
災害拠点病院とは、県内や近隣の都道府県で地震・津波・台風・噴火などの災害が発生した場合、災害医療を実施する医療機関を支援する病院のことです。
阪神・淡路大震災では多くの病院が被災し、被災者へ十分な災害医療の提供ができなかったことから、災害発生時の診療体制、患者の広域搬送、医療救護チームの派遣・受け入れ、救急医療情報システムの整備が進められました。災害発生時には、都道府県知事の要請で傷病者の受け入れや、災害派遣医療チーム(DMAT)の派遣なども行います。
災害拠点病院の指定要件
災害拠点病院は、都道府県知事が災害対策基本法に基づいて指定しており、その指定要件は「運営体制」と「施設および設備」の2つに分けて定められています。運営体制についての指定要件は、東日本大震災で災害拠点病院を含む多くの病院が被災したことを機に一部の項目が強化されました。主な内容は以下の通りです(一部省略)。
- 24時間緊急対応し、災害発生時に被災地内の傷病者等の受け入れおよび搬出を行うことが可能な体制を有すること
- 災害発生時に、被災地からの傷病者の受け入れ拠点にもなること。また、ヘリコプターによる傷病者、医療物資等のピストン輸送を行える機能を有していること
- 災害派遣医療チーム(DMAT)を保有し、その派遣体制があること
- 救命救急センター又は第二次救急医療機関であること
- 被災後、早期に診療機能を回復できるよう、業務継続計画の整備を行っていること
- 整備された業務継続計画に基づき、被災した状況を想定した研修および訓練を実施すること
- 地域の第二次救急医療機関および地域医師会、日本赤十字社等の医療関係団体とともに定期的な訓練を実施すること。また、災害時に地域の医療機関への支援を行うための体制を整えていること
- ヘリコプター搬送の際には、同乗する医師を派遣できることが望ましいこと
「施設および設備」に関する指定要件は以下の通りです(一部省略)。2023年に一部が改正され、浸水想定区域や津波災害警戒区域にある災害拠点病院についての要件が追加されました。
医療関係 | 施設 | 病棟、診療棟など救急診療に必要な部門を設けるとともに、災害時における患者の多数発生時に対応可能なスペースおよび簡易ベッド等の備蓄スペース |
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診療機能を有する施設は耐震構造であること | ||
通常時の6割程度の発電容量のある自家発電機等を保有し、3日分程度の備蓄燃料を確保しておくこと。自家発電機等から電源の確保が行われていることや、非常時に使用可能なことを平時から検証しておくこと | ||
浸水想定区域(洪水・雨水出水・高潮)または津波災害警戒区域に所在する場合は、風水害が生じた際の被災を軽減するため、止水板等の設置による止水対策や自家発電機等の高所移設、排水ポンプ設置等による浸水対策を講じること | ||
災害時に少なくとも3日分の病院の機能を維持するための水を確保すること | ||
設備 | 衛星電話、衛星回線インターネットが利用できる環境の整備 | |
広域災害・救急医療情報システム(EMIS)に参加し、災害時に情報を入力する体制 | ||
多発外傷、挫滅症候群、広範囲熱傷などの災害時に多発する重篤救急患者の救命医療を行うために必要な診療設備 | ||
患者の多数発生時用の簡易ベッド | ||
被災地における自己完結型の医療に対応できる携行式の応急用医療資器材、応急用医薬品、テントなど | ||
トリアージ・タッグ | ||
その他 | 食料、飲料水、医薬品等について、流通を通じて適切に供給されるまでに必要な量として、3日分程度を備蓄しておくこと | |
搬送関係 | 施設 | 病院敷地内のヘリコプターの離着陸場を有すること |
設備 | DMATや医療チームの派遣に必要な緊急車輌を原則として有すること |
※厚生労働省「災害拠点病院指定要件」をもとにニュートン・コンサルティングが作成
また、災害拠点病院には、基幹災害拠点病院と地域災害拠点病院があります。基幹災害拠点病院(※1)は、地域災害拠点病院の機能を強化し、災害医療に関して都道府県の中心的な役割を果たし、原則として都道府県に1か所設置されています。地域災害拠点病院は二次医療圏(※2)ごとに1か所設置されています。
※1:青森県、埼玉県、千葉県、東京都、新潟県、富山県、岐阜県、愛知県、兵庫県、佐賀県、長崎県、大分県、宮崎県には基幹災害拠点病院は2か所以上あり、神奈川県には基幹災害拠点病院はありません(2024年4月1日時点)。
※2:二次医療圏とは、入院ベッドが地域ごとにどれだけ必要かを考慮して決められる医療の地域圏で、手術や救急などの一般的な医療を地域で完結することを目指しています。厚生労働省が、医療法に基づいて、地理的なつながりや交通事情などを考慮して、一定のエリアごとに定め、複数の市町村を一つの単位とし都道府県内を3~20程度に分けています。
災害拠点病院の所在
2024年4月1日時点で全国に776病院が指定を受けており、インターネットで「災害拠点病院 ○○県」と検索すると、該当する都道府県の災害拠点病院を確認することができます。災害時にインターネット環境が被災し使用できない事態も考慮し、平時に調査しておくことをおすすめします。
どんな症状のとき災害拠点病院へ搬送するのか
災害拠点病院では、明らかに重い外傷を頭部と胸部、腹部と手足など身体の複数部分に同時に受けた場合(多発性外傷)や、長時間身体の一部が挟まれていた場合(クラッシュ症候群)、また広範囲に熱傷がある場合などの重篤救急患者の対応が優先的に行われます。また、災害時には医療関係救護所でも応急手当を中心とした医療救護活動が行われます。判断が難しい場合などは医療救護所へ案内し、医師のトリアージを受けたうえで判断を仰ぐことが望ましいといえます。
BCPへ記載する場合のポイント
既に策定しているBCPで、負傷者の搬送先が前項で調査した災害拠点病院と異なる場合は、災害拠点病院の場所も追記しておきましょう。会社からのルートの確認も重要です。比較的大きな道路を実際に歩いてルートをチェックします。近道として路地を使用しようとしていても、災害時には、家屋や電柱の倒壊で通れない可能性があるからです。
ルートを確認した後は、搬送方法を検討します。災害時に救急車は来ないものと考え、担架の購入や簡易担架の作成方法などをあらかじめ調べ、訓練を実施しておくと良いでしょう。台車をお持ちの企業であれば、台車も搬送に有効です。
もちろん、近隣の医療救護所も調査しておく必要があります。災害拠点病院へ徒歩での移動が困難な場合は、医療救護所へ搬送します。普段から健康診断などでお付き合いのある診療所(クリニック)を搬送先に指定している場合、災害時の傷病者対応の有無を確認します。診療所の医師は所属する医師会からの依頼で、災害時には近隣の病院または医療救護所へ支援に回るため診療所を閉める場合があるためです。
事業を継続するためにも、人命は守るべき重要な資産です。災害拠点病院の役割を理解し、場所や搬送方法を決定しておくことをおすすめします。