コンサルタントコラム

事業継続と業務改革には本質的な共通点がある

2011年06月08日

シニアコンサルタント

英 嘉明

シニアコンサルタント 英 嘉明
こんにちは。英嘉明です。

事業継続(BCP/BCM))は地震や大事故等が発生した“非常時”における事業の早期復旧の仕組み作りであり、業務改革は“平時”における業務の新たな価値創造の仕組み作りですので、当然のことながら目的や進め方が異なり、全く別物といえます。

しかしながら、私自身がBCPプロジェクトと業務改革プロジェクトの両方を実際に経験してみて分かったことは、両者には本質的な共通点が少なからずある、ということです。

私は1990年代から2000年代にわたり、40社以上の業務改革プロジェクトに業務コンサルタントとして携わり、事業や業務の仕組みを新しく作り直すというチャレンジをご支援させていただきました。丁度失われた20年とか言われる時期にもかかわらず、それらの業務改革プロジェクトで共通して言えることは、高度成長時代の旧来のやり方を否定し、環境の変化に対応し、新たに成長する為の仕組みや業務プロセスを構築するということでした。

他方、昨年度は東京都BCP策定支援事業の支援チームの一員として中小企業様のBCP策定のお手伝いをさせていただきました。各社毎に2か月、5回の検討でBCP方針策定から演習までをやりきるという短期・集中のBCP策定プロジェクトを運営し、「災害発生時には何が起こるのか」、「誰が何をすべきか」というシミュレーションを繰り返し行い、トップを含むプロジェクトメンバーの事業継続能力の強化をご支援させていただきました。

不幸にも3月11日に東日本大震災が発生してしまった訳ですが、
「BCPを作っていたために迅速な緊急対応ができた」
「新たな課題が見つかったが直ちに対策をとった」
というような、柔軟な対応力を実証する声を多く伺うことができました。

以上のような両方の経験から、事業継続(BCP/BCM)と業務改革の推進における本質的な共通点について私なりに理解しました4点を以下にご紹介します。

◆1つ目の共通点は、いずれも「お客様は誰か?から始める」ことです。

BCPは現ビジネスモデルの継続であり、業務改革は新ビジネスモデルの構築という点で狙いは異なりますが、いずれも最終的には事業の成功が目的ですので、 「そもそも事業にとって重要なお客様は誰か?」
「それらの重要なお客様の真の要求・ニーズは何か?」
の見極めが重要と言えます。企業は多くのお客様を持っており、多種多様な要求・ニーズを受けていますが、BCPや業務改革の投資効果を高め、スピーディに実現するためには、ターゲットとするお客様を明確に定義し、特にこだわって対応すべきお客様要求を絞り込むことが大切です。

◆2つ目の共通点は、「End to Endプロセスの全体視野を持つ」ということです。

End to Endとは、“需要の発生源から供給元まで”という意味です。BCPも業務改革も対象とする事業に必要な業務を、自社内だけではなく「お客様⇔自社⇔サプライヤー」の全体について理解し、検討を行います。お客様やサプライヤーの範囲をどこまでにするか、つまりEnd to Endプロセスの両方のEndをどこにするかは、事業戦略の差別化につながる重要要因であり、経営者が判断すべき事項と言えます。お客様として直接の販売先だけではなく、その販売先の顧客(ユーザー等)を考慮することや、直接の購入先だけではなくその購入先の仕入先(部品メーカー等)までを考慮することはよくある例です。東日本大震災において、自動車の生産が第3次、第4次部品メーカーの被災により止まったことは、サプライヤーのEndとしてどこまでを管理するのか、という悩ましい問題を改めて提起しています。

◆3つ目の共通点は、「常識にとらわれない」ということです。

東日本大震災で思い知らされたように、非常時には、平時当たり前のことが当たり前ではなくなります。従ってBCPの策定や演習時には、平時の常識にとらわれない思考力が必要となります。又、実際の災害発生時にはBCPで想定しなかったことが必ず発生しますので、BCP策定内容にとどまらず、事実に即して臨機応変に考え、行動する力が必要です。業務改革では、旧来の常識は今後の非常識と考え、今までの常識を壊し、新たな構想を考え出すことが求められます。BCPも業務改革も過去の常識や経験にとらわれずに、事実を見極め、目的・目標達成に向け考え抜く力が重要と言えます。

◆4つ目の共通点は、「試行錯誤の経験から学ぶ」ということです。

「BCPは作成しただけでは無意味、演習・訓練を定期的に行ってこそ非常時に役立つ」、とは多くのBCP専門家の助言です。BCPは何もないと多くの人は忘れてしまいます。従って被災を想定した演習・訓練の場を作り、模擬的に経験することがBCPの実践力を身に着ける為に重要となります。業務改革は、旧来のやり方を否定し、新たな仕組みとやり方を実行していくプロジェクトですが、新たな取り組みには困難が伴い、また予想しなかった問題が必ず発生しますので、試行錯誤による学びの繰り返しが必要となります。BCPも業務改革も試行錯誤の経験から学ぶことの繰り返しが実践力の確立につながると言えます。

トップのリーダーシップと臨機応変な決断力、そして社員全員のチームワークと現場力が必要なことも共通していますが、それらの力量を強化するためにも、トップも社員も「お客様を知る」「全体視野を持つ」「とらわれない」「経験から学ぶ」力を身に着けることが重要と思います。

事業継続(BCP/BCM)の取り組みは、生命や資産の保護と事業の継続に役立つだけではなく、人の改革推進力を鍛える効果もあると確信しています。