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NBC災害とCBRNE災害

掲載:2017年06月07日

コラム

北朝鮮の核や弾道ミサイル開発による東アジア地域での軍事的緊張の高まりや、世界的なテロの増加により、民間企業においてもこれらの新しいリスクに備える必要性が日に日に高まっています。しかしながら、ニュースや専門誌で耳にする用語等について正しい知識がなければ、弾道ミサイルやテロに対する必要な対策を講じることは極めて困難です。そこで、弾道ミサイルに関する解説(日本国内への弾道ミサイル攻撃に対する備えと行動)に続き、より具体的な弾道ミサイルやテロの攻撃の種類である「NBC災害」及び「CBRNE(シーバーン)災害」について、その攻撃の特徴、講じるべき対策についてお話したいと思います。

         

NBC災害とは

「NBC災害」の“NBC”とは、[核:Nuclear]、[生物:Biological]、[化学:Chemical]の頭字語です。本来「NBC」は軍事的な用語として用いられ、核兵器、生物兵器、化学兵器を総称して「NBC兵器」と呼ばれています。米ソ冷戦初期の頃は、核(N)の代わりに[原子力:Atom]が用いられ、「ABC兵器」と呼ばれていました。近年では兵器としての分類だけでなく、Nであれば原発事故や放射性物質の漏洩、Bの細菌やウィルスの人為的・自然的な蔓延、Cでは化学物資の漏洩や化学工場での事故も含め、通常災害とは異なる特別の装備や対応が必要な災害を「NBC災害」と呼ぶようになりました。日本の警察や消防、自衛隊においてもこれらの特殊災害に対応する専門部隊として「NBC対応部隊」が編制されています。

核兵器(N)は、核爆発を伴う原子爆弾や水素爆弾等を意味しています。ご存知の様に広島や長崎への原子爆弾投下で悲惨な被害が発生し、今も放射線による後遺症に悩まされている被爆者の方々がいます。

化学兵器(C)は、人体に有害な作用を生じせしめる化学剤を用いたもので、代表的なものとしてはオウム真理教によって使用されたサリン、VX、マスタードガス、塩素ガス等が存在します。核兵器(N)と化学兵器(C)は、北朝鮮の弾道ミサイルに搭載される可能性があると懸念されています。
生物兵器(B)は、人体に有害な細菌やウィルスの意図的な蔓延や、細菌やウィルスより生成される毒素を使用した兵器を指しています。生物兵器の使用例は歴史的に古くから見られ、腐敗した遺体や罹患者を敵の陣地や領土に投棄・残置した例も生物兵器の一種と言えます。現代では、2001年の米国同時多発テロ直後に発生した炭疽菌テロ等が生物兵器を使用した代表的な事例です。その他、天然痘やペスト菌、コレラ、ボツリヌス菌なども生物兵器として用いられる危険性の高い細菌やウィルスとして挙げられます。

生物兵器は、細菌やウィルスが爆発時の熱で死滅するため、核兵器(N)や化学兵器(C)に比べれば、弾道ミサイルに搭載される可能性は極めて低いと言えます。しかしながら、特定の地域で炭疽菌の大規模感染(パンデミック)が生じても、それが意図的に引き起こされたものなのかを判別することは困難であり、仮に意図的に蔓延されたものであっても、感染から発症までのリードタイムがあるため、感染が確認された段階ではすでに細菌やウィルスは広く蔓延(拡散)している状況となります。さらに、遺伝子の改変や突然変異種の培養に成功した細菌やウィルスであれば、有効な対応を取ることも難しいとされています。

上記の通り、これまでは兵器として扱われることが通例であった「NBC災害」ですが、近年では定義の拡大に伴い、前述したものに加えさらに多くの事例が存在します。核・原子力災害(N)としては、チェルノブイリや福島県における原子力発電所からの放射性物資の放出による広域での放射能汚染。旧ソ連のスヴェルド生物兵器研究所の炭疽菌漏洩事故は、病院内での院内感染や人為的なものではないエボラ出血熱やデング熱なども隔離等の特別の対応が必要な生物災害(B)に含まれます。インドのボパール化学工場事故では人体に有害なイソシアン酸メチルのタンクが爆発したことで化学災害(C)が発生し、関連死も含めて数万人以上が死亡したとされています。

CBRNE災害とは

「CBRNE災害」の“CBRNE”とは、[化学:Chemical]、[ 生物:Biological]、[ 放射性物質:Radiological]、[ 核:Nuclear]、[ 爆発物:Explosive]を指す頭字語です。「CBRNE災害」は、「NBC災害」の核(N)から放射性物質(R)を分離させ、更に爆発物(E)を新たに加えたものです。「NBC災害」と重複するものが多い点に気づかれるかと思いますが、何故「NBC災害」に加え「CBRNE災害」という概念が生まれたのでしょうか。

「NBC災害」が冷戦期に国家の保有する大量破壊兵器の分類から作られたのに対し、「CBRNE災害」は冷戦終結前後より頻発した、テロ等の非国家主体による無差別な暴力の増加と多様化により、こうしたリスクがより身近となったことで作られました。「CBRNE災害」は、特にテロ対策等の文脈で言及されることが多いため、テロの増加により、「NBC災害」よりも「CBRNE災害」の方が一般的になりつつあるようです。

放射性物質(R)は、「NBC災害」では核(N)に含まれていた核爆発を伴わないダーティ・ボムや原発事故などと、核爆発により発生する被害の特徴が異なるため分けて考える必要があるとの観点から核(N)と放射性物質(R)を区別しています。核災害の定義が「NBC」から「CBRNE」へと拡大・整理されたのは、冷戦終結後に国家にとっての安全保障上の脅威が核兵器(N)を中心とする軍事力から、テロを含めたものへと拡大したことに伴って生じました。特に冷戦終結後、ソ連崩壊の混乱から放射性物質が持ち出されたとの疑惑があり、放射性物質の散布を行い放射線の人体への被害を目的とするダーティ・ボムが懸念されると共に、原子力発電所への攻撃による放射性物質への対処を求められる可能性が高まりました。こうした核爆発による被害と放射線性物質による被害を分ける必要が生じたため、核(N)と放射性物質(R)が区別されるようになりました。

爆発物(E)によるテロ等の事件は、「CBRNE災害」の中でも生産と攻撃の実施が最も容易かつ、実際に頻発しています。最近でもボストンのマラソン会場爆破事件や、イギリスのマンチェスターで行われたコンサートの会場で爆破テロ事件が起きています。マンチェスターのコンサート会場爆破事件では、爆発物の中に釘やボルト等が混入されていたとの情報があり、殺傷力が大きくなるような細工がされていたと見られています。

日本でも過激な政治組織などにより無差別爆弾テロが発生しており、高校生程度の科学的知識と技術があれば既製品を組み合わせることで致死力のある爆発物を製造可能なため、テロ等の爆発物(E)による事件は発生する蓋然性が最も高いと考えられます。

また、「CBRNE災害」は複合して生じることも考えられます。例えば、原子力発電所が爆破テロを受け放射性物質が外部に放出された場合は放射性物質(R)と爆発物(E)事案となります。

CBRNE災害から命と組織を守るには

「CBRNE災害」に対応するには特殊な装備や高度な科学的知識が必要となりますが、それらを持たない私たち民間人はどのように備え、対処すればよいのでしょうか。
事前対策
屋内退避期間が長期化する可能性も出てくるので、備蓄品の見直しをしておきましょう。生物災害(B)について個人が出来る対応は限られていますが、自分がどのような種類のワクチンを過去に接種しているのかを母子手帳などで確認し、国や地方自治体が接種を進めているもののうち未接種のものがあれば、接種しておく等の対策を検討して下さい。 「CBRNE災害」が生じた場合、二次汚染を防ぐことも、被害の拡大防止の観点から重要です。ビニールシートやガムテープなどで被害者や罹患者を一時的に隔離するための密閉空間を作る場所や方法の検討、被害者との直接接触を防ぐためのビニール手袋や感染や汚染大気の吸入を防ぐためのマスクを備蓄品の中に加えることも有効な対策の一つとなります。
事後対応
「CBRNE災害」のいずれかの発災現場に遭遇した場合、その場出来ることは限られています。従って、事前に報道などで情報をしっかりと収集し、危険な場所に近づかないことが最も重要な備えとなります。万が一外出先で「CBRNE災害」に遭遇した際には、水で濡らしたハンカチで口や鼻を覆い、煙や粉塵、汚染大気の吸入による被害を抑制する行動を取った上で、速やかに現場から遠ざかる必要があります。 そして最も重要なのは、テロ事件であれば混乱そのものを狙った事例も多く雑踏事故による二次被害の危険性も非常に高いため、慌てずに、冷静に状況を把握・整理し、警察等治安機関からの指示があればそれに従ってください。また、「CBRNE災害」への対応・収束には社会全体で対応に全力で取り組まなければなりません。仮に日本でテロや弾道ミサイル等の攻撃による「CBRNE災害」が生じれば、国民保護法に基づいた国からの指示がある可能性があるのでそれに従い、物品や場所の提供要請があれば可能な範囲で素早く対応して下さい。
訓練・改善
また、防災計画やBCP文書等にテロや弾道ミサイルによる「CBRNE災害」の想定を盛り込み、訓練やシミュレーションを実施しておくことで、地震などと同様、発生時の適切な対処が可能となります。

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本稿は「NBC災害」や「CBRNE災害」の危険性を喧伝するものではありません。しかし、実際に北朝鮮による弾道ミサイルの発射や核実験が繰り返され、アメリカやイギリス、フランスなどでテロによる凄惨な被害が発生している状況において、日本においても公的機関だけでなく市民や企業が現実感を持ち、NBCやCBRNEによる特殊な有事に備えることが今後より一層重要になります。そうした中で、本稿をお読みいただいた皆様が「NBC災害」や「CBRNE災害」に関する知識を得て、リスクを知り、対応策を検討するための一助になれば幸いです。
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