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全国瞬時警報システム(J-ALERT)

掲載:2017年05月15日

執筆者:シニアコンサルタント 辻井 伸夫

用語集

全国瞬時警報システム(以下、J-ALERT)とは、総務省消防庁が開発・運用している、住民などに瞬時に緊急情報を伝達するためのシステムです。2004年度から整備が始まり、実証実験を経て2007年2月から運用が開始されています。このシステム導入により、住民の早期避難など予防措置を可能にするだけでなく、地方公共団体の危機管理能力の向上にもつながると期待されています。

なお、伝達される緊急情報には、内閣官房が発表する「国民保護に関する情報」と、気象庁が発表する「自然災害に関する情報」の2種類があります。「国民保護に関する情報」とは、国民保護法に基づき内閣官房の発表する弾道ミサイル情報や航空攻撃情報、ゲリラ・特殊部隊攻撃情報などの武力攻撃に関する情報です。気象庁が発表する「自然災害に関する情報」とは、津波警報や緊急地震速報などの大規模な被害が想定される災害の情報のことです。こうした緊急情報は、通信衛星を用いて地方自治体の受信機に瞬時に配信され、受信した自治体の人手を介さずに防災無線やサイレンを自動起動し、住民等に災害情報や避難情報を伝達されます。

         

J-ALERTの情報伝達の仕組み

図1 J-ALERTの情報伝達の流れ

出典:消防庁「全国瞬時警報システム」リーフレットより

J-ALERTには「緊急事態であることを、国が、住民に第一報として直接覚知させるためのシステムであるべき」と言う設計思想があります。このことからJ-ALERTは、瞬時に情報が届けられるよう通信衛星を利用していること、重要な情報は人手を介さずに情報が発信されるように自動起動機が準備されていること、そして様々な情報発信手段を持つこと、といった条件を満たせる情報伝達の仕組みを備えています。

・通信衛星の利用
J-ALERTが使用している通信衛星は、スカパーJSAT株式会社が所有するSUPERBIRD B 2という通信衛星です。通信エリアは日本全域をカバーしているため、全国どこでも利用できるのはもちろんのこと、副局が山口、茨城、群馬に分散しており、主局である横浜の管制センター主局が被災しても、安定した運用ができるようになっています。

・自動起動機
人手を介さない自動の情報発信器です。夜間や被災時の混乱でも警報を伝達できるよう、情報を受信する地方自治体側において、この機器の導入が進められています。ちなみに、最新データ(2013年5月現在)によると、全国の1,742市町村のうち1,359市町村に導入され、整備割合は78%となっています。2014年度末までにはほぼ全市町村で整備される見込みです。

表1 Jアラート情報を自動的に住民へ伝達する仕組みの整備状況
  2013年5月 2013年度末
見込み
2014年度末
見込み
整備済み市町村数 1,359 1,614 1,724
未整備市町村数 383 128 18
全市町村(n=1,742)
に占める整備割合
78.0% 92.7% 99.0%
出典:総務省消防庁報道資料「全国瞬時警報システム(Jアラート)情報を自動的に住民へ伝達する仕組みの整備状況」(2013年9月)

・様々な情報発信手段
J-ALERTでは、単一の通信手段に依存しないよう配慮されています。なぜなら、災害の大きさによっては、情報の受け手が被災し、うまく情報が伝わらないことがあるからです。具体的にはJ-ALERTでは、地方自治体に設置されている受信機から、防災行政無線の拡声器を通して音声放送を行うだけでなく、サイレンによる警報を流すようになっています。これによって、より多くの人に、より確実な注意喚起を行うことができるのです。こうした手段に加え、携帯メールやコミュニティFM、ケーブルテレビ(CATV)、MCA無線など、様々な手段を用いる工夫が自治体ごとになされています。さらに、2009年1月以降は指定行政機関、指定地方行政機関、指定公共機関などにも受信できる機関が拡大され、各省庁や公共機関、マスコミ、公立学校・病院等でも受信可能になっています。
ちなみに、従来は気象庁が配信する「緊急地震速報」や「津波警報」、国・地方公共団体が配信する「災害・避難情報」に限られていた携帯電話会社が提供する緊急メール(NTTドコモの「エリアメール®」、auやソフトバンクの「緊急速報メール」等)において、2014年4月1日よりミサイル発射情報等を含む「国民保護に関する情報(下記参照)」の配信が始まりました。(※1)

図2 自然災害情報の発信者から受け手までの情報伝達の仕組み

出典:消防庁 災害時の避難に関する専門調査会 津波防災に関するワーキンググループ第3回会合 資料4-2「情報伝達の現状と課題」(2012年2月)

どのような警報が伝達されるのか

冒頭に述べたように、J-ALERTの情報には内閣官房が発表する「国民保護に関する情報」と気象庁が発表する「自然災害に関する情報」の2種類がありますが、消防庁の「全国瞬時警報システム業務規程」では、それをさらに細分化して以下の23種類の情報をJ-ALERTで送信すると規定しています。
さらに、下記の情報のうち1から8までは、重要性・緊急性が高いという理由により、「同報系防災行政無線等の自動起動機を用いた起動(自動起動)」を行うように求められています。(同規程 第9条1項)

国民保護に関する情報
  1. 弾道ミサイル情報
  2. 航空攻撃情報
  3. ゲリラ・特殊部隊攻撃情報
  4. 大規模テロ情報(事態対処法第二十五条第一項に規定する緊急対処事態であることの認定がなされた場合及びそれに準ずる場合に限る。)
  5. 第一号から前号までに規定する情報のほか、緊急に住民に伝達することが必要な国民保護に関する情報
自然災害に関する情報  
  1. 緊急地震速報
  2. 津波警報(大津波)
  3. 津波警報(津波)
  4. 噴火警報
  5. 東海地震予知情報
  6. 東海地震注意情報
  7. 震度速報
  8. 津波注意報
  9. 火口周辺警報
  10. 気象警報
  11. 土砂災害警戒情報
  12. 竜巻注意情報
  13. 記録的短時間大雨情報
  14. 指定河川洪水予報
  15. 東海地震に関連する調査情報
  16. 震源・震度に関する情報
  17. 噴火予報
  18. 気象注意報

警報の伝達スピード

北朝鮮から弾道ミサイル発射された場合、以下に当てはまる第一報を米軍などからつかんだ時点で、すぐにJ-ALERTを通じて避難が呼びかけられます。
  • 日本に落下する可能性がある場合
  • 日本上空を通過する可能性がある場合
  • 領海外に落下する可能性がある場合

呼びかけは、頑丈な建物や地下への退避等の具体的な避難場所の例示や、不審物を発見した際警察へ連絡するよう依頼する、という内容となります。※3

BCPにどのように取り込むか

さて、このような特徴を持つJ-ALERTですが、BCPとも密接な関係にあるものです。事実、事業継続マネジメントシステム(BCMS)の国際規格であるISO22301:2012では、組織が確立すべき手順の1つとして「全国若しくは地域の災害情報提供システム,又は同等のシステムからの助言の受領(方法)」(※2)を挙げています。つまり、「J-ALERTのような災害情報提供システムをBCPの中でどのように活用するかしっかりと考えておきなさい」と求めているわけです。

J-ALERTは、その速報性から、BCPの目的である資産保護と事業継続のうち、とりわけ前者の実現におおきく寄与する可能性の高いものです。J-ALERTからの緊急情報の入手直後の対応を予め決めておくことで、人的資源はもちろんのこと、組織の運営に欠かせないその他の経営資源に大きな損失が出てしまうリスクを軽減できます。

具体的にはたとえば、J-ALERTによって放送される防災行政無線は、情報の種類によって音声放送やサイレン音が異なるので、その違いを上手に活用して、初動を決めておくと良いでしょう。ちなみに、消防庁のホームページや国民保護ポータルサイトでそれらの音声やサイレン音を確認することが出来ますから、一度、確認され、また、可能であれば訓練の際にも用いることをお勧めいたします。

※1 2014年3月31日に追記しました。
※2 ISO22301:2012 8.4.3「警告及びコミュニケーション」より
※3 2017年5月15日に追記しました。
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