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災害医療

掲載:2014年02月03日

執筆者:シニアコンサルタント 高橋 篤史

用語集

災害医療は災害時に、けが人など大量の医療需要が発生し、医療供給を上回っている状況下で行われる医療です。ここではわかりやすく災害の種類を大きく3つに分類します。

         

災害医療の対象となる災害

  1. 自然災害(広域災害)
    地震、台風、集中豪雨、火山噴火、津波など、災害自体は短期間に終息する急性型と、長雨、旱魃、疫病など、徐々に被害が発生し被害が長期にわたる慢性型に分類されます。
  2. 人為災害(局地災害)
    ガス爆発、火災、事故(自動車、列車、航空機、船舶)、テロ行為、マスギャザリング(大規模イベントやスポーツ観戦等、一定時間、限定地域に同じ目的で集まった群衆)における災害などが相当します。また、原子力事故など放射能による大気汚染被害は広域災害となりうるものもあります。
  3. 複合災害
    自然災害と人為災害の組み合わせのもので、地震による火災が非常に多く、同時に複数個所が被災します。また、石油タンクへの落雷で引火した石油が流出するなどの例もあります。

災害医療に求められる要素

救急医療は発生した傷病者に対して十分な医療供給ができる環境下で行われるため、突発的といっても予測できる範囲の医療です。

これに対して災害医療は上述したように予測不能なあらゆる災害時において、急激な傷病者の増加や、施設の被災などにより医療の需給バランスが通常とは逆転した状況で行われるため、救急医療とは本質的に異なるものです。災害医療では、最大多数の傷病者に対し、必要最小限の医療を行う必要があります。 災害初動時の流れで求められる重要な要素としてはTriage(トリアージ)、Treatment(治療)、Transportation(搬送)の3Tと呼ばれるものが一般的です。
  1. Triage(トリアージ)
    傷病者の緊急度と重症度により、治療優先順位を決めること。(用語集「トリアージ」参照)
  2. Treatment(治療)
    現場での傷病者に対する医療行為は、安定化が目的であり、応急処置を意味します。気道確保や、止血、骨折部位の固定、胸腔ドレナージ(肺の圧迫を防ぐため胸腔内に貯留した気体や液体を対外へ排出すること)、ショック(急速な血液低下)症例に対する輸液(失われた水分および電解質の補充)処置などに限定されます。
  3. Transportation(搬送)
    本格治療のため、傷病者を被災地外の医療機関に移送すること。搬送時間や受け入れ態勢により搬送手段が特定されます。
被災時傷病者数や医療機関の受け入れ能力の推定も重要です。被災時傷病者数は災害現場の画像等から災害の規模と種類を想定し、過去の事例を参考にして被災者の重症度を推定します。さらに発災地点から同心円内に存在する医療機関の数、対応能力、道路事情等を鑑み、被災時傷病者の来院数を推定します。

医療機関の受け入れ能力については、空きベッドや代替収容設備(重症患者なら救急病棟や集中治療室、中・軽症患者なら整形外科、内科、耳鼻科、眼科など)の確保、医療器具や医師、看護師の状況、通常診療の一時中断可否等から推定されます。

災害発生時の医療機関における初動

災害発生時、医療機関がまずやるべきことは入院患者、外来患者と自分自身の安全確保、パニック、二次災害の防止、被害状況のチェックなど、通常の初動対応に加え、災害医療への切り替え宣言、トリアージの準備、応援の医師が交代しても患者情報が引き継げる災害時用カルテの運用、災害時採血検査とレントゲン検査、DMAT(用語集参照)対応等、医療業界特有の活動があります。

災害医療における対策本部の動き

災害対策本部は、診療以外の全てを統括する指揮部門と診療全般を調整指揮する診療部門に大別されます。
  1. 指揮部門の役割
    情報収集・発信、人材配置、診療材料・薬剤・水・食糧などの物品調達、施設機能の確保と復旧、ライフラインの確保などを行います。
  2. 診療部門の役割
    入院患者と外来患者の対応、被災患者の受け入れとトリアージ、患者搬送態勢の整備、要請に応じて医療救護班の編成と派遣、遺体の安置と管理などを行います。

災害医療とBCP

災害医療の考え方は、予測不能の事態に対し、必要最少現の活動で、いかに効果的に医療行為を継続するかという点で、BCPそのものと言ってよいでしょう。ただしその活動が人命に直結するため、より短時間で厳しい状況判断が求められるのです。

一般企業のBCPと異なるのは、発災直後の対応力低下を可能な限り抑え、かつ回復時期を早めるだけではなく、対応力を通常レベルより一時的に増加させる点にあります。このため、災害拠点病院のBCPでは、災害時に必要な業務にあらかじめ優先順位をつけ、継続すべき業務と縮小すべき業務を明確に区別します。優先度の高い通常業務の例として、症状のある患者の手術、外傷患者への治療、ICU患者への投薬などがあります。

また、災害時に新たに発生する業務の例としては、トリアージ、被災した重症患者への対応、不足した医療資器材の手配などが挙げられます。さらに、これらの業務遂行には電気や水などのライフラインが不可欠となりますので、その復旧作業が高い優先度で行われます。
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