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災害救助法

掲載:2021年08月25日

執筆者:コンサルタント 田村 優作

ガイドライン

「災害救助法」は、地震や洪水などの災害が発生した後の応急救助に対応する法律です。主な目的は、国が地方公共団体、日本赤十字社及び国民の協力のもとに、応急的に必要な救助を行い、被災者の保護と社会秩序の保全を図ることです。本稿では、災害救助法の概要や適用事例について解説します。災害大国である日本では、誰もが「被災者」になる可能性があります。有事の際にどのような応急救助が受けられるのか、日頃から確認しておきましょう。

         

概要

日本の災害対策法制は、災害の予防、発災後の応急期の対応及び災害からの復旧・復興の各ステージを網羅的にカバーする「災害対策基本法」を中心に、各ステージにおいて、災害類型※1に応じて各々の個別法によって対応する仕組みとなっています。その中の1つとして、応急救助に特化したものとして1947年に施行されたのが「災害救助法」です。災害救助法が適用されると、救助の実施主体が市町村から都道府県に移り、発生する費用は都道府県と国が負担することになります。

※1 「地震/津波」「火山」「風水害」「地滑り・崖崩れ・土石流」「豪雪」「原子力」の6種類の災害類型に分けられます

基本原則

災害救助法には以下の5つの基本原則が存在します。

  1. 平等の原則
    • 現に救助を要する被災者に対しては、事情の如何を問わず、また経済的な要件を問わずに、等しく救助の手を差し伸べなければならない。
  2. 必要即応の原則
    • 応急救助は被災者への見舞い制度ではないので、画一的、機械的な救助を行うのではなく、個々の被災者ごとに、どのような救助がどの程度必要なのかを判断して救助を行い、必要を超えて救助を行う必要はない。
  3. 現物給付の原則
    • 法による救助は確実に行われるべきであり、物資や食事、住まい等についての法による救助は、現物をもって行うことを原則としている。
  4. 現在地救助の原則
    • 発災後の緊急時に円滑かつ迅速に救助を行う必要があることから、被災者の現在地において実施することを原則としている。
    • 住民はもとより、旅行者、訪問客、土地の通過者等を含め、その現在地を所管する都道府県知事が救助を行う。
  5. 職権救助の原則
    • 応急救助の性質からして被災者の申請を待つことなく、都道府県知事がその職権によって救助を実施する。

応急救助の種類

応急救助とは、発災後の被災者の救助を目的とした一時的な救助活動のことです。災害救助法においては以下の12種類の活動が明示されています。

  1. 避難所の設置
  2. 応急仮設住宅の供与
  3. 炊き出しその他による食品の供与
  4. 飲料水の供給
  5. 被服、寝具その他生活必需品の供与・貸与
  6. 医療・助産
  7. 被災者の救出
  8. 住宅の応急修理
  9. 学用品の供与
  10. 埋葬
  11. 死体の探索・処理
  12. 障害物の除去

被災後の生活で特に重要となる4点について、詳細に説明します。

避難所の設置

避難所は「地域の支援拠点としての機能を有するもの」として設置されるため、実際に避難する場所としての機能以外に、救援物資の提供場所としての機能も担います。「避難所に避難することで生活に必要な物資を受け取れる」という認識をされている方が多いのですが、実際は避難所に避難していなくても物資を受け取ることができます。つまり、自宅で避難生活を送っている被災者も、避難所に救援物資を受け取りに行っても構わないということです。その理由として、各々の事情により避難所へ避難することができない人がいることや、昨今だとコロナ禍で避難所の受け入れ人数を制限していることなどもあります。

応急仮設住宅の供与

通常、被災した場合は緊急的に避難所に避難します。しかし、避難所は「短期的な避難場所」との位置づけのため、住居を失った被災者は、当面の生活ができる場所へと移る必要があります。それが応急仮設住宅です。自らの資金では住宅を得ることができない人を対象に、自治体が発災から20日以内に着工し、最大2年間利用することができる「建設型応急住宅」のほか、災害発生日から速やかに提供される「賃貸型応急住宅」(いわゆる「みなし仮設」)やトレーラーハウス、コンテナハウス等も応急仮設住宅として供与されます。住居費は無料ですが、水道代や光熱費は自己負担になります。

医療・助産

「⑥医療・助産」の対象者は災害により医療を受ける手段を失った人であり、医療が必要となった理由が災害ではなくても問題はありません。基本的には救護班によって医療(施術)が行われますが、やむを得ない場合は、病院や診療所で医療を受けることができます。この際、医療を受ける人の経済的要件は問われません。経済的に余裕のある人でも、医療を受ける手段を失っているため、救護の対象となります。

住宅の応急修理

住宅の応急修理制度の趣旨は、日常生活に必要最小限度の部分を応急的に修理することで、元の住家に引き続き住むことを目的としたものです。支援対象者の基準は、①災害のため住家が半壊(焼)し、自らの資力では応急修理をすることができない者、②大規模な補修を行わなければ居住することが困難な程度に住家が半壊(焼)した者であり、1世帯当たり595,000円を上限に支給されます。借家等は、通常はその所有者が修理を行うものであるとされ支援対象にはなりませんが、事情により所有者が修理を行わず、居住者の資力では修理しがたい場合は対象となり得ます。一方で、会社の寮や社宅、公営住宅等は所有者が実施すべきであるとされているため対象とはなりません。

災害救助法の適用基準

では、どういった状態の時に災害救助法は適用されるのでしょうか。災害救助法の適用は都道府県知事が市町村から報告される被害情報を確認し、内閣府へ報告後、災害が発生した市町村ごとの区域を定めて決定します。適用に当たっては主に2つの基準があります。

1つ目は、域内の人口に対してどれだけの住家が被害を受けたかで判断する適用基準です(令1号~3号基準)。この適用基準の特徴としては、市町村ごとに客観的な基準が明確であることから、適用の判断がしやすい反面、住家被害の確定には一定の期間を要するため、発災後ただちに判断することが困難です。

2つ目は、多数の人が生命・身体への危害(おそれを含む)を受けた場合に適用する基準です(令4号基準)。こちらの適用基準の特徴としては、発災後の迅速な適用が可能である反面、客観的な基準があるわけではないことから、被害の程度が不明確な状況での適用がためらわれる傾向があります。

災害救助法の目的である「被災者の保護」と「社会の秩序の保全」のためには迅速な適用が求められることから、次項で挙げる過去3年間の実例の通り、4号基準での適用例が多くなっています。

具体的な適用事例

災害は地震や洪水といった自然災害と、工業事故や戦争などの人為災害の2つに大別することができます。近年の災害救助法の適用事例は、全て前者を対象にしたケースです。具体的には以下のような事例が挙げられます。

【表 令和元年以降の災害救助法の適用事例】

災害の内容 適用自治体 適用基準
令和元年 令和元年8月の前線に伴う大雨 佐賀県 20市町村 4号
令和元年台風第15号の影響による停電 千葉県 41市町村 4号
令和元年台風第15号に伴う災害 東京都 1市町村 1号
令和元年台風第19号に伴う災害 岩手県 14市町村 宮城県 35市町村
福島県 55市町村 茨城県 30市町村
栃木県 21市町村 群馬県 30市町村
埼玉県 48市町村 東京都 27市区町村
神奈川県 19市町村 新潟県 3市町村
山梨県 20市町村 長野県 44市町村
静岡県 2市町村
1、2、4号
令和2年 令和2年7月3日からの大雨 山形県 31市町村 長野県 14市町村
岐阜県 6市町村 島根県 1市町村
福岡県 4市町村 佐賀県 1市町村
熊本県 26市町村 大分県 4市町村
鹿児島県 11市町村
4号
令和2年台風第14号に伴う災害 東京都 2市町村 4号
令和2年12月16日からの大雪 新潟県 2市町村 4号
令和3年 令和3年1月7日からの大雪 秋田県7市町村 新潟県6市町村
富山県4市町村 福井県5市町村
4号
令和3年福島県沖を震源とする地震 福島県17市町村 4号
令和3年栃木県足利市における大規模火災 栃木県1市町村 4号
令和3年新潟県糸魚川市における地滑り 新潟県1市町村 4号
島根県松江市における大規模火災 島根県1市町村 4号
令和3年7月1日からの大雨 静岡県1市町村 鳥取県1市町村
島根県4市町村 鹿児島県5市町村
4号
台風第9号から変わった温帯低気圧に伴う大雨 青森県3市町村 4号
令和3年8月11日からの大雨による災害 長野県6市町村 島根県3市町村
広島県4市町村 福岡県3市町村
佐賀県3市町村 長崎県2市町村
4号

※2021年8月時点

出典:内閣府「災害救助法の適用状況」を基に筆者作成

 

上記の通り、令和元年以降、15件の災害に対して災害救助法が適用されました。災害の内訳としては台風や大雨に適用されるケースが多くなっています。また、日本はどの地域においても自然災害が発生する可能性が高いため、適用自治体が様々な地域に及んでいるのも特徴です。「明日は我が身」との意識を持ち、被災時に取るべき行動や受けられる可能性のある支援を認識しておくことが重要です。

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