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長周期地震動・長周期地震動階級

掲載:2015年11月10日

改訂:2024年08月14日

用語集

ひとたび地震が起こると、様々な周期(地震の揺れが1往復するのにかかる時間のこと)の揺れが発生します。そのなかでも、周期が長くゆっくりとした大きな揺れ(揺れの周期が約1秒から10数秒程度)のことを長周期地震動といいます。また、長周期地震動の被害を表す指標のことを、長周期地震動階級と言います。

         

長周期地震動が発生した地震

どうしてこのような周期を意識した言葉が存在しているのかと言いますと、同じ地震でも、周期の長さで、被害の大きさも対策も異なるからです。ちなみに、長周期地震動がより注目されるようになったきっかけは、2003年の十勝沖地震です。震源から遠く離れた北海道苫小牧市の石油コンビナートで、石油タンク内の石油が共振によって大きく揺れ動き、その結果、浮き屋根が石油タンクの中に沈没して、2日後に静電気が原因で火災が起こりました。さらに東日本大震災を引き起こした2011年の東北地方太平洋沖地震でも、東京・西新宿の超高層ビルが10数分間にわたって大きく揺れたことでも話題となりました。

地震発生直後に発表される震度は、地表近くの比較的短い周期の揺れを対象とした指標のため、このようなゆっくりとした大きな揺れを表すには不十分でした。そのため、長周期地震動の被害を表す指標として、2013年3月に設定されたのが長周期地震動階級です。長周期地震動階級では、高層ビルにいる人が受ける行動の被害や、家具や什器の移動・転倒等の被害の程度を4つの段階に分けて表しています。(表2参照)

表1 長周期地震動が発生した主な地震
発生年 地震の名称 地震の規模
1964年 新潟地震 M7.5
1968年 十勝沖地震 M7.9
2000年 鳥取県西部地震 M7.3
2003年 十勝沖地震 M8.0
2004年 東海道沖地震 M7.4
2004年 新潟県中越地震 M6.8
2007年 新潟県中越沖地震 M6.8
2011年 東北地方太平洋沖地震 M9.0
2013年 長野県北部地震 M6.8
2016年 熊本県熊本地震 M7.3
2018年 北海道胆振東部地震 M6.7
2024年 能登半島地震 M7.6
 
表2 長周期地震動階級関連解説表
長周期地震動階級 人の体感・行動 室内の状況 備考
長周期地震階級1 室内にいたほとんどの人が揺れを感じる。驚く人もいる。 室内にいたほとんどの人が揺れを感じる。驚く人もいる。 -
長周期地震階級2 室内で大きな揺れを感じ、物に掴まりたいと感じる。物に掴まらないと歩くことが難しいなど、行動に支障を感じる。 キャスター付き什器がわずかに動く。棚にある食器類、書棚の本が落ちることがある。 -
長周期地震階級3 立っていることが困難になる。 キャスター付き什器が大きく動く。固定していない家具が移動することがあり、不安定なものは倒れることがある。 間仕切り壁などにひび割れ・亀裂が入ることがある。
長周期地震階級4 立っていることができず、はわないと動くことができない。揺れにほんろうされる。 キャスター付き什器が大きく動き、転倒するものもある固定していない家具の大半が移動し、倒れるものもある。 間仕切り壁などにひび割れ・亀裂が多くなる。

長周期地震動による被害

前述の通り、長周期地震動とは、比較的規模の大きな地震において発生する、ゆっくりとした大きな揺れのことで、高層ビルを大きく長い時間揺らすことがあります。特に、高層階になるほど大きく揺れるため、家具や什器が移動したり転倒したりすることがあります。また、エレベーターの障害が発生することもあります。

例えば、2004年10月に発生した新潟県中越地震(M6.8、最大震度7)では、震源から約200kmも離れている東京都港区の六本木ヒルズ(震度3)で、エレベーター6機のワイヤーが共鳴し損傷するなどの被害が発生しました。また、2011年3月の東北地方太平洋沖地震(M9.0、最大震度7)でも、震源から約700kmも離れている大阪市(震度3)の大阪府咲洲庁舎で、内装材や防火扉等の損傷(360か所)、エレベーターの停止(全32基)による閉じ込められ者の発生といった被害が起こりました。

これらの被害の原因は、建物が持つ固有の揺れやすい周期(固有周期)と関連があります。高層ビルの固有周期は、低層の建物の周期よりも長いため長周期地震動と一致しやすく、周期が一致することで「共振」しやすくなります。共振すると高層ビルは長時間にわたって大きく揺れます。

たとえて言えば、洗濯機で脱水をするとき、槽が回りだしたてからあるところで洗濯機が激しく震動することがあります。これは洗濯機の持つ固有周期と脱水槽の回転の周期が一致するためで,この現象が「共振」しているという状況です。そのため、地震により「共振」が起きると、表2の「長周期地震動階級関連解説表」に示されるように、人の行動が影響を受けたり、家具や什器が移動・転倒したり、間仕切り壁等にひび割れが入ったりします。また、東京や大阪で起こったようなエレベーターに障害が発生するのです。

BCPにどのように取り込むか

長周期地震動によって大きく揺れる可能性のある高層ビルにおいては、家具や什器が凶器に変わることもあり、エレベーターが長時間停止することで地上との行き来が困難になることも考えられます。我が社の建物は、免震装置(一般的には、建物と地盤の間にゴムと鋼板を交互に何層も重ねた積層ゴムを入れた装置のこと)が入っているから問題ないハズというのも早計です。免震装置は建物の揺れをゆっくりとする働きがあるため、その周期が長周期地震動と一致すると、「共振」によって揺れが増幅される可能性があることが確認されています。また、長周期地震動が長く続くと、免振装置の復元力が弱まるため、免振の効果が減衰するという実験結果もあります。つまり、免震装置も完璧ではないのです。

最悪の事態を想定して、次のような事前対策を準備しておくことが必要です。

1.家具や什器の固定化 家具や什器が転倒・移動することにより負傷者が発生しないように壁や床に固定化し、被害が軽減されるようにしましょう。

2. 水や食糧、簡易トイレ等の備蓄 長周期地震動によってエレベーターが停止、または停電が発生することでもエレベーターが停止することが考えられます。また、停電により給水が停止する可能性もあります。十分な備蓄品(水、食料、簡易トイレ等)を準備しておきましょう。

3. 救急用品の準備と使い方の訓練 消防や救急による救護が低層階より高層階の方が時間を要する可能性があります。従業員が協力して応急救護を行えるように、救急用品を準備し、事前に使用方法等の訓練もしておきましょう。

また、気象庁では、地震後の安否確認や設備点検等の防災対応の実施を支援することを目的として「長周期地震動に関する観測情報」を試行的に発表しています。現在、この情報は、地震発生後20分程度で発表されていますが、将来的には緊急地震速報と同様な予測情報の提供も検討されていますから、この情報をBCPに活かすことも可能になるかもしれません。

いずれにせよ、長周期地震動へのBCP対策は、高層化が進んだ都市においては大きな課題です。特に、高層階に拠点を置く組織は、早急に上記の事前対策の実行に着手することをお勧めします。

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