを策定できましたので、いざというときに慌てなくてすむという安心感を持つことができました。予防策のさらなる徹底の必要性も痛感しました。今回策定したBCPの実効性を高めていくために、これまでの避難訓練にBCPを踏まえた行動訓練を加えていくことが重要と思っています。
-BCPを策定した感想をお願いします。
BCPのことをほとんどわかっていない状態から、約2か月でここまでの内容を作り上げることができ、非常に満足しています。さらに、対象事業以外の事業についても自社内で並行して策定し、全社BCPの形を作ることができましたので、今後は自社の力で拡張、見直しができると思います。今後は全社員にわかってもらうことと、協力会社にも声をかけ一緒に取り組んでいくことが重要と思っています。