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ビッグモーターをはじめとする昨今の不祥事について思うこと

掲載:2023年09月27日

執筆者:取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介

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目次

ここ数ヶ月だけでも、色々な報道がありましたね。ビッグモーター、損害保険ジャパン、ジャニーズ事務所、ビジョナリーホールディングス等々。今回はそうした報道を振り返りながら、個人的に思うところを述べたいと思います。念の為お伝えしますが、これはあくまでも個人的な見解です。

まずは中古車販売大手ビッグモーターの問題。2023年7月初め、事故車修理に伴う保険金を水増し請求し、過大に保険金を受け取っていたことが発覚。この不正行為は組織内部では1年以上前の2022年3月ごろに内部告発で表面化したと言われています。

この件は最初から問題を感じさせるものでした。まず、内部告発で表面化した問題に対してビッグモーターは損保側に整備現場の経験不足や手続きのミスなどと報告。損保側はこれに納得せず、客観性のある網羅的な調査を求めていました。私がさらに大きな違和感を感じたのは、この問題に対する同社の告知文(お知らせ)を見た時です。2023年1月に「特別調査委員会設置のお知らせ」というわずか10行程度の告知を出したかと思えば、その半年後の7月5日に「調査報告書受領に関するお知らせ」というこちらもわずか15行程度のあっさりとした告知を出したのです。調査報告書の公表はありませんでした。告知文の趣旨は次のようなものです。

「不適切行為があったと認められました。調査委員会からの再発防止策の提言は板金部門における適切な営業目標の設定やリスクマネジメントを実効的に行うための内部統制体制の整備など、5点。これを重く受け止め、改善に努めてまいります」

「コトの悪質さや重大さ」を考えると、この対応はあまりに淡白なもので、大きな違和感を覚えました。組織の中に広報部が存在しないため対応が後手に回ったという話が漏れ聞こえてきたものの、ネガティブな印象しか受けませんでした。その後7月25日に兼重・前社長が記者会見を行いましたが、いよいよおかしいぞという状態になっていったのは、皆さんもご存知の通りです。あまりにも問題が多すぎて、失敗事例としてはあまり参考にならないと思えるほどでした。細かい指摘はさておき、私は本件についてはシンプルに、起きた問題に対する企業の対外的な情報開示姿勢から企業文化が透けて見えるものだなと改めて思いました。

次に、本件と絡んで起きた損害保険ジャパンの問題です。ビッグモーターの動きにメディアが注目し始めた直後から、損害保険会社に対する責任追及の声も上がっていました。なぜなら、損害保険会社がビッグモーターを優良事業者として保険契約者にも勧めていたからです。不正行為を正すチャンスがあったのではないか、と。そんな中、ビッグモーターに社員を出向させるなど、特に強い関係性を持っていた損害保険ジャパンに厳しい目が向けられました。調べてみると、ビッグモーターによる調査報告書に書き換えられた事実があることを知りながら、最後は社長判断で、同社との取引を再開したことがわかりました。

結果から見れば、社長は「ビッグモーターとの取引をいち早く再開することによってシェアを維持できる」というリターンと、「万が一、ビッグモーターに問題があっても、その可能性は小さいだろう」というリスクを天秤にかけ、前者を選んだことになります。社長が誤った判断を下さないようにブレーキをかけられるのがコーポレートガバナンスの役割なのですが、取締役会での議論を経ず、親会社に報告もしないまま再開を決めていたということでしたから、ブレーキをふむ間もなかったと言えるかもしれません。ただ報告がなかったにせよ、ことの重大さを考えれば、意思決定後であったとしても、取締役の方から「どうなっている?」という声が上がっても良かったのではないかなとも思います。

そして、ジャニーズ事務所の性加害問題。同所は9月7日、都内で記者会見を開き元所属タレントらへの性加害を事務所として初めて認めるとともに、被害者の補償に取り組むと発表しました。直後から、同所の改善に向けた取り組みが不十分、あるいはまだ評価できる段階にはないとして、多くの企業がジャニーズ事務所のタレント起用を取りやめる意向を発表をしていますが、各社、足並みは必ずしも揃っていないようです。タレント起用を取りやめると発表した企業に対して「これまで長年、企業もこの事実に目をつぶってきたのに今更おかしい」や「タレントに罪はない」といった非難の声も上がるなど、各所で論争が起きています。

私は、このような問題に直面した際、企業はそこにどのようなステークホルダーがいて、どのような期待やニーズが生じているのかを、全方位で検討し、判断していくべきだと考えます。もちろん、その際、最も重きを置かれるべきステークホルダーは被害者です。

誰が被害者で加害者か。被害者はどう思うか。改革を評価できる段階にない加害企業にとどまる社員を被害者と見るのか加害者と見るのか。世の中はどう捉えるのか。海外のステークホルダーはどう感じるのかなど、考える必要があります。今回の場合、事件の性質上、誰がどこまで被害を受けたのかもわかりませんし、薄々知っていたけれども見て見ぬふりをして甘い蜜を吸っていた人や組織が誰なのかも、はっきりしない部分があります。まして加害者本人はすでに亡くなっています。これが、人が考える「正解」や企業の対応が大きく分かれる一因にもなっていると言えます。実際、私は対応のあり方に「正解」はないと思います。

でも、(特に企業は)「わからなくても何か行動をとるべきであること」は明らかですし、こうした複雑な背景を踏まえれば、何の説明もなしにただ「取引を中止します」と発表したり、短絡的に「取引を中止するなんて信じられない対応だ」とSNSで切り捨てたりするのは誤解を生みかねないと思います。新浪サントリーホールディングス社長など、一部の企業の社長は取材に答える形で、どうしてそのような結論に至ったのか経緯を説明をしていました。結論だけを伝えるのではなく、その判断理由について、しっかりと伝える姿勢は正しいと思います。まさにそれこそリスクコミュニケーションと言えるでしょう。

最後に、2023年5月に発覚したビジョナリーホールディングスの過大請求問題についてです。これはメガネスーパーが販売価格を上回る額を自治体に請求していた問題です。過去10年間の全ての過大請求等は、約2,700件で900万円相当であることがわかりました。朝日新聞からの取材が1つのトリガーになって判明した不祥事です。

調査報告書によれば、過大請求が起きていたのはマニュアルやPOSシステムの整備不足、該当商品の販売機会が少ないことによる弊害(現場における経験値やノウハウの残りにくさ、注目度の低さ等)が挙げられていました。もちろん金額の多い・少ないは関係なく、決してあってはいけないことですが、10年間で900万円ですから組織に強い悪意があった不正という事案ではなさそうです。

ただ、本件については、内部統制やリスクマネジメントの観点からは学びがあると感じました。リスク管理業務に関して対象製品の販売主管部署では、あくまでも給付申請書類に不備がないかのチェックと書類の自治体への送付手続きを行なっていただけだったそうです。つまり、申請金額が正しいかというチェックは抜け落ちていたのです。

同社に限らず、販売主管部門からすればどうしても「販売してナンボ」というところに意識が向きがちです。販売主管部門が、いわゆる第一線(3ラインモデルの1つ※)としてリスク管理責任を担っているという意識になりにくいのもまた事実です。一方で、リスク管理部門をはじめとする第二線に第一線のサポートや監視が期待されますが、リソース不足もあり、決められたこと以外に業務範囲を広げられないことが少なくありません。今回の不祥事も、そうやってできた穴に落ちた出来事と言えるかもしれません。そう考えますと、これは決してビジョナリーホールディングス特有の問題ではないと思うのです。同じような落とし穴が自組織でもないか、気をつけたいところですね。

また本件から得られるもう1つの学びは「利益が少ないところにこそ、リスクが眠っているかもしれない」という考え方を持つことの重要性です。収益とリスクの大きさは比例しないことは往々にしてあります。収益が低くても、リスクの大きさは変わらない、いや、収益が低いからこそリスク管理がおざなりになり、むしろ大きなリスクを抱える場合もあると言えるでしょう。

他社で起きることは自社でも起こりうる。常にその意識を持って、リスクマネジメントに活かすことが肝要ですね。

※3ラインモデルとは内部監査やリスク管理においてよく用いられるフレームワークの一つ。第一ラインが事業部門やオペレーション部門でありリスクを直接管理する責任を負う。第二ラインは、リスク管理部門やコンプライアンスなどが該当し、第一ラインのリスク管理をサポートしたり、監視したりする責任を負う。第三ラインは、内部監査部門であり、第一ラインと第二ラインの活動を独立した立場で評価する。

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