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企業が知るべき災対法改正のポイント

掲載:2015年08月28日

コラム

メディアで耳にすることの多い「災害対策基本法(以下、災対法と記す)」ですが、東日本大震災以降、3回に渡り大幅に改正されています。当コラムでは災対法の本質を明らかにし、普段生活していくうえでどのような関係があるのかを紐解いていきます。

これにより、今後も行われるであろう災対法の改正に対し、災害対応やBCP、コンプライアンスの観点からも無理なく、かつ、合理的・効率的に対処する事ができるはずです。

         

災害対策基本法の概要

災害対策基本法とは、国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護することを目的として、伊勢湾台風を機に昭和36年に制定された法律です。この目的を達成するために、災対法では、以下の事項について規定しています。

  • 防災に関する責務の明確化
  • 防災に関する組織
  • 防災計画
  • 防災対策の推進
  • 災害緊急事態

条文には、国の責務、都道府県の責務、市町村の責務、および住民等の責務が記載されており、適用対象が広い一般法となっています。一般法とは特定の職業に就く人や、特定の商業活動を対象とした法律ではなく、広く一般を対象とした法律です。

災対法改正の全体像

東日本大震災以降、3回に渡り大きく改正されたきっかけは、東日本大震災、および平成26年2月の関東甲信地方における大雪被害です。結果として、以下の6点が大きく改正されています。

①災害から生命を守るために
・物資輸送は被災地の要請がなくても送り込む「プッシュ型」の構築、民間との連携に留意

②被災地を支える体制づくり
・大規模災害時における都道府県や国の調整による地方公共団体の支援の仕組みの強化や、そのための支援計画の明確化
・都道府県が広域避難に関する指示・調整を行うことができる仕組みの確立
・市町村機能が著しく低下した場合や災害緊急事態における都道府県や国の対応のあり方を検討

③ニーズに応じた避難所運営
・避難所の位置づけの明確化

④スピード感、安心感がある被災者支援
・体系的な被災者支援制度への見直し検討

⑤復旧・復興をスムーズに成し遂げるための仕組み
・復興の枠組み検討と震災時の特別対策で有効なものは直ちに発動できる方策の確立

⑥大災害を生き抜くための日頃からの備え
・ハード・ソフトが一体となった「減災」や、「自助」「共助」等の明確化検討
・様々な組織・機会での防災教育、教訓の伝書・定着・訓練の推進
・多様な主体(国・地方・民間事業者・ボランティア・自治組織等)の連携興津による社会の総力を挙げた対策強化

法改正のこれまでの経緯とポイント

これまで3回に渡り改正されましたが、それぞれの改正時期、ポイントは以下の通りです。以下、内閣府から公表された各回の改正概要からの出典になります。

第1回目:平成24年6月27日公布・施行
・大規模広域な災害に対する即応力の強化 ・大規模広域な災害時における被災者対応の改善 ・教訓伝承、防災教育の強化や多様な主体の参画による地域防災力の向上 ・その他

第1回目は、特に緊急性を要する事項について改正が行われました。ポイントは、被災地からの要請が無くても救援物資の輸送が行える「プッシュ型」の構築です。この改正が行われるまでは、救援活動の役割は、一義的に各自治体にあるものとしていたため、被災自治体からの要請がなければ、救援活動を行うことができませんでした。東日本大震災では、被災した自治体そのものが機能不全に陥ってしまい、このような事態を考慮した改正が行われました。

第2回目:平成25年6月21日公布・施行
・大規模広域な災害に対する即応力の強化等 ・住民等の円滑かつ安全な避難の確保 ・被災者保護対策の改善 ・平素からの防災への取組の強化 ・その他
 

第2回目は、基本的には第1回目の積み残し分の対応を行っています。第2回目では、住民等の円滑な避難を行うための策が講じられています。市町村長は、高齢者、障害者等の災害時の避難に特に配慮を要する者について名簿を作成し、本人からの同意を得て消防、民生委員等の関係者にあらかじめ情報提供することが可能となっています。

第3回目:平成26年11月21日公布・施行
・緊急車両の通行ルート確保のための放置車両対策(災害応急措置として創設) ・土地の一時使用等 ・関係「機関、道路管理者間の連携・調整

昨年2月17日の菅官房長官の記者会見にて、「除雪作業のために、放置車両を所有者の同意なく、強制的に撤去する法的な根拠がない。」との見解が示されました。これが、第3回目の災対法改正のきっかけとなっています。

有事の際、援助物資を被災地に輸送するためには、通行路を確保する必要があります。これまでも、被災地においては放置車両の強制的な撤去が可能でしたが、被災地へ救援物資等を運ぶための途中の通行路においては、強制的な移動を行うための法的根拠がなかったのです。この点を3回目の改正では、カバーしています。また、強制的な撤去を行う際、放置車両に損害を与えた場合、その損害が全額ではないにせよ、補償される旨、災対法第82条に記載されています。

BCP策定、運用における考慮点

何らかの形でBCPの策定・運用に関与する方々にとっては、災対法の改正が無縁のものではないことがお分かりいただけたのではないかと思います。 例えば、自治体の災害対応に携わる方々にとっては1回目の改正が、病院や福祉施設のBCP策定・運用に携わる方々にとっては2回目の改正をよく理解しておく必要があるかと思います。建設業など自治体と有事の道路啓開に関する協定を結んでいる組織にとっては、3回目の改正をしっかりと理解しておく必要がありそうです。また災害時の自動車やトラックなどの強制撤去が法的に認められたことから、運送業者などは補償条項(第82条)を確認しておくべきでしょう。

おわりに

災害対策基本法は、「国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護することを目的とする」法律であり、決して遠い存在ではありません。また災害対応の教訓を活かし、都度目的達成のために改訂されてきた法律です。

会社組織の危機管理やBCPの担当者にとっては、発生が懸念されている首都直下地震、南海トラフ巨大地震が現実のものとなった時速やかに対応するため、これまでの改訂の経緯と条文の内容を把握し、対応計画に反映しておくことが求められます。

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