災害派遣医療チーム(DMAT)
掲載:2011年11月02日
改訂:2024年11月21日
執筆者:取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介
用語集

DMATは、正式名称 Disaster Medical Assistance Team(災害派遣医療チーム)の略称であり、大規模な天災や多数の負傷者が発生した現場に、概ね48時間以内に到着し活動できる機動性を持った医療チームを言います。
DMAT1隊は、医師1名、看護師2名、業務調整員1名の計4名での構成が基本とされています。
DMAT発足の経緯
大規模災害や、多数の負傷者が発生する現場では、被災後72時間が負傷者にとっての重要な生命線だと考えられています。しかし一方で、支援の派遣を検討する側にとって、被災時(特に大規模災害発生時)には、正確な情報を得ることが難しく、また輸送手段も限られるため、現場に到着するまでに多くの時間を費やさざるを得ないのが実情です。
平成7年の阪神・淡路大震災では、多くの傷病者が発生し医療の需要が拡大する中、病院も被災し、ライフラインの途絶、医療従事者確保の困難など、初期医療体制の遅れにより被災地内で十分な医療を受けられずに死亡してしまった、いわゆる「防ぎえた災害死」が大きな問題として取り上げられました。この課題を解決するために、2004年8月に東京DMATが、2005年4月に日本DMATが発足しました。
ちなみに、こうした考え方に基づく組織が最初に編成されたのはアメリカで、911のテロがきっかけだと言われています。
DMATの種類と活動
DMATには日本DMATと都道府県DMAT(代表例:東京DMAT、神奈川DMAT、大阪DMAT、大分DMATなど)の大きく2種類があります。日本DMATは厚生労働省が発足させた組織であり、大規模災害時に全国から派遣され、広域医療搬送やトリアージ、搬送のための安定化処置(ステージングケアユニットと呼ばれます)、病院支援、域内搬送、現場活動などが主な活動となります。
都道府県DMATは文字通り、各都道府県が独自に発足させた組織であり、主に域内の災害に対して活動を行うことを目的としています。たとえば、日本で最も早く創設された東京DMATは、基本的には東京都内で起こる災害や事故などを対象にしていますが、もちろん、広域災害時には支援のために他の地域へ出動することがあります。
なお、日本DMATと都道府県DMATは決して対立するものではなく、多くの隊員が両組織への登録を行っており、必要に応じて、それぞれの指揮下で活動を行うことになります。
チームの構成と活動期間
DMATは、災害医療の研修を受けた医師、看護師、業務調査員(医師・看護師以外の医療職および事務職員)から構成され、機敏性の観点から1チーム4人での編成が基本とされます。現場での活動は、移動時間を除いて概ね48時間以内を基本とし、長期間(1週間など)におよぶ場合は、DMAT2次隊、3次隊等の追加派遣で対応します。
DMATの活動実績
DMATは、多数の死傷者を出した殺人事件や事故のほか、数多くの大規模地震で実績を残しています。事件対応では、17名の死傷者を出した秋葉原通り魔殺人事件(2008年6月)が一例です。この際には、東京消防庁からの出動要請を受け、東京DMATの4チームが派遣され対応にあたりました。
また地震では、主として「新潟県中越地震(2004年10月)」、「新潟県中越沖地震(2007年7月)」、「岩手・宮城内陸地震(2008年6月)」、「東日本大震災(2011年3月)」が挙げられます。東日本大震災では、日本DMATにおいて3月11日から22日までの間に47都道府県から約340隊、約1,500名の隊員が岩手県、宮城県、福島県、茨城県に派遣され、自衛隊機による空路参集では、伊丹空港などから花巻空港などへ、複数の輸送機が9フライト82隊、384名の隊員が被災地に派遣されました。また、傷病者を被災地から非被災地へ移す広域医療搬送では、輸送機により花巻空港・福島空港から千歳空港・秋田空港・羽田空港へ、外傷患者19名が搬送されました。
さらに、東京DMATの活動では、域内および被災地での救助活動のために20隊弱(約60名)の派遣を行っています。域内救助では、ホール天井が崩落し多数の傷病者を出した九段会館に医療チームが派遣されました。また被災地へは、宮城県気仙沼市や福島県へ派遣されました。
DMATとBCP
ところで、災害…とりわけ自然災害は、想像を超えた被害をもたらす可能性の高いものです。こうした事態には「自分さえ良ければいい」や「最後は誰かが助けてくれるから大丈夫」といった一方的な考え方に基づく対策(BCP)は決して現実的ではありません。よく言われるように、自助・共助・公助という3つの観点で、バランスのとれた対策の充実化を図ることが重要です。
DMATの活動は、こうした考え方が反映された意義の高いものであると言うことができます。一般企業も、BCPのあり方をDMATに学べる点は決して少なくないでしょう。