南海トラフ地震臨時情報への各社対応
掲載:2024年08月16日
執筆者:エグゼクティブコンサルタント 久野 陽一郎
コラム
2024年8月8日16時43分に、宮崎県日向灘で最大震度6弱の地震が発生しました。約2時間30分後に気象庁より「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が初めて発表され、社会に大きな衝撃を与えました。1週間が経過し、幸い、南海トラフを震源とする大きな地震は発生せず、政府としての「特別な注意のよびかけ」を終了しています。各企業はこのような事態に直面し、どのように対応すべきか悩んだのではないでしょうか。
そこで、BCPを何年も推進している弊社のお客様20社に臨時情報を受けての対応方針を伺いました。本コラムでは、概ね共通する対応についてお伝えいたします。
2024年8月の南海トラフ臨時情報の発表
臨時情報に関する気象庁と日本政府の対応
本臨時情報は、地震発生15分後に気象庁が今回の地震と南海トラフ地震との関連性について検討を開始しました。その結果、地震発生後の約2時間30分後の19時15分に大規模地震の発生可能性が平常時に比べて相対的に高まっていると判断し、「巨大地震注意」を発表しました。その後、気象庁からは毎日15時30分に南海トラフ臨時情報が更新されています。
本臨時情報を受け、日本政府では関係省庁災害対策会議において、各省に対して、地方自治体や関係機関と緊密に連携し、警戒体制を構築しました。
その後、臨時情報発表から1週間が経過し、政府は8月15日17時に臨時情報の呼びかけを終了しました。(2024年8月16日現在)
各社の対応
日々BCPを推進している弊社のお客様の多くは、臨時情報を受けて早期に対応をしていたことが分かりました。臨時情報が発表された翌日の8月9日(金)には、多くのお客様が全役職員に対して、注意喚起の一斉通達を行っています。連休およびお盆を翌週に控えていたため、金曜日中に方針展開を行ったと推測されます。
下表は業界別に各社対応方法をまとめたものです。
業界 | 小売り・ サービス |
通信・IT | 製造 | 商社 | 金融・ 不動産 |
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対策本部 の招集 |
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注意喚起 |
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勤務形態 |
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出張規制 |
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イベント の開催 |
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事業継続策 |
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業種やビジネスモデルが異なる中、各社の対応は概ね下記となりました。
- 一部企業では対策本部を招集。それ以外の企業は事務局と対策本部長で対応方針を検討
- 家庭の防災、会社の防災手順を案内
- 通常通りの勤務または、在宅勤務推奨
- 出張は規制せず。可能な範囲で延期を推奨
- イベントは予定通り開催
- 各事業部門、グループ会社に対してBCPの確認を促す
対策本部は必ずしも設置しておらず、対策本部長と事務局が対応方針を検討し、迅速に全社へ方針を周知するケースが多かったようです。
加えて、夏休みシーズンでもあるため、役職員の安全確保に関する下記案内を行っています。
- 備蓄品の用意、自宅近隣の避難場所とハザードマップの確認など家庭の防災を啓蒙
- プライベートでの旅行や移動時に被災した場合の行動手順をリマインド
- 安否報告手順の周知
また、安否報告については、本年元旦に発生した能登半島地震の反省を踏まえて、改善していました。
多くの企業は安否確認システムの発報基準を役職員が所属している拠点所在地が震度5強または6弱以上にあった場合に自動発報するという設定になっています。そのため、移動中や旅行時に被災した場合には、安否確認メールがその本人には発報されない可能性があります。今回の臨時情報を受けて、移動中・旅行中に被災した場合に、安否を上長へ報告またはシステムを使って手動で報告することを周知しています。
今後に備えて
今回の対応を踏まえて、今一度、2つのことを考えていく必要があります。
南海トラフ地震発生に向けての自己点検
南海トラフ地震が発生した場合には、地震による揺れに加えて、沿岸部では大きな津波の発生が予想されます。そのため、被害を最小限に抑え、事業を継続・早期復旧できるよう、下記の対応を今一度確認しましょう。
- 1. 家庭の防災
- 年間の労働時間が約2,000時間とすると、勤務時間は1年の中で約4分の1といわれています。加えて在宅勤務や休暇などを考慮すると、オフィス以外の場所にいる時に被災する可能性の方が高くなります。そのため、下記4点を軸に、役職員がそれぞれの家庭の防災を改めて見直すよう促すことが大事です。
- 備蓄品の確保
- ハザードマップの確認
- 避難場所の確認
- 家族との取り決め(家族と連絡が取れない場合の行動方針)
- 2. 勤務中の対応
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- 避難方針の確認:オフィスビルや工場、店舗の避難方針を確認。特に、津波の到達が予想される地域は高台や避難場所を把握しておきましょう
- 自衛消防隊の対応手順の確認:大きな揺れが発生しますので、初期消火、応急救護、閉じ込められ者の救助、避難誘導が適切に実施できるよう手順を確認しましょう
- 3. 情報の収集
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- 収集すべき情報の洗い出し:被災地地域が広域に渡るため、収集すべき情報量は非常に多くなります。そのため、情報種別ごとに誰が担当するか、今一度確認しておきましょう
- 通信不可時の対応方針:最悪の状況として、被災地と通信が繋がらない可能性があります。通信不可時に最低限行うことを各拠点と決めておきましょう
- 4. 対策本部の運営
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- 設置手順:夜間や休日に発災することを想定し、誰と誰がコミュニケーションを取って対策本部の設置判断および招集を行うか、手順を確認しましょう。その際に使用するコミュニケーションツールの確認も忘れずに
- 意思決定事項:発災した直後は情報収集が中心となりますが、限られた情報の中で、意思決定を行う必要があります。対策本部の設置場所によって、被災地での対応と被災地への支援を行うことが考えられますが、下記の大方針について今一度整理しておきましょう
- 帰宅方針・出社(勤務)方針
- BCP発動判断
- 対外的な情報発信
- 被災拠点への支援
- 5. BCPの切替手順
- オールハザード型でBCPを策定している場合は、リソースごとに代替策・復旧策を整備していると推察します。南海トラフ地震の揺れと津波により、どのリソースが被災するかをシミュレーションし、代替・復旧策の実施手順を確認しておきましょう。
事象別のBCPである場合には、時系列に沿って対応手順を確認し、発災直後のコミュニケーション方法を今一度確認ください。
再現性のある対応を構築
今回、対応方針を打ち出すことはできたけれども、臨時情報の発表を受けて慌てて対応した、或いは動き出しが遅かったなど、企業によっては反省点が見つかったと思います。また、同じような事象が発生した際に、再現性をもって対応できるかは不安があるとの声も聞いております。
そこで、下記3つの観点で、対応を整理すると良いでしょう。
- 1. 対策本部事務局が動き出すトリガー
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- 情報収集を開始するタイミング
- 情報収集する際の役割分担
- 対策本部長や経営者への報告事項とタイミング
- 2. 収集すべき情報
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- 気象庁の情報
- 政府や自治体の対応方針
- インフラ提供会社の方針(公共交通機関、電力・ガス・水道、通信など)
- 3. 全社へ周知する事項
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- 注意喚起
- 勤務方針
- 出張・イベント開催方針
- 災害発生時の行動手順
今後、再び臨時情報が発表された場合や、他の進行型災害の予兆を検知した場合に、慌てず、迅速に、再現性を持った対応ができるよう、今回の振り返りを実施することを推奨します。
南海トラフ地震や首都直下地震、年々脅威が増す風水害など、来たる大規模災害に備え、今できることに取り組んでいきましょう。
参考文献
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- 南海トラフ
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