内閣府の中央防災会議は7月1日、南海トラフ地震防災対策推進基本計画を改定しました。今回の見直しは、有識者からなる「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」により検討された、新たな被害想定と近年の社会情勢を踏まえたものとなっています。
南海トラフ地震の災害の特徴については、新たに被害が広域かつ甚大になる理由について「高齢化や人口減少等の社会的要因に伴い災害対応に係る人的・物的資源に限りがあること」「大都市や離島・半島、孤立可能性地域等の地理的特性による課題があること」が追記されました。
この災害の特徴を反映させた新たな被害想定では、震度6弱以上の揺れ、または津波高3メートル以上が想定されるのは、31都府県の764市町村に及びます。その範囲は国土の約3割、人口は全国の約5割を占め、サプライチェーンの寸断に伴う日本経済への影響が深刻化する懸念も指摘されています。そのため、行政だけでなく企業、地域および個人が当事者意識を持ち、地震対策に主体的に取り組むことが必要であると強調しました。
国民一人ひとりの防災意識を高めるために重視されているのが防災対策の推進です。防災対策の基本方針においては、「命を守る」対策と「命をつなぐ」対策を重点的に推進するほか、「自分の命は自らが守る」という意識の下、国民主体の取り組みによる防災意識の高い地域社会の構築などが明示されました。
これら基本方針に基づき、新たに掲げられた今後10年の減災目標は、最大29.8万人の想定死者数を8割減、最大235万棟の想定建築物の全壊焼失棟数を5割減と設定されました。この減災目標を達成するために実施するべき具体的な対策として、中央防災会議は以下の5つを挙げています。
- 社会全体における防災意識の醸成・総合的な防災体制の構築
- 被害の絶対量を減らす取り組み
- ライフライン・インフラの強化
- 救助体制・救急救命を強化する施策・防災DX
- 被災者支援、災害関連死防止の対策
今回の変更では、5つの対策に沿った具体的な目標が48項目から205項目に拡充され、取り組むべき防災対策がより明確になっています。ハード対策は、住宅の耐震化や家具の固定、ガラス飛散防止、ライフラインの耐震化などが示されています。ソフト対策は、食事やトイレ、寝床などの生活環境の整備や、要配慮者、女性などの多様なニーズに配慮した避難所運営の必要性などを新たに明記しました。
また、サプライチェーンの寸断対策としては、企業は平時より事業継続マネジメント(BCM)を継続的に行い、非常時の対応を検討し事業継続計画(BCP)に反映させるとともに、取り組みを浸透させるための教育・訓練の実施やBCPの点検・見直しを行うことが重要だとしています。BCMを評価する事業継続力強化計画認定制度やレジリエンス認証制度などを活用し、事業継続の実効性を高めることを求めています。