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トリアージ

掲載:2011年12月07日

執筆者:エグゼクティブコンサルタント 久野 陽一郎

用語集

トリアージとは、災害が発生した際に限られたリソースの中で最大限の効果を発揮することを目的とし、治療や搬送の優先順位付けを行うことを意味します。
元々はフランス語の動詞trier(区別する、識別する)を語源とし、戦時中の野戦病院で使用され、負傷した多数の兵士に対し、誰から優先的に治療すべきかを判断するものとして考案されました。

         

平時と有事のトリアージ

トリアージは、平時に行うトリアージと災害時に行うものと、大きく2つに分類することができます。なお、ここで述べる平時に行うトリアージとは、救急医療のトリアージのことであり、有事に行うトリアージとは災害医療で使用されるトリアージのことです。

救急医療のトリアージは、多数の負傷者が病院に搬送されてくる時などに、治療を迅速に行うために最も重傷な負傷者を識別し、その負傷者へ最大の治療を提供します。仮に助かる可能性が低い重篤者であっても、優先的に救命活動を実施します。

これに対して、災害医療のトリアージでは、地震などの大規模な自然災害やオイルプラントの爆発などの大事故発生した現場で「最大多数に対して最良の手を尽くす」ことを基本とし、限られた医療資源のなかで、治療すれば助かる可能性が高い重傷者を優先します。これは、医療環境が整備されていれば、治療の対象となる重篤者でも、資源の無い被災現場では救命の可能性が低いため、蘇生行為を必ずしも優先するわけではないということです。

本記事では、事業継続の初動対応に関係の深い災害医療のトリアージについて記載いたします。

4段階からなる優先順位の定義

災害医療のトリアージでは、対象者を主に4つに分類し、治療の優先順位付けを行います。
この区分上の第4順位である搬送適応群では、死亡していない場合でも、医療資源が無いために救命の可能性が著しく低い者も対象となります。

手順

災害医療のトリアージ実施手順は、時間軸や事象によって異なりますが、本記事では使用頻度の高いSTART(Simple Triage And Rapid Treatment)法をご紹介いたします。START法は比較的容易であるため、修練しやすく、多くの医療機関や災害現場で使用されています。

記録と伝達

現場で判断されたトリアージの情報はトリアージタグ(紙)を用い、記録と伝達が行われます。トリアージを行った者は、トリアージタグに短時間で必要な情報を記入し、その後に搬送される医療機関にて使用するカルテの一部となります。

このタグに記載すべき主な項目は以下のとおりです。

  • 年齢、性別、住所、電話番号など
  • 傷病名
  • バイタルサイン(呼吸、脈拍、血圧、意識など)
  • 搬送機関、医療機関
  • トリアージ実施場所、実施期間
  • トリアージ区分
  • 特記事項(実施した処置など)

情報が記載されたトリアージタグは、トリアージが行われた被災者の右手首に装着されます。(右手首に装着できない際には、以下の優先順位で装着します:左手首、右足首、左足首)

トリアージを行った後に被災者の容態が変化した場合はトリアージタグの区分を変更し、変化した情報を記載します。

※バイタルサインとは、身体機能が正常に働いているかを確認するための数値情報です。災害医療のトリアージでは主に呼吸や脈拍、血圧、体温、意識などで確認します。

被災地では

東日本大震災では、被災地の各医療機関では病院玄関前などにトリアージスポットを設置し、派遣されてきたDMATと共にトリアージを行いました。ライフラインが止まり、電話なども使用できない中、救急車から被災者が続々と搬入され、対応したとお聞きしました。

災害医療のトリアージでは最大多数に対して最良の手を尽くすことを基本としています。短時間で情報を入手し、適切な判断をすることにより多数の命を救うこと、トリアージはそれを可能にするのです。
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