-事業内容を教えてください。
当社は、木造住宅の接合部補強金物を自社開発し、自社では工場を持たずに生産を外部に委託して販売している金物メーカーです。当社の製品は全国の新築木造住宅やリフォームの約5%に使用されております。木造住宅の接合部分は年々緩んできます。当社の製品は、それをしっかりと接合することにより住宅の寿命を延ばし、繰り返し起こる地震に耐えることができる強固な木造住宅に貢献することができ、多くの大手ハウスメーカー様や地域密着の工務店様など幅広く採用していただいております。当社の技術は、自社試験センターでの製品開発実験をフル活用し、ハウスメーカー様との共同開発や産学提携により、日々進化を続けております。また物流面では、多種の建材が組み合わされた注文を独自のデジタルピッキングシステムでひとまとめにし、短納期での納入を可能にしています。
-今回BCP策定に取り組まれた理由を教えてください。
BCPが必要と感じたのは、東日本大震災がきっかけです。当時、柏にある関東デリバリーセンターでエレベーターが故障し、製品の入出庫に支障をきたしました。また交通トラブルにより輸送も困難な状況になるなど、運輸に苦労しました。
当社の製品は、木造住宅の構造強化材であり、地震の予防対策にもなるという付加価値を備えておりますので、災害の復興時には改めてその必要性が注目されることになります。当社の災害マネジメントとして事前の準備をしっかりと行い、発災後も速やかに供給を再開して社会的な需要に応えていきたいと思います。
東日本大震災の経験で運輸が重要と認識し、配送管理の情報システムをデータセンターへ移行し、帰宅困難対策として社内に宿泊可能な場所を確保し、備蓄も計画しました。しかしBCPとして計画したわけではなく、いずれも発災時の単発的な緊急対応でしかありませんでした。今回、東京都の事業を知り、BCPを策定することを決断しました。
-策定されたBCPの内容を教えてください。
有事においては、被災していない顧客からの受注業務と、欠品を出さないように商品を補充する仕入業務をいち早く復旧させます。
受注・仕入業務は本社と関東デリバリーセンター(DC)で行っていますが、東日本大震災でも最もダメージを受けたのは運輸だったので、本社と関東DCの同時被災を想定し、一体として復旧させることを検討しました。また、最悪の場合、双方とも復旧できない可能性も考慮しました。
本社の重要な経営資源は通信・情報システム・仕入ルートですが、注文ルート(FAX)の障害、通信回線断線、情報端末機器破損、仕入困難等が発生することを想定しました。また関東DCでは、作業者・在庫製品・ハンディターミナル用サーバ・垂直搬送機・電力が必要なのに対し、作業員の出社困難、サーバ故障、倉庫内の乱雑化及び製品破損、垂直搬送機故障、電力の3日間供給停止等の発生を想定しました。
これらの対策として、本社内は整理整頓を遵守し乱雑化を最小限に食い止め、通信回線はWiFiによるバックアップ回線を準備、また、FAXの損傷に対しては他拠点へ注文を誘導し、仕入困難の場合はお客様に代替製品の提案を行います。関東DCでは安全対策を徹底し、自家発電機と照明を装備することにより、発災後、いち早く片づけ、製品検査を行い、在庫情報を更新します。また、関東DCの復旧に時間を要すると判断した場合は、代替策として関西DCなど他拠点での入出荷を考慮しました。本社機能についても同様に、復旧困難時は大阪支店へ受注・仕入業務を移転します。
対象事業 | 木造住宅用接合補強金物の製造・販売 |
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対象リスク | 東京湾北部地震 |
被災シナリオ | ・ 電力、通信など社会インフラの障害 ・ 流通や情報設備の破損、故障 ・ 仕入先からの仕入品の入手困難 |
予防・低減策 | ・ 整理整頓、耐震対応、定期点検の徹底 ・ 仕入先・外注先の二社購買 ・ モバイル通信導入による通信回線の二重化 |
代替策 | ・ 関西DC・東北DCによる関東DCの機能代替 ・ 他営業所でのFAX受注代行 ・ 本社復旧困難時、受注・仕入業務を大阪支店へ移管 ・ 仕入困難な場合、代替製品を顧客に提案 |
-苦労されたポイントや、新たな気付きはありましたか?
東日本大震災での経験を踏まえ、災害の想定のもとに対策を立てたつもりでいましたが、今回の策定により、きちんとした想定ができていなかったことがわかりました。例えば、関東DCではエレベーターの故障は想定しても、電力の停止までは考えておらず、実際に電力が停止した場合は、関東DCの機能が停止してしまうということが判明しました。
また、今回の策定の成果として、仕事の流れを確認したことで業務の棚卸ができ、メンバーの良い教育にもなりました。皆、進んで意見や提案を行い、主体的に集まって検討会を実施するなど積極的に取り組んでくれました。BCPの策定活動が従業員教育にも役立つと実感しました。
-BCPを策定した感想をお願いします。
今回策定したBCPはまだまだ未完成であり、今後も演習や訓練、改善によって完成度を高めていく必要があります。一方、今回の成果物をベースに、他の拠点営業所や関西DC、新たに開設する東北DCへも展開していくつもりです。また、当社のグループ会社全体としての対応も考えていきたい。それには、今回のプロジェクトに参加した若いメンバーの力が必要不可欠と認識しています。