Lアラート(災害情報共有システム)
掲載:2019年10月03日
執筆者:アソシエイトシニアコンサルタント 坂本 はるか
用語集
Lアラート(Local alert)は、災害発生時に情報発信者と情報伝達者の間をつなぎ、情報を迅速かつ効率的に伝達することを目的としたプラットフォームです。総務省とマルチメディア振興センターが開発・運用しているシステムで、2011年6月に運用が開始されました。正式名称を災害情報共有システム※といいます。
※運用開始時は「公共情報コモンズ」と呼ばれていましたが、2014年に現在の名称に改称しました
Lアラートに流れる「情報」
Lアラートの仕組み
Lアラートは情報発信者と情報伝達者の連携を目的としています。それゆえ情報受信者である地域住民がLアラート自体に接することはありません。
Lアラートは次のような手順で利用されます。まず情報発信者がそれぞれ保有する災害関連情報を「コモンズエディタ」と呼ばれるソフトウェアに入力し、Lアラートへ送信します。送信された情報はLアラートに集約され、情報伝達者の形態に最適なフォーマットに自動的に変換され、それぞれ発信されます。その情報を受け取った情報伝達者は各々の方法で地域住民へ配信します。
こうして、情報受信者である地域住民や一般企業は、情報伝達者のデータ放送や防災アプリ、ウェブ配信などを通じて防災情報を得ることができます。
Lアラートの活用状況
近年、情報発信者と情報伝達者の双方が増え、災害時の活用機会も増加傾向にあります。
- 情報発信者の増加
2019年の時点で、47都道府県、全国1600以上の市町村で利用されています。ガス事業者の利用者は、2015年から3年間で1社から90社に増加し、全国のガス利用者の8割を占めている上位ガス会社10社のうち、9社が運用を開始しています。さらに、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの大手移動系通信事業者や、NTT東日本、NTT西日本でも利用が開始されました。
- 情報伝達者の増加
2014年から5年間で情報伝達者のLアラート契約総数は約3倍に増加しており、2019年現在、テレビ(ケーブルテレビを含む)395団体、ラジオ(AM・FM)235団体、新聞60団体、サイネージ・ネット事業者29団体などで利用されています。
- Lアラートを活用した訓練
大規模な訓練も行われました。2019年5月22日、23日に実施された「Lアラート全国合同訓練2019」では、47都道府県・1741市町村の自治体、携帯電話やガス事業者などのライフライン事業者、テレビ・ラジオ事業者や新聞社、スマートフォンアプリ提供事業者などのメディア事業者を対象に、台風等の風水害のシナリオに基づいた、Lアラートによる災害関連情報の連携を確認しました。
- 実際の活用状況
2016年に発生した熊本地震では、避難勧告・避難指示や避難所情報、被災者の生活再建に必要な行政手続きやライフライン情報(給水や復旧状況)など、52団体が計932件の情報発信を行いました。また、2017年10月に発生した台風21号では、42都道府県の852団体が3日間に10,959件の情報を発信するなど、有効に活用されています。
Jアラートとの違い
LアラートはJアラート(全国瞬時警報システム)と名称が似ているため混同されることがあります。LアラートとJアラートの違いは主に以下の3点です。
- 発信者および受信者の違い
Jアラートは消防庁が開発・運用を担当しており、内閣官房や気象庁が「情報発信の必要性あり」と判断した場合には、消防庁の送信システムから人工衛星等を利用して国民ら情報受信者に直接情報伝達が行われます。Lアラートは地方自治体等やライフライン事業者などが主な情報発信者になります。
- 発信方法の違い
Jアラートは通信衛星やLGWAN(総合行政ネットワーク)を通じて国民ら情報受信者に自動的に発信できる仕組みになっています。一方、Lアラートは入力された情報がネットワークやサーバーで管理されているため、情報受信者に情報が伝達されるには情報伝達者を介する必要があります。
- 発信される情報の内容の違い
Jアラートを通して伝達される情報は、内閣官房が発表する「国民保護に関する情報」と、気象庁が発表する「自然災害に関する情報」の2種類と定められています。例えば、弾道ミサイルや大規模テロ、緊急地震速報、津波警報、気象警報など、特に緊急性が高いものが該当します。Lアラートで配信される情報は災害発生地域周辺の避難勧告情報、避難所情報、ライフラインの状況など、L(Local)アラートの名前の通り特定の地域に関する情報が多いです。また、LアラートではJアラートで発信された情報も確認することもできます。
Lアラートの利点と企業の視点
Lアラートは情報発信者が発信した情報を、情報伝達者に向け効率的かつ正確に提供できるだけでなく、情報発信者、情報伝達者、情報受信者にとってそれぞれに利点があります。
情報発信者は、Lアラートを利用すると情報の発信先ごとに個別に入力する必要がなくなり、入力ミスや災害時の担当者の業務負担を軽減することができます。一方、情報伝達者は、Lアラートを介して既に情報受信者への配信に適したフォーマットに変換された情報を受け取ることができ、そのまま配信することができます。フォーマットの変換の際のミスの軽減や変換にかかる時間の大幅な短縮が見込めます。
また、Lアラートで一元管理された情報は、テレビ、ラジオ、インターネット、防災アプリなど様々な形態で配信されるので、情報受信者である地域住民や一般企業はいつどこにいても情報が手に入るようになります。統一された情報源から情報を得ることによって、間違った情報による不要なパニックを防ぐこともできるでしょう。
企業は迅速な情報収集が可能になり、災害時の意思決定や対応策を素早く実行に移すことができるようになります。外出先でも、会社の周辺の情報、今いる地域の情報、自宅周辺の状況など複数の地域の情報を簡単に収集することができます。企業側では、こうしたタイムリーかつ信頼性の高い情報源があると知っておくことと、これらの情報を入手するための複数の手段を確保しておくことが肝要です。
【参考文献】
- 総務省 第1回今後のLアラートの在り方検討会 資料1ー2「Lアラートの現状」(2018年7月5日発表)
- マルチメディア振興センター 第3期 Lアラート中期的運営方針(2019年4月1日発表)
- マルチメディア振興センター L-ALERT ホームページ