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コラム

「新たなステージ」に対応した防災気象情報

2020年07月02日

コンサルタント

谷野 祐規

コンサルタント 谷野 祐規

近年、集中豪雨や大型の台風が増加しています。このような雨の降り方の変化等を「新たなステージ」と捉え、最悪の事態も想定しつつ危機感を持って防災・減災対策に取り組むための情報を、国土交通省は「『新たなステージ』に対応した防災気象情報」と呼び、2015年1月に報告書「新たなステージに対応した防災・減災のあり方」を取りまとめました。そして国交省が指摘した通り、自然災害は激甚化し、2019年の台風19号では関東地方や甲信地方、東北地方などで記録的な大雨となり、500名以上の死傷者が発生するなど甚大な被害をもたらしました。

このような現状に鑑みて、今まさに「新たなステージ」に突入しているという認識のもと、改めて防災・減災のあり方を確認するとともに、今後企業に求められる対策をBCPの観点から再考していきます。

「雨の降り方の変化等」に関する現状認識と将来予測

先述の「雨の降り方の変化等」ですが、現在どのような変化が起こっているか、今後はどのような予測がされているかについて詳しく説明します。

現状認識

以下は気象庁の統計による、全国の1時間降水量50mm以上の年間発生回数の推移となります。最近10年間(2010~2019年)の平均年間発生回数は、統計期間の最初の10年間(1976~1985 年)の平均年間発生回数と比べて、約1.4倍に増加しています。

図1 全国の1時間降水量50mm以上の年間発生回数の経年変化(1976~2019年)

出典:気象庁 大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化

また、以下の図は過去10年間に日本で発生した主な自然災害です。台風や豪雨による災害の発生が増大し、一回の災害における被害も激甚化していることがわかります。

図2 過去10年間に日本で発生した主な自然災害

出典:内閣府 防災情報のページに基づき弊社にて作成

将来予測

将来予測については、気象庁が2015年に「地球温暖化予測情報第9巻」で21世紀末の雨の降り方についての発表を行いました。この資料によると、1時間降水量50mm以上の短時間強雨の年間発生回数は全国的に有意に増加し、全国平均では2倍以上となると予測されています。(一部データが2017年に更改されており、下記データはそれを反映したものです。)

図3 全国及び地域別の1地点あたりの1時間降水量 30mm 以上(上)、1時間降水量 50mm 以上(下)の発生回数の変化(単位:回)

出典:文部科学省「データ統合・解析システム(DIAS)」の「地球温暖化予測情報第9巻」

※将来気候と現在気候との差を統計的に処理し、棒グラフは平均発生回数(バイアス補正済み)、細い縦線は年々変動の幅(各地域とも、左:現在気候、右:将来気候)を示している。 ただし、現在気候には補正後も依然としてバイアスが残っており、観測値とは異なることに注意。付表はそれらの各数値を「将来変化量±標準偏差」で示し、その将来変化量が信頼度水準 90%で有意に増加(減少)する場合は青字(赤字)としている。

「新たなステージ」に対応するための方向性

このように、雨の降り⽅が局地化・集中化・激甚化していることを踏まえ、今後の気候予測を念頭に、その傾向が将来にわたって継続する可能性があるとして国交省はこのような雨の降り方の変化等を「新たなステージ」と捉えています。そして、「新たなステージ」に対応するために、防災・減災対策に取り組んでいます。

国交省が発表した「『「新たなステージ」に対応した防災・減災のあり方』」を受け、交通政策審議会気象分科会では、気象庁が防災・減災のために取り組むべき事項についての審議を行い、2015年7月に気象庁への提言として「『新たなステージ』に対応した防災気象情報と観測・予測技術のあり方」をとりまとめました。

この提言では、改善に向けて以下の2つの基本的方向性が示されています。

  1. 社会に大きな影響を与える現象について積極的に伝えていく。
  2. その切迫度を認識しやすくなるよう、分かりやすく情報を提供していく。

図4 交通政策審議会気象分科会の提言を受けた防災気象情報の改善の方向性

出典:気象庁 「新たなステージ」に対応した防災気象情報の改善

2つの基本的方向性から導かれる防災気象情報の具体的な改善策

それらの方向性をもとに、現在情報の改善が進められ、2017年の出水期から実施している改善策を3つ紹介します。

「警報級の可能性」の発表を開始

1つ目の改善は、「警報級の可能性」の提供です。これは夜間の避難を回避するため、可能性が高くなくても、「明朝までに警報級の現象になる可能性」を夕方までに発表します。これにより、該当者に必要に応じた避難や普段よりも心構えを高める等の対応を促すことが期待できます。

大雨時には、雨は地中に浸み込んで土砂災害を発生させたり、地表面に溜まって浸水害をもたらしたり、川に集まって増水することで洪水災害を引き起こしたりします。

気象庁では、雨によって災害リスクが高まるメカニズムを「土壌雨量指数」、「表面雨量指数」、「流域雨量指数」として指標化し、技術開発を進めてきました。

これらの3つの「指数」を用いることによって、「雨量」そのものよりも災害リスクの実態を適切に評価することができるようになり、より的確な警報発表につなげています。

図5 警報の危険度分布

出典:気象庁 危険度を色分けした時系列(平成29年度出水期より)

危険度を色分けした時系列の提供

2つ目の改善は、今後予測される雨量等や危険度の推移について、危険度を色分けした時系列の形で市町村ごとに提供したことです。具体的には、警報級や注意報級の現象が予想される時間帯を、それぞれ赤、黄色で表示するなど、視覚的に分かりやすい色分けを行い、雨量、風速、潮位などの予想値も3時間単位の時間帯ごとに表示しています。

これにより、いつ頃から災害の危険性が高まるかが直感的に理解しやすいものとなっています。

図6 危険度を色分けした時系列

出典:気象庁 危険度を色分けした時系列(平成29年度出水期より)

大雨警報(土砂災害)の危険度分布(土砂災害警戒判定メッシュ情報)の表示の改善

3つ目の改善は、メッシュ情報の利活用促進です。気象庁では、雨による災害発生の危険度の高まりを評価するメッシュ情報の技術の開発を進めています。降った雨が土砂災害を引き起こしたり、浸水害や洪水を引き起こしたりするプロセスを定量化したさまざまな指数を駆使し、メッシュごとの危険度を評価できるようにしました。

下記の図のようなイメージで、自分のいる地域の土砂災害発生リスクをより把握しやすくするため、土砂災害警戒判定メッシュ情報と市町村名や国土数値情報の地理情報(道路・鉄道・河川等)を重ね合わせて表示されます。

なお、「危険度分布」で最大危険度の「濃い紫」が出現した場合は、過去の重大災害時に匹敵するような極めて危険な状況であることを示しています。そのため、特に土砂災害や洪水により命に危険が及ぶ場所では早めの避難を心がけ、遅くとも「薄い紫」が出現した時点で、速やかに避難開始を判断することが重要です。

図7 土砂災害警戒判定メッシュ情報の表示

出典:気象庁 土砂災害発生の危険度を地理情報と重ねて分かりやすく伝えます
~土砂災害警戒判定メッシュ情報の表示の改善~ 別紙

今後の期待と企業に求められる対策

現在ではさらなる防災気象情報の改善や、観測・予測技術の向上、防災気象情報の伝え方の改善に向けた取り組みが行われています。例えば2017年7⽉九州北部豪⾬の際には、テレビ放送でのリアルタイムの状況解説に、大雨・洪水警報の危険度分布が用いられました。また、気象庁は2018年7月豪雨での西日本への甚大な被害が発生したことなどを踏まえ、避難等の防災行動に役立つための防災気象情報の伝え方について課題を整理し、今後の改善策の検討を継続的に行っています。

今後はこのようなインフラを活用しつつ、最悪の事態も想定して、個人、企業、地方公共団体、国等が、主体的に連携して対応することが必要です。「『新たなステージに対応した』防災気象情報」の活用による目指す姿を、2015年に国交省が取りまとめた報告書「新たなステージに対応した防災・減災のあり方」に沿って「命を守る」「社会経済の壊滅的な被害を回避する」という2点の視点で確認しましょう。

命を守る

「命を守る」について目指す姿として掲げられているのが、「『行動指南型』の避難勧告に加え、『状況情報』の提供による主体的避難の促進、広域避難体制の整備等」です。

つまり、避難を促す状況情報を「『新たなステージ』に対応した防災気象情報」により提供し、個人や組織の「心構え」を醸成し、「知識」を充実させることで、災害に対して適切な避難活動を行うことが期待できるということです。

企業としては、危険度の警戒レベルに応じた指針を定め、速やかに避難など命を守るための最善の行動をとる仕組みを構築することで「心構え」を醸成し、「知識」を充実させることが求められます。 まず、「『新たなステージ』に対応した防災気象情報」を活用した「心構えの醸成」の取り組み例としては以下のようなものが挙げられます。

  • 大雨の危険を前日など、比較的時間に余裕のある時期に察知しハザードマップ等で避難行動を確認する。
  • 数時間前には避難準備を整え避難行動を開始する。
  • 従業員へ自宅待機や在宅勤務を指示することで安全確保を優先させる。


時系列と危険度に応じた行動指針を確立することで有事への心構えを醸成することを目指します。

また、「知識」を充実させるための取り組み例としては、前述の「警報級の可能性」「危険度を色分けした時系列」「大雨警報(土砂災害)の危険度分布」についての理解を深めるための研修などを実施することで、例えば自宅待機や移動中の従業員が状況に応じた適切な行動を取れるようにすることなどが挙げられます。

研修内容としては知識面の周知に加え、状況設定を行い避難行動のシミュレーションを行う、あるいは職場ごとでの避難経路を共有する等の訓練的な要素を加えると良いでしょう。同様に自宅にいることも想定して、避難経路の確認や職場の主たるメンバーへの安全確認(ツールや手法)について定めるなど、有事の際に実行可能な形まで落とし込めると有効です。

 

社会経済の壊滅的な被害を回避する

「社会経済の壊滅的な被害を回避する」については、「最悪の事態を想定・共有し、国、地方公共団体、公益事業者、企業等が主体的かつ、連携して対応する体制の整備を目指す」ことが目指す姿として掲げられています。具体的には、荒川の氾濫や東京湾高潮氾濫などにおける被害想定を行い、インフラやライフライン施設被害の想定や企業の水害リスクの適切な認識が必要となります。

企業に求められる対策としては、人命を守ることに加え、重要資産の保護を目的とした緊急時対応と、限られた資源の中で効果的・効率的に重要業務の継続を図ることを目的とした事業継続の大きく2つの観点での取り組みがあります。

緊急時対応の観点では、平時よりハザードマップ等を確認の上、洪水や土砂災害といった自拠点周辺のリスクを確認しておき、これらの発生可能性が高いのであれば、土嚢の準備や、水に弱い重要資産を高位に移動しておくなど、平時から予防策を実施します。

そして、突発的な集中豪雨などが発生した際には「『新たなステージ』に対応した防災気象情報」により、危険に先回りした行動が求められます。水害によって企業に影響を及ぼす事例としては、以下のようなものが考えられます。

  • 工場やオフィスといった企業の設備への被害 例:浸水など
  • 従業員への被害 例:通勤手段の喪失
  • インフラへの被害 例:停電、断水など


このような被害に対して、設備への浸水防止や従業員の安全確保など、危険を事前に察知することでダメージを極小化することが求められます。

さらに実際に被害が起きてしまった場合を想定して「いかに重要業務を継続するのか」を検討しておく必要があります。つまり事業継続の観点から、設備やインフラなど重要業務に必要な資源が機能しなくなった、あるいは喪失した際の代替策を準備するということです。

我々は今後の気候変化を「新たなステージ」と認識した上で、これまで以上の危機感を持って防災・減災対策に取り組む必要があります。「行動指南型」の避難勧告、避難する「心構え」を醸成させる「状況情報」の提供といった「新たな警告のあり方」に適切に対応できるよう、一人一人が自分事として、これらの意味を理解することが、その第一歩となるでしょう。 

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