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洪水・内水(こうずい・ないすい)

掲載:2018年07月10日

改訂:2024年02月29日

執筆者:取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介

改訂者:取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介

用語集

「洪水」とは、水害の一種で“河川の氾濫”を指します。なお、堤防を境に河川が市街地の外側にあることから、「外水(または、外水氾濫)」と呼びます。

洪水に対し、堤防の内側、すなわち市街地内を流れる側溝や排水路、下水道などから水が溢れる水害を、「内水(または、内水氾濫)」と呼びます。なお、気象庁では、内水を浸水害とも呼称しています。

         

洪水/内水が起きる原因

1. 洪水のメカニズム
気象庁は、洪水を「河川の水位や流量が異常に増大することにより、平常の河道から河川敷内に水があふれること、および、破堤または堤防からの溢水が起こり河川敷の外側に水があふれること」と説明しています出典:出典:気象庁HP > 気象等の知識 > 予報用語)。

2. 内水の原因
内水は排水施設において排水機能が追い付かなくなって雨水が住宅地などへあふれることであり、都市の排水能力(時間あたり約50mm相当)を超えたときに発生する可能性があります。下水道や水路は河川とつながっているため、河川の水位が上昇することによって用水路が機能不全を起こし、水路などから雨水があふれます。時間降水量50mmを超える降雨は増加傾向にあり(図1)、内水の発生要因として懸念されています。都市部や低地で特に問題となる現象ですが、近年、局地的・短時間で雨が降る「局地的大雨」のほか、「集中豪雨」をもたらす線状降水帯などの発生により内水が注目を集めています。国内の水害被害額のおよそ4割は内水によるもの(残り6割は洪水)であり、東京都に限れば、水害被害額の7割以上を内水が占め比率は逆転します。

以上のように洪水や内水は、集中豪雨、局地的な大雨、雪解け水の急激な増加、台風による大雨や地震による堤防決壊によって発生します。ちなみに、洪水や内水のいずれかのみが起きる場合もあれば、両方の被害が同時に発生する場合もあります。

図1 全国の1時間降水量50mm以上の年間発生回数の経年変化(1976~2023年)

出典: 気象庁「全国(アメダス)の1時間降水量50mm以上の年間発生回数」

洪水/内水がもたらす被害

洪水/内水はそれぞれに特徴がありますが、どちらももたらす被害は浸水であり、ひとたびオフィスや居住区、地下施設などが集中した場所で発生すると、機器・設備などの物理的損壊や人的被害はもちろんのこと、停電や交通機関麻痺、通信遮断など、社会インフラにも甚大な被害をもたらします。実際、2000年9月の東海豪雨では、名古屋市の地下鉄が浸水で最大2日間運行停止、約47万人の足に影響を及ぼしたと言われています。また、2018年の西日本豪雨では、中国電力や四国電力の管内で多数の停電が発生しました。NTT西日本のケーブルの故障や通信ビルの水没が起こり、通信障害も発生しています。また、2020年の7月豪雨では線状降水帯が発生し、洪水が発生する数時間前に内水が発生したために避難が困難になったといわれています。

発生年 おもな原因 被害規模
令和2年7月豪雨
2020年7月(7月3日-31日)
熊本県の市町村を中心に、合わせて34府県において避難指示(緊急)及び避難勧告が発令。特に顕著な大雨となった3日から8日にかけては、線状降水帯が九州で多発。3日から14日までの総降水量は年降水量平年値の半分以上となるところも生じた。
本州付近に停滞した梅雨前線に沿って西から流れこんだ水蒸気と、日本の南で南西に張り出した太平洋高気圧の縁辺を回る南からの水蒸気が、西・東日本に大量に集まりやすい状態が継続したこと、気圧の谷の影響で上昇流が強化されたことが原因。
死者84名。行方不明者2名。九州地方、東海地方及び東北地方を中心に停電や断水が生じ、熊本県では約8,800戸(最大)の停電、約27,000戸(最大)の断水が発生。通信障害の発生などのライフライン、道路や鉄道等の交通インフラ、農作物等にも大きな被害が出た。
平成30年7月西日本豪雨
2018年6月(6月28 - 7月8日)
台風7号および梅雨前線等の影響による集中豪雨。梅雨前線が西日本付近に停滞し、そこに大量の湿った空気が流れ込んだため、西日本から東海にかけて大雨が連日続いた。長崎・福岡・佐賀にて大雨特別警報が発表。その後、広島・岡山・鳥取、京都・兵庫・岐阜・高知・愛媛に広がっていった。 死者200人超。上下水道、通信、電力などライフラインに多数の被害が発生した。
平成29年7月九州北部豪雨
2017年7月(5日 - 6日)
7月4日より西日本で線状降水帯が形成されたことにより福岡県を中心に猛烈な雨が同じ場所で継続して降ったため、記録的な大雨となった。
九州北部地方では、7月5日から6日までの総降水量が多いところで500ミリを超え、福岡県朝倉市や大分県日田市等で24時間降水量の値が観測史上1位の値を更新した。
※1
記録的な大雨により、福岡県、大分県の両県では、死者37名、行方不明者4名の人的被害の他、多くの家屋の全半壊や床上浸水など、甚大な被害が発生。発災直後には2,000名を超える避難生活者が発生した。
平成28年台風第10号
2016年8月30日
8月21日に四国の南海上で発生した台風第10号は、26日には発達しながら北上し、30日朝には関東地方に接近、30日17時半頃、暴風域を伴ったまま岩手県大船渡市付近に上陸。この台風第10号の影響で、岩手県宮古市、久慈市で1時間に80ミリの猛烈な雨となるなど、東北地方から北海道地方を中心に西日本から北日本にかけての広い範囲で大雨となった。 死者23名、行方不明者4名、住宅の全壊513棟、半壊2,280棟、一部破損1,170棟、床上浸水278棟、床下浸水1,784棟。
※2※3
平成27年9月関東・東北豪雨
2015年9月(9日 - 11日)
台風第18号から変わった温帯低気圧からの湿った暖かい空気と日本列島に接近中の台風17号からの湿った風がぶつかり合い、関東地方で線状降水帯を形成。9月10日から11日にかけて、関東地方や東北地方では16の地点で、24時間降水量が観測史上最多を記録した。 常総市では、鬼怒川の堤防が決壊し、市面積の3分の1が浸水。多数の孤立者、要救助者が発生した他、電力や水道、鉄道等の社会インフラにも被害が発生。常総市における人的被害は、死者2名、負傷者30名。 ※3※4
※1:内閣府「防災情報ページ」
※2:内閣府「平成28年台風第10号による被害状況等について」
※3:消防庁「災害対策本部報告」
※4:国土交通省「『平成27年9月関東・東北豪雨』の鬼怒川における洪水被害等について」

洪水/内水に向けた国の対策

洪水/内水ともに政府や地方自治体によるソフト・ハード両面からの対策が進められています。
ソフト面での対策としては、警報など避難を促す仕組みの整備や、洪水/内水が起こりうる箇所を示した洪水/内水のハザードマップなどの作成・提供が進められています。例えば以下の図は、荒川と江戸川が氾濫するおそれがある場合の避難行動について、江東5区が共同で作成した水害ハザードマップです。

図2 江東5区大規模水害ハザードマップ

ただ、洪水ハザードマップに比べて内水ハザードマップの策定率は低く、課題となっています(図3)。令和4年版防災白書によると、洪水ハザードマップの公表率は86%である一方、内水ハザードマップの公表率は7%にとどまっています(それぞれ想定最大規模降雨に対応したハザードマップの公表率)。

図3 ハザードマップの整備状況(2021年11月現在)

出典:内閣府「令和4年版 防災白書」

とりわけ災害警報避難を促す情報に関しては、近年の水害増加傾向に鑑み強化が図られています。具体的には、気象庁は2021年6月から、線状降水帯の発生を伝える「顕著な大雨に関する気象情報」の運用を始めました。線状降水帯は発生の予測が難しく、当初は「実況」のみでしたが、2023年5月からは最大30分程度前倒しした発表も行うようになりました。これと並行して、2022年6月からは「線状降水帯による大雨の半日程度前からの呼びかけ」を運用しています。実際には、線状降水帯が発生しないこともありましたが、大雨が近づいていることを警戒する有益な情報です。2024年からは新たなスーパーコンピューターの導入によって予測精度を高め、発表する対象範囲も絞り込み、都道府県単位で発表できるようになる計画です。気象庁が発信する情報は大きな災害が起こるたびに改善が図られています。2013年8月から運用されている「特別警報」は2011年に紀伊半島を襲った「台風12号」などを教訓としています。なお、特別警報とは、従来の発表基準をはるかに超える豪雨や大津波などが予想され、重大な災害の危険性が著しく高まっている場合、すなわち、数十年に一度しかないような非常に危険な状況が予想される場合に警告する発表を指します。

※詳しくは、気象庁HP > 気象等の知識 > 特別警報についてを参照ください。

企業に求められる対策

洪水や内水に備え、企業は対策を取る必要がありますが、一般的には、人命を含む企業の重要資産保護を図ることを目的とした「緊急時対応」と、限られた資源の中で効果的・効率的に重要業務の継続を図ることを目的とした「事業継続」の大きく2つの観点での取り組みが求められます。

「緊急時対応」では、洪水/内水被害が発生した(あるいは発生しそうな)場合に、いち早く、社内外の関係者にアラートを上げ、人員の安全を確保し、重要な施設・設備の被害防止となる措置(土嚢をつむなど)をとれる態勢を整備しておくことが必要です。そのためには、先述した気象庁などが定める警報の内容や発表基準などを正しく理解し、社内の動きと整合性を図っておくことが重要です。また、内水/洪水や土砂災害のハザードマップ(※)を参考にし、万が一、自社が被害を受ける可能性が高いことが確認された場合には、発電機や電子機器など水に弱い重要資産を少しでも高位に移動するなど、平時から被害の発生可能性を低くする活動をしておくことも有効です。なお、ハザードマップの重要性については、2018年7月の西日本豪雨における岡山県真備町の浸水被害や、2021年7月に熱海市で起きた土砂災害がハザードマップの示すとおりに発生したことからも、おわかりいただけると思います(図4)。

※ハザードマップは、国土交通省ハザードマップポータルサイトなどから入手することが可能です。

図4 2018年7月西日本豪雨による岡山県真備町の浸水範囲

近年、気象予報が発達し、台風の場合は事前準備ができる環境にあります。国土交通省は企業や個人などに、タイムライン(防災行動計画)の策定を推奨しています(※)。タイムラインとは、災害の発生を前提にあらかじめ被災状況を想定し、防災行動を時系列に整理した計画で「防災行動計画」ともいいます。タイムラインの導入により、起こりうる災害に備え早めに対応を促す効果が期待されます。

※詳しくは、国土交通省>タイムラインをご参照ください。

他方、「事業継続」の観点では、不幸にして洪水/内水により自社に大きな被害が起きてしまった場合――すなわち、実際に浸水が起き施設機能が麻痺(停電など)してしまった場合、交通機関麻痺により従業員の出社が見込めなくなってしまった場合、あるいは、取引先からの搬入ができなくなってしまった場合――などに、どのように重要業務を継続するか、その対策を検討しておくことが必要です。

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