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災害対策基本法概観

掲載:2012年12月18日

コラム

災害対策基本法とは、国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護することを目的として昭和36年に制定された法律です。

         

災害対策基本法の概要

この目的を達成するために、災害対策基本法では、以下の事項について規定しています。

  1. 防災に関する責務の明確化
  2. 防災に関する組織
  3. 防災計画
  4. 防災対策の推進
  5. 財政金融措置
  6. 災害緊急事態

条文には、国の責務、都道府県の責務、市町村の責務、および住民等の責務が記載されており、適用対象が広い一般法となっています。特定の職業に就く人や、特定の商業活動を対象とした法律ではなく、広く一般を対象とした法律です。

制定の背景

災害対策基本法は、昭和34年に犠牲者5,098人(死者4,697人・行方不明者401人)、負傷者38,921人の被害をもたらした伊勢湾台風を機に、昭和36年に制定された法律です。災害対策基本法制定以前にも、地方の災害復旧事業費を国庫で負担するための法律がありましたが、以下の点が課題となっていました。

  • 制定に時間がかかる
  • 措置内容に不公平が生じる
  • 立法されるまで措置が不透明 (昭和27年からの10年間に132の特別法が制定)

これらの問題を解決するために、それまでの災害関係法律を残しつつ、かつ、有機的に関連付け、調整して策定されたのが災害対策基本法になります。しかしながら、昨年の東日本大震災は、想定をはるかに超える広域災害となり、災害対策基本法が抱える更なる問題点が明らかになり、今年6月に大幅な改正が行われました。

他の防災関連法令との関連

毎年台風シーズンに入ると、ニュースで “激甚災害法”、“災害救助法”といった災害対策関係法律の名称を良く耳にするかと思います。どのような災害対策関係法律があり、それらがどのような守備範囲なのかを整理したものが、下表になります。

【表1】主な災害対策関係法律の類型別整理表(出典:内閣府・災害対策法制のあり方に関する研究会)

国民の生命、身体及び財産を保護するための法律としては、他に「国民保護法」等がありますが、国民保護法は他国からの武力攻撃等による侵略などを対象としています。一方、災害対策基本法は、その名の通り「災害」から国土並びに国民の生命、身体及び財産を保護することを目的としており、国民保護法とは守備範囲が明確に分かれています。

この表からも分かるように、災害対策基本法は、予防・応急・復旧・復興といった、災害に対する広範囲の局面を守備範囲としています。一方、ニュースを聞いていると「・・・豪雨災害が激甚災害として指定された」といったフレーズを耳にすることがありますが、この表にあるように「激甚災害法」は、復旧・復興を守備範囲としているため、発災後に耳にすることが多くなります。

日常生活との関わり

「災害対策基本法」という名称から、日常生活とはあまり関わりがないと思われるかもしれませんが、身近なところでの関わりを以下に挙げました。

(1) 住民等の責務

災害対策基本法は、災害予防に関しても規定しています。例えば、第七条では、“住民等の責務”が規定されており、住民等は地域の防災に努めることが求められています。

(2) 避難勧告・避難指示

災害がまさに発生しようとしている時、“避難勧告”、あるいは“避難指示”が行政から発せられることがありますが、これも災害対策基本法に基づき行われるものです。

(3) 地域防災計画との関係

各自治体では、地域防災計画が策定され、それに基づき避難所・避難場所等が指定されています。この“地域防災計画”も、災害対策基本法に基づき作成が義務付けられています。この9月に東京都の地域防災計画(素案)が公表されました。東京都下の各自治体では、東京都の地域防災計画と整合を取るため、各地域防災計画の見直しが行われているところもあります。各自治体の地域防災計画は、HP等でも公表されていますので、ご確認ください。

(4) 震災発生時の交通規制

東京では、震災発生時に交通規制(第一次交通規制、第二次交通規制)が実施されます。第一次交通規制は、人命救助・救出、消火活動を迅速に行うための規制であり、これは道路交通法に基づき実施されます。その後、復旧作業を円滑に行うために第二次交通規制が行われますが、これは災害対策基本法に基づき実施されます。第二次交通規制で指定される緊急交通路を通行するために発行される緊急通行車両確認標章も災害対4策基本法に基づいて発行されます。

6月に行われた改定の趣旨

今年の6月に災害対策基本法が大幅に改定されました。これは、昨年の東日本大震災の教訓に基づくものです。これまでの災害対策基本法は、住民等の避難・被害状況の把握は、市町村の一義的責務としていました。しかし、東日本大震災では、市町村そのものが大きな被害を受け、機能不全に陥り、これらの役割を果たせなかったところもありました。そのため、今回の改正では、被災地からの要請がなくても物資輸送等が行える「プッシュ型」の構築、都道府県間で広域避難に関する指示・調整が行える仕組み等が盛り込まれました。

また、有事の際、自力での避難が困難な高齢者、障害者、乳幼児、妊婦など「災害時要援護者」を迅速に避難・誘導する事が求められ、国のガイドラインで、市町村に「災害時要援護者名簿」の作成を促しています。11月の新聞報道によると、地域の障害者団体や福祉事業所など民間団体の協力を得るため、この情報を平時から開示できるようにするため、内閣府は、災害対策基本法の改正案を来年の通常国会へ提出する方針です。

おわりに

「災害対策基本法」は、災害から国土、国民の生命・財産を守るための法律です。「被災したら法律に基づき国が守ってくれる」という点も災害対策基本法が持つ一面だと思います。被災した場合、個人の努力、地域社会の取り組みだけではどうしようもないことは多々あります。しかし、この法律でも規定されているように、住民等は常日頃から防災に努める必要があります。家庭内での初動体制の再確認、防災訓練等への積極的な参加などを通して、減災のための取り組みをできるところから始めてみることも必要かと思います。
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