【解説】海溝型地震とは?地震発生のメカニズム・活断層型地震との違い・企業が備えるべき防災対策
| 改訂者: | ニュートン・コンサルティング 編集部 |
海溝型地震は、活断層型地震(直下型や内陸型)とは発生の仕組みや被害傾向が異なり、津波を誘発するおそれがあります。そのため、企業のBCP対策においても理解しておくべき地震の一種です。本記事では、海溝型地震の特徴や発生のメカニズム、活断層型地震との違い、過去日本で発生した代表的な事例を踏まえ、企業が講じるべき防災対策をわかりやすく解説します。
海溝型地震とは
海溝型地震とは、海側のプレートと陸側のプレートの境界に位置する「海溝」や「トラフ」を震源域として発生する地震を指します。
地球の表面は、十数枚の巨大な板状のプレートで覆われており、それぞれのプレートが別の方向に年間数センチメートルの速度で移動しています。これを「プレート運動」と呼び、陸側のプレートの下に海側のプレートが沈み込む場所では、プレート運動が地震を誘発します。
海溝型地震の発生の仕組み
海溝型地震には、大きく分けて「プレート間地震(プレート境界型地震)」と「プレート内地震(スラブ内地震)」があります。
日本周辺で確認されている「プレート間地震(プレート境界型地震)」では、図1の通り、海側のプレートが陸側のプレートを巻き込み、沈み込むことでひずみが発生します。プレート間の固着域でひずみが蓄積され、限界に達した場合に、陸側のプレートが跳ね上がり、海溝型地震が発生します。
図1:海溝型地震の発生メカニズム
プレート間地震には、陸側のプレートが跳ね上がる際に解放されるひずみエネルギーが、数秒から数分という短時間で地震動として地表に伝わるものと、ゆっくりとプレートが動くことで、数日から数年をかけてひずみエネルギーが解放される「ゆっくりすべり(スロースリップ)」があります。特に、前者においては、関東大震災や東日本大震災などが該当し、巨大地震となるおそれがあるため注意が必要です。
「プレート内地震(スラブ内地震)」は、陸側のプレートの下に沈み込んだ海側のプレート(スラブ)の内部で発生する海溝型地震です。沈み込む過程で海側のプレートに張力や圧縮力が加わり、岩盤が破壊されたり大きくずれたりすることで発生します。
プレート内地震には、陸側のプレートの下に海側のプレートが沈み込む直前に、海溝やトラフよりも外側にある海側のプレートが曲がることで隆起し、その隆起した内部の断層に縦ずれが発生して引き起こされる地震があります。これを「アウターライズ地震」と呼びます。
海溝型地震の特徴
海溝型地震には大きく3つの特徴があります。
1つ目は、震源が海域にあるため、地震の発生から陸地に揺れが到着するまでにやや時間があるという点です。この揺れは、小さな縦揺れが到達した後に、振幅の大きな横揺れが数分間続きます。
2つ目は、プレート境界が長距離にわたることから、プレートの跳ね上がる範囲が広くなることで、地震自体が発するエネルギー(マグニチュード)が大きくなる傾向にあることです。東日本大震災はその典型であり、長さ約450km、幅約200kmにも及ぶ断層が、最大で20~30m程度動きました。その結果、北海道から九州地方の広い範囲で、震度1から震度7を観測しています。
3つ目は、海溝やトラフ付近の海底が上下変動することにより、海水全体を動かして海面を押し上げ、その波が伝播することで津波を誘発する可能性が非常に高いとされています。海溝型地震による津波は、プレート運動の縦ずれが大きいほど、大きな津波を引き起こします。
海溝型地震の場合は、揺れの特徴・広範囲への被害・津波の発生可能性に留意します。緊急地震速報を受信した際は、大きな揺れが収まるまでは安全確保に努め、揺れが落ち着いた後に、津波の影響を考慮した迅速な避難行動を開始します。津波が発生する可能性がある、あるいは発生した場合は、気象庁より「大津波警報・津波警報・津波注意報」が発表されます。平時から避難の際に取るべき行動と受信手段を改めて確認することが重要です。
海溝型地震と活断層型地震の違い
海溝型地震と比較対象となる「活断層型地震」とは、陸側のプレート内部にある活断層で発生する地震です。内陸側の断層で発生するため、「内陸型地震」や「直下型地震」とも呼ばれます。図2は、海溝型地震との発生メカニズムの違いをわかりやすく示したものです。
活断層型地震は、陸側と海側のプレート運動により、陸側の断層にひずみが蓄積され、断層が破壊されることで発生します。通常は、それぞれの断層の割れ目が互いに固く密着している状態です。これらの断層にプレート運動による大きな力が加わることで、断層の割れ目が互いに逆方向へずれます。この断層の動き方により「正断層・逆断層・右横ずれ断層・左横ずれ断層」という4タイプに分けられます。このずれの現象を「断層活動」と呼び、その衝撃が地表に伝わるものが地震です。
日本には、確認されているだけでも約2,000の活断層があり、六甲・淡路島断層帯の一部の断層活動により発生した地震が、阪神・淡路大震災です。この震災により、政府は活断層の調査を推進し、現在では調査対象である「主要活断層帯」を選定し、114の断層帯の調査・評価を行っています。
海溝型地震と活断層型地震は、発生場所や地震の規模などが大きく異なります。活断層型地震は、震源が浅く、海溝型地震と比較すると地震の規模も小さいという特徴があります。表1は、それらの違いを示したものです。
表1:海溝型地震と活断層型地震の違い
| 項目 | 海溝型地震(プレート境界型) | 活断層型地震(内陸地震) |
|---|---|---|
| 発生場所 | 主に海域。プレート同士の境界で発生(海洋プレートが沈み込む場所) 例)日本海溝・千島海溝・南海トラフ・相模トラフなど |
主に陸地。プレート内部の断層(活断層)のずれで発生 例)六甲・淡路島断層帯、三浦半島断層群、塩沢断層帯など |
| 発生間隔 | 短期間(数十年~数百年周期) | 長期間(数千年周期) |
| 震源の深さ | 浅い~深い(数km~700km程度) | 浅い(数km~30km程度) ※揺れが強く出やすい |
| 津波発生の有無 | 発生しやすい | 基本的に発生しない |
| 被害地域の特徴 | 広範囲におよび、沿岸部は津波による被害の可能性 | 局地的に建物倒壊など甚大な被害 |
内閣府「特集 地震を知って地震に備える!」防災科研「海溝型地震と活断層型地震」を基にニュートン・コンサルティングが作成
表1に示した通り、活断層型地震は、震源の深さが数kmから30km程度であるため、震源が近く、揺れの到達が海溝型地震よりも早いことが特徴です。この場合、震源域の上では突き上げるような激しい縦揺れが発生する傾向にあります。地震の規模が小さい場合でも、局所的に強い揺れとなるため注意が必要です。
さらに、活断層型地震の場合は、緊急地震速報の受信が間に合わない場合があります。突然の強い揺れが発生した場合は、安全に配慮しながらオフィスにある高い家具や窓付近から離れる、その場で頭を守り姿勢を低くするなど、身の安全確保を最優先に対応します。この場合、オフィスの各座席にヘルメットを準備するとすぐに着用できるため安全確保対策として有効です。
このように、海溝型地震と活断層型地震は特徴が異なるため、これらを踏まえたBCPの策定と改善を推進する必要があります。わかりやすい例としては、海溝型地震の分類とされる南海トラフ地震と、活断層型地震に分類される首都直下地震では対策が異なるということです。前述した対策はあくまで地震が発生した時点の対策であるため、発生可能性の高い地域や津波の有無、被害範囲や発生後の長期的な対策を含め、企業単体ではなく、地域住民やサプライヤーと協力して、事業を止めない仕組みを構築することが肝要です。
日本で過去発生した海溝型地震の事例
日本列島は複数のプレート境界に位置しており、世界的に見ても地震の発生が多い国とされています。図3は、日本で発生した主な地震を「海溝型地震」と「活断層型地震」に分類し、その分布を示したものです。
図3:過去に日本で発生した主な海溝型地震と活断層型地震の分布図
ご覧の通り、海溝型地震は主に太平洋側で発生していることがわかります。
これは、北米プレートやユーラシアプレートといった陸側のプレートの下に、太平洋プレートやフィリピン海プレートなどの海側のプレートが沈み込んでおり、このプレート境界が、太平洋沖に広がっているためです。日本海溝・千島海溝・相模トラフ・南海トラフといったプレート境界が太平洋沿いに連続して分布していることから、海溝型地震の発生が集中する要因となっています。
海溝型地震のうち、日本に未曽有の被害をもたらした地震が、2011年に三陸沖を震源として発生した東日本大震災です。
日本国内で観測史上最大規模であるマグニチュード9.0を観測し、最大震度7を記録しました。海溝型地震の特徴である津波の発生により、地震の発生から数分~数十分で岩手県・宮城県・福島県の沿岸部に津波が到達し、それらを含めた茨城県・千葉県などの6県に浸水被害が発生しました。これによる浸水範囲面積は561㎢に及んでいます。その結果、東日本大震災による死者は1万5千人を超え、そのうち90%以上が津波による溺死とされています。(※1)
さらに、地震の規模が大きく、首都圏でも震度5弱から震度6強の強い揺れを観測し、交通機関が麻痺したことから約515万人の帰宅困難者が発生しました。そのほか、道路破壊や拠点破損による交通・物流の長期麻痺、電力・通信の広域障害の発生、地震と津波の複合災害によってサプライチェーンが寸断され、企業活動に影響を及ぼしました。東日本大震災による経済被害は、約16.9兆円と報告されています。(※2)
このように、海溝型地震は、非常に広範囲に甚大な影響を与えることがわかります。企業は、発災時の対応だけでなく、早期復旧を見据えたBCPの策定・改善と、自社だけでなく、サプライヤーにその活動を広げることが求められます。
(※1)内閣府 男女共同参画局「平成24年版男女共同参画白書」
(※2)内閣府「企業の防災対策・事業継続強化に向けて」
海溝型地震に備えるために必要な対策
今後想定される大規模な海溝型地震には、モーメントマグニチュード(Mw)9.1が推定されている南海トラフ地震や、広範囲にわたり津波の浸水が懸念される日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震があります。これまでに説明した海溝型地震の特徴と、東日本大震災の事例を踏まえると、具体的な対策は大きく2つ挙げられます。
1つ目は、防災に関する情報と情報システムの理解・活用です。
地震に関する防災情報には、緊急地震速報、南海トラフ地震臨時情報、北海道・三陸沖後発地震注意情報、長周期地震動に関する観測情報などがあります。地震に伴い発生する津波については、津波警報や注意報が発表されます。
地震の規模や発生場所、フェーズに沿ったシナリオ計画を立てるためには、これらの情報がどのような基準で発表されるのか、それぞれの意味を理解し、行動に落とし込むことが重要です。
特に、海溝型地震は、津波が伴う危険性もはらんでいるため、前述した防災情報以外にも、ハザードマップ(被害想定や避難場所を地図上に表したもの)や、防災マップ(避難経路・避難所などを記したもの)を平時より活用することが有効です。高台や津波避難ビルまでの所要時間の把握などを、従業員が自発的に行うことで、全社のリスク感度向上につながります。
さらに、これらの取り組みを発災時に活かすためには、社内の情報共有体制を構築・推進することにとどまらず、円滑にコミュニケーションを図るための部署間の連携やリスクカルチャーの醸成がカギとなります。実際に、東日本大震災で被災しながらも、チームワークによって乗り越えた企業の実体験について、「チームワークで乗り越えた3.11。その教訓を伝えたい」という記事で紹介しています。ぜひご覧ください。
2つ目は、BCP策定や改善などの取り組みを、自社だけでなく、サプライヤーにまで広げることです。
たとえば、製造業においては、1つの商品を販売し消費者に届けるため、「部品や原材料の調達→生産→在庫管理→配送→販売」といった工程があります。東日本大震災のような巨大地震が発生した場合、いずれかの過程が途絶する可能性が大いにあります。実際に東日本大震災では、生産工場の被災、在庫管理倉庫の浸水、交通インフラの途絶などが発生し、サプライチェーンに大きな打撃を与えました。
発災後の早期復旧と事業継続のためには、原材料の調達先を複数確保し、生産拠点をリスク評価した上で分散させ、道路が寸断された場合の代替手段として、海路や空路による輸送手段を持つ企業とのコミュニケーションを平時より行うことが求められます。
自社だけでなく、サプライヤーのBCP取り組み状況を調査し、連携と支援を業界全体で最適化することが不可欠です。
このような対策は、発災後の復旧段階では着手が難しいため、事前に講じる必要があります。また、事前対策を行っていても、すぐに有効性が高いものにはなりません。中長期的に時間がかかるという点に留意し、早めの段階から取り組むことが、企業の事業継続と、従業員の安全確保につながります。