洪水・内水(こうずい・ないすい)
| 執筆者: | 取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介 |
| 改訂者: | ニュートン・コンサルティング 編集部 |
「洪水」とは、水害の一種で“河川の氾濫”を指します。なお、堤防を境に河川が市街地の外側にあることから、「外水(または、外水氾濫)」と呼びます。
洪水に対し、堤防の内側、すなわち市街地内を流れる側溝や排水路、下水道などから水があふれる水害を、「内水(または、内水氾濫)」と呼びます。なお、気象庁では、内水を浸水害とも呼称しています。
洪水・内水が起きる原因
1. 洪水のメカニズム
気象庁は、洪水を「河川の水位や流量が異常に増大することにより、平常の河道から河川敷内に水があふれること、および、堤防などから河川敷の外側に水があふれること」と定義しています(※1)。
(※1)気象庁「洪水、大雨浸水に関する用語」
2. 内水の原因
内水は排水施設において排水機能が追いつかなくなって雨水が住宅地などへあふれることであり、都市の排水能力(時間あたり約50mm相当)を超えたときに発生する可能性があります。下水道や水路は河川とつながっているため、河川の水位が上昇することによって用水路が機能不全を起こし、水路などから雨水があふれます。時間降水量50mmを超える降雨は増加傾向にあり(図1)、内水の発生要因として懸念されています。都市部や低地で特に問題となる現象ですが、近年、局地的・短時間で雨が降る「局地的大雨」のほか、「集中豪雨」をもたらす線状降水帯などの発生により内水が注目を集めています。国内の水害被害額のおよそ4割は内水によるもの(残り6割は洪水)であり、東京都に限れば、水害被害額の7割以上を内水が占め、比率は逆転します。
以上のように洪水や内水は、集中豪雨、局地的な大雨、雪解け水の急激な増加、台風による大雨や地震による堤防決壊によって発生します。ちなみに、洪水や内水のいずれかのみが起きる場合もあれば、両方の被害が同時に発生する場合もあります。
図1:全国の1時間降水量50mm以上の年間発生回数の経年変化(1976~2025年)
洪水・内水がもたらす被害
洪水・内水はそれぞれに特徴がありますが、どちらももたらす被害は浸水であり、ひとたびオフィスや居住区、地下施設などが集中した場所で発生すると、機器・設備などの物理的損壊や人的被害はもちろんのこと、停電や交通機関の麻痺、通信遮断など、社会インフラにも甚大な被害をもたらします。実際、2000年9月の東海豪雨では、名古屋市の地下鉄が浸水で最大2日間運行停止、約47万人の足に影響を及ぼしたといわれています。また、2018年の西日本豪雨では、中国電力や四国電力の管内で多数の停電が発生しました。NTT西日本のケーブルの故障や通信ビルの水没が起こり、通信障害も発生しています。さらに、2020年の令和2年7月豪雨では線状降水帯が発生し、洪水が発生する数時間前に内水が発生したために避難が困難になったといわれています。
【表】洪水・内水をもたらした主な災害と被害の概要
| 災害 | 概要と主な原因 | 被害規模 |
|---|---|---|
| 令和2年7月豪雨(※2) 2020年7月3日~31日 |
熊本県の市町村を中心に、合わせて34府県において避難指示(緊急)および避難勧告が発令された。特に顕著な大雨となった3日から8日にかけては、線状降水帯が九州で多発。3日から14日までの総降水量は年降水量平年値の半分以上となるところも生じた。 本州付近に停滞した梅雨前線に沿って西から流れこんだ水蒸気と、日本の南で南西に張り出した太平洋高気圧の縁辺を回る南からの水蒸気が、西・東日本に大量に集まりやすい状態が継続したこと、気圧の谷の影響で上昇流が強化されたことが原因。 |
死者84名、行方不明者2名。九州地方、東海地方および東北地方を中心に停電や断水が生じ、熊本県では約8,800戸(最大)の停電、約27,000戸(最大)の断水が発生。通信障害の発生などのライフライン、道路や鉄道などの交通インフラ、農作物などにも大きな被害が出た。 |
| 平成30年7月西日本豪雨(※3) 2018年6月28日~7月8日 |
台風7号および梅雨前線などの影響による集中豪雨。梅雨前線が西日本付近に停滞し、そこに大量の湿った空気が流れ込んだため、西日本から東海にかけて大雨が連日続いた。長崎・福岡・佐賀にて大雨特別警報が発表。その後、広島・岡山・鳥取、京都・兵庫・岐阜・高知・愛媛に広がっていった。 | 死者200人超。上下水道、通信、電力などライフラインに多数の被害が発生した。 |
| 平成29年7月九州北部豪雨(※4) 2017年7月5日~6日 |
7月4日より西日本で線状降水帯が形成されたことにより福岡県を中心に猛烈な雨が同じ場所で継続して降ったため、記録的な大雨となった。 九州北部地方では、7月5日から6日までの総降水量が多いところで500ミリを超え、福岡県朝倉市や大分県日田市などで24時間降水量の値が観測史上1位の値を更新した。 |
記録的な大雨により、福岡県、大分県の両県では、死者37名、行方不明者4名の人的被害の他、多くの家屋の全半壊や床上浸水など、甚大な被害が発生。発災直後には2,000名を超える避難生活者が発生した。 |
| 平成28年台風第10号(※5) 2016年8月30日 |
8月21日に四国の南海上で発生した台風第10号は、26日には発達しながら北上し、30日朝には関東地方に接近、30日17時半頃、暴風域を伴ったまま岩手県大船渡市付近に上陸。この台風第10号の影響で、岩手県宮古市、久慈市で1時間に80ミリの猛烈な雨となるなど、東北地方から北海道地方を中心に西日本から北日本にかけての広い範囲で大雨となった。 | 死者23名、行方不明者4名、住宅の全壊513棟、半壊2,280棟、一部破損1,170棟、床上浸水278棟、床下浸水1,784棟。 |
| 平成27年9月関東・東北豪雨(※6) 2015年9月9日~11日 |
台風第18号から変わった温帯低気圧からの湿った暖かい空気と日本列島に接近中の台風17号からの湿った風がぶつかり合い、関東地方で線状降水帯を形成。9月10日から11日にかけて、関東地方や東北地方では16の地点で、24時間降水量が観測史上最多を記録した。 | 茨城県常総市では、鬼怒川の堤防が決壊し、市面積の3分の1が浸水。多数の孤立者、要救助者が発生したほか、電力や水道、鉄道などの社会インフラにも被害が発生。常総市における人的被害は、死者2名、負傷者30名。 |
ニュートン・コンサルティングが作成
(※2)内閣府「令和3年版防災白書 令和2年7月豪雨による災害」、(※3)気象庁「平成30年7月豪雨(前線及び台風第7号による大雨等)」、(※4)内閣府「平成29年7月九州北部豪雨の被害状況と対応等について」、(※5)内閣府「平成28年台風第10号による被害状況等について」、(※6)国土交通省「『平成27年9月関東・東北豪雨』の鬼怒川における洪水被害等について」
洪水・内水に向けた国や自治体の対策
洪水・内水ともに政府や地方自治体によるソフト・ハード両面からの対策が進められています。
ソフト面での対策としては、警報など避難を促す仕組みの整備や、洪水・内水が起こり得る箇所を示した洪水・内水のハザードマップなどの作成・提供が進められています。例えば以下の図は、荒川と江戸川が氾濫するおそれがある場合の避難行動について、東京都の江東5区(墨田区・江東区・足立区・葛飾区・江戸川区)が共同で作成した水害ハザードマップです。
図2:江東5区大規模水害ハザードマップ
ただ、洪水ハザードマップに比べて内水ハザードマップの策定率は低く、課題となっています(図3)。令和4年版防災白書によると、洪水ハザードマップの公表率は86%である一方、内水ハザードマップの公表率は7%にとどまっています(それぞれ想定最大規模降雨に対応したハザードマップの公表率)。
図3:ハザードマップの整備状況(2021年11月現在)
災害への警戒を呼びかける気象警報や避難を促す情報に関しては、近年の水害増加傾向に鑑み強化が図られています。特に線状降水帯については発生の予測が難しく、段階的に改善が行われています。2026年5月から運用が開始された新たな防災気象情報では、線状降水帯が発生する可能性を事前に知らせる「線状降水帯半日前予測」「線状降水帯直前予測」と、発生を知らせる「線状降水帯発生情報」に整理されました。従来より情報のリードタイムを延ばし、より適切な避難行動につなげるねらいがあります。
なお、2026年5月からの新たな防災気象情報の運用としては、ほかにも様々な変更が行われました。洪水に関しては「洪水警報」と「洪水注意報」が廃止されました。今後は、国土交通省や都道府県が指定する大きな河川の洪水予報は「氾濫」に関する警報・注意報として、中小河川の洪水予報は「大雨」に関する警報・注意報として発表されます。中小河川においては、洪水発生の危険度を予測する洪水キキクルの活用も推奨されています。
また、河川氾濫、大雨、土砂災害、高潮の警報・注意報に対して「警戒レベル」の数字を付記する名称に変更するとともに、河川氾濫については「特別警報(レベル5氾濫特別警報)」が新設されました。特別警報とは、従来の発表基準をはるかに超える豪雨や大津波などが予想され、重大な災害の危険性が著しく高まっている場合、すなわち、数十年に一度しかないような非常に危険な状況が予想される場合に発表し、最大級の警戒を呼びかける防災情報です(※)。
※詳しくは、気象庁HP「特別警報について」を参照ください。
企業に求められる対策
洪水や内水に備えて、企業は対策を講じる必要があります。一般的には、人命を含む企業の重要資産保護を図ることを目的とした「緊急時対応」と、限られた資源の中で効果的・効率的に重要業務の継続を図ることを目的とした「事業継続」の大きく2つの観点での取り組みが求められます。
「緊急時対応」では、洪水・内水被害が発生した(あるいは発生しそうな)場合に、いち早く社内外の関係者にアラートを上げ、人員の安全を確保し、重要な施設・設備の被害防止となる措置(土嚢を積むなど)をとれる態勢を整備しておくことが必要です。そのためには、先述した気象庁などが定める警報の内容や発表基準などを正しく理解し、社内の動きと整合性を図っておくことが重要です。また、内水・洪水や土砂災害のハザードマップを参考にし、自社が被害を受ける可能性が高いことが確認された場合には、発電機や電子機器など水に弱い重要資産を少しでも高位に移動するなど、平時から被害の発生可能性を低くする活動をしておくことも有効です。
なお、ハザードマップについては、平成30年7月豪雨(西日本豪雨)における岡山県真備町の浸水被害や、2021年7月に熱海市で起きた土砂災害がハザードマップの示すとおりに発生したことからも、改めて重要性が認識されています(図4)。ハザードマップは、国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」などから入手することが可能です。
- ▼ 国土交通省「ハザードマップポータルサイト」
- https://disaportal.gsi.go.jp/
図4:平成30年7月豪雨(西日本豪雨)による岡山県真備町の浸水範囲
近年、気象予報が発達し、台風については事前準備ができる場合もあります。国土交通省は企業や個人などに、タイムライン(防災行動計画)の策定を推奨しています(※7)。タイムラインとは、災害の発生を前提にあらかじめ被災状況を想定し、防災行動を時系列に整理した計画で「防災行動計画」ともいいます。タイムラインの導入により、起こり得る災害に備え早めに対応を促す効果が期待されます。
(※7)国土交通省「タイムライン」
他方、「事業継続」の観点では、不幸にして洪水・内水により自社に大きな被害が起きてしまった場合――すなわち、実際に浸水が起き施設機能が麻痺(停電など)してしまった場合、交通機関の麻痺により従業員の出社が見込めなくなってしまった場合、あるいは、取引先からの搬入ができなくなってしまった場合――などに、どのように重要業務を継続するか、その対策を検討しておくことが必要です。