政府の地震調査委員会は9月26日、南海トラフ地震の発生確率を見直し、今後30年以内の発生確率として「60~90%程度以上」と「20~50%」の2通りを示しました。これまでは今年1月に発表された「80%程度」のみでした。
地震調査委員会は、地震の発生確率などを記した「地震活動の長期評価」を公表しています。南海トラフ地震に関する長期評価は、東日本大震災を踏まえ2013年に改訂された第2版が最新でした。今回、全面的に改訂するほどの新たな研究成果はないものの、一部で得られた知見に対応するため確率計算モデルを見直し、「第2版一部改訂」版として公開しました。
公開された第2版一部改訂版によると、高知県室津港での隆起量について従来の評価で用いた値に不確実性があるとの指摘があり、「推定値に大きな幅が生じ得る」とされました。評価の前提となっていた基礎データに誤差や不確実性があることがわかったため、隆起量データの不確実性を改めて定量化しました。
この修正は計算モデルの見直しにもつながり、不確実性を盛り込むため、従来の「時間予測モデル」と「BPTモデル(Brownian Passage Time model)」を融合した新しい「すべり量依存BPTモデル(SSD-BPT:Slip-Size Dependent BPT model)」を採用しました。このモデルによる評価では発生確率は「60~90%程度以上」となります。
他方、過去の地震時の隆起量データが存在しない他の海溝型地震の評価では「BPTモデル」が用いられています。南海トラフ地震についても、このモデルで評価した場合は「20~50%」という結果になりました。
両モデルの推定値は異なりますが、それぞれの信頼性について現在の科学的知見では「優劣をつけることはできない」と判断されました。そのため発生確率は2通りを併記することになりました。ただ、いずれの計算方法による確率も、海溝型地震のランク付けで最も高い「Ⅲランク」に分類されます。国や地方公共団体が防災対策を進める上では「Ⅲランク」であることを示すことに加え、具体的な値を示す必要がある場合には「60~90%程度以上」を強調することが望ましいとしました。