-事業内容を教えてください。
当社は電機・電子機器用部品の製造及び販売を営んでいますが、主力は産業機器向けのアルミ製ヒートシンク(放熱器)の開発・製造・販売で、20%を超える業界シェアを有しています。ヒートシンクは少量多品種のオーダーメイドが多く、お客様の図面に従い生産し、大手電気メーカーをはじめ約350社のお客様に納品しています。50年前の創業当初は販売代理店でしたが、20年前に自社工場を建ててメーカーに転じ、業界最高水準の品質の製品を納期厳守でお客様に提供しています。
-今回BCP策定に取り組まれた理由を教えてください。
大手電機メーカーを中心にお客様からの事業継続に関する照会が増え、問合せの内容もより具体的になってきたため、BCP策定の必要性を強く感じていたところ、組合(全国電子部品流通連合)を通じて東京都の支援事業を知り、参加することにしました。また、東日本大震災では被災した企業の経営悪化を目の当たりにし、緊急時の対応力をつけたいという気持ちが強くなりました。BCPを策定することで有事にもいち早く事業復旧を果たし、自社を守りながらお客様の信頼に応えたいと考えています。
-策定されたBCPの内容を教えてください。
対象事業としては、主力事業であり、納期要求の厳しいヒートシンクを選び、在庫製品出荷と生産の早期再開を目標に検討しました。優先的に復旧すべき業務としては、お客様窓口である営業(本社営業部と埼玉営業所)と、生産管理から加工、検査、出荷までの一連の生産プロセス(埼玉事業所)を選択しました。これらの業務には、営業・生産人員、生産設備・機械、在庫製品、材料・部品が必須ですが、東京湾北部地震によって、人員の一部が勤務困難、設備・機械の一部が損傷、製品・部品・材料が荷崩れし一部破損等の被害が発生することを想定し対策を検討しました。
営業員が勤務困難な場合は、他の営業またはアシスタントがお客様へのリスクコミュニケーションを代行しますが、そのために顧客リストや連絡・聴取内容表の事前整備を行いました。生産に関しては多能工化を進め、代替要員で対応できるようにします。
損傷した装置・機械については、直ちに製造メーカーに緊急修理依頼を行いますが、修理期間が長い場合には協力会社への外注生産に切り替えます。製品・部品・材料の荷崩れに対しては、使用可否確認を早急に行い、破損部品・材料の追加仕入については必要に応じて代替仕入先やメーカー直接連絡も考慮します。
対象事業 | 電子部品(ヒートシンク)の開発・製造・販売事業 |
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対象リスク | 東京湾北部地震 |
被災シナリオ | ・ 社員の出社困難及び負傷 ・ 製造及び検査設備の損傷 ・ 材料在庫の破損 |
予防・低減策 | ・ 什器、棚、備品の落下・転倒防止策 |
代替策 | ・ 多能工化による代替要員での業務継続 ・ 協力会社への外注による代替生産 ・ (仕入先被災の場合)代替先からの材料仕入れ ・ 営業員の勤務困難な場合、他の営業またはアシスタントによるお客様へのリスクコミュニケーション |
-苦労されたポイントや、新たな気付きはありましたか?
第1回目の集合研修では災害シミュレーションの設問にまったくと言っていいほど答えられず、それまでも防災対策など考えてはいたものの、「自分たちが現実に被災する」という実感を持てていなかったことを思い知らされました。実際に起きていないこと、経験してないことを想定しながら対策を練っていくことは容易な作業ではありませんが、回を追うごとに真剣さや実感が増しました。支援期間中の10月に行った毎年恒例の防災訓練もこれまでより真剣な姿勢で取り組みました。
事務局サイドはBCP文書等をどう簡潔に、誰にでもわかりやすくまとめるかで苦労していました。また、短期決戦での策定だったので次のステップまでの宿題も多く、通常業務と並行して時間のやり繰りが大変だったようです。
-BCPを策定した感想をお願いします。
プロジェクト・チームを本社メンバーと埼玉のメンバーと半々で組成したことで、現場の生きた意見を効率良く取り入れることができました。また、本社と埼玉の管理職が一堂に会し、会社全体のことを自分のことと受け止めて取り組めたことの意義は大きいと思います。今後も演習等を通じて全社での取組を盛り上げていきたいです。
現実の被災は必ずしも想定通りにならないということも今回実感したことの一つで、不安は残りますが、何をすべきか明確になったので、予防・低減策をはじめ、着実に実施して備えたいと思います。携帯用BCPを配布することで全従業員の意識が高まってくれるのが、今からとても楽しみです。
当社は業界の中でも先駆けて品質と環境のISOを取得し、今では不可欠なマネジメントシステムとして社内に定着していますが、BCPも同様に維持継続していきたいと思っています。