-事業内容を教えてください。
当事務所は、税理士法で定める税務代理、税務書類の作成、及び税務相談を行う税理士事務所です。職員数7名の小さな事務所ではありますが、法人顧客が約70社、個人顧客を60人程度有しており、月次巡回監査、年末調整を主とした年末・年始業務、決算業務、確定申告等の業務、及び財務や労務など管理的な部門を支援するサービス等を提供しています。
-今回BCP策定に取り組まれた理由を教えてください。
首都直下型地震が発生した場合、首都圏の被害は東日本大震災を上回ることは明らかで、当事務所も大切な顧客も甚大な被害を被ることが予測されます。そのような状況下で当事務所のような小規模な企業が事業を継続していけるのかどうかという危機感を常々抱いていました。
また、被災時には、税務官公署から納税及び申告等の期限延長・減税・免税等の様々な特例措置が告示されます。東日本大震災の際には発生4日後の3月15日に国税に関する申告・納付等の期限を延長する旨の告示が発せられ、さらに4月27日に震災特例法が施行されて、個人・法人を問わず幅広く税制上の特例措置が図られました。こうした被災時の法令等を速やかに取り入れ顧客に周知できるように当事務所の業務体制を整えたいと考えておりました。
-策定されたBCPの内容を教えてください。
当事務所の業務においては「人」が経営資源の大部分であり、また、「税理士」という資格は、最大の強みである反面、それを欠けば事務所を存続しえない最大のボトルネックにもなりますので、税理士及び所員の一部が被災によって就業できなくなった時、どのようにして事業を継続するかが検討課題になりました。さらに、事務所が築40年以上のビルにあること、事務所所在地の地域総合危険度が5ランク中のランク4であることから、被災時には事務所が利用できなくなるという想定で検討を行いました。これにより、紙面文書を含む事務所保管の情報資源へのアクセス、情報システムも利用できなくなります。また、当事務所ではほぼすべてが電子申告ですが、e-Tax(国税)、eLTAX(地方税)での申告もできなくなります。
これらの想定や検討課題に対して、事務所以外の執務場所でも最新の特例情報を入手し、かつ顧客情報を利用できる環境づくりを目指しました。そのために、顧客情報等のクラウドへの保存、モバイル通信環境の整備を行い、迅速に被災時対応を行えるよう検討しています。さらに他税理士事務所との相互援助協定を締結し、状況に応じ、一時的な業務委託、職員の融通、及び執務スペースの貸借が行えるようにするため、今後、税理士法上の問題点を検討していきます。また、これを機会に事務所の移転も検討していくことにしました。
対象事業 | 税務 |
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対象リスク | 東京湾北部地震 |
被災シナリオ | ・ 事務所ビル半壊で立ち入り不可 ・ 税理士重傷のため、就業不能 ・ 事務所内保管の情報・システムにアクセス不可 |
予防・低減策 | ・ OA機器、オフィス家具類の転倒・落下防止 ・ 防災マニュアルに基づいた訓練による負傷等の予防 ・ 顧客預かり資料の電子化・クラウド保存 ・ 記帳代行用会計システムのクラウド化 ・ 税理士有資格者の複数化 |
代替策 | ・ 他税理士事務所との相互援助協定の締結による業務委託・代行、職員・執務スペースの融通による業務 ・ 執務環境を整備した所長宅での業務 |
-苦労されたポイントや、新たな気付きはありましたか?
事務局は、各ステップ間での作業結果のとりまとめ等、苦労が多かったのではないかと思います。短期間で多くのことを検討し、とりまとめることの大変さがわかりました。反面、やみくもに期間をかけても良い結果は出せないと思います。ものごとの進め方という面で大変勉強になりました。
ステップの作業を通して、当初おぼろげだった被災時にやるべきことが、より明確に描けるようになりました。また、当事務所の経営に本当に必要な経営資源は何かを認識できました。
-BCPを策定した感想をお願いします。
BCPを策定したことによって、当事務所の業務にまったく新しい道筋をつけることができました。税理士会も災害時対応はまだ十分ではないと感じているので、これを第一歩として、相互援助協定締結が可能になるよう働きかけていきたいと思います。
税理士事務所は業務が法定されていて独自性を出しにくい事業体と考えられています。その点、被災時における特例措置等に基づいた迅速な対応は、事業の独自性と有用性を発揮できる数少ない機会であるともいえます。それゆえ、BCPは当事務所にとって必要不可欠な経営戦略であると思います。今回は発災後の特例対応に焦点を置いて対策を検討しましたが、顧客へ提供すべきサービスはこれで十分なのか、今後さらに検討を進めていきたいと思います。