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タイムライン防災

掲載:2018年07月23日

改訂:2022年06月22日

執筆者:エグゼクティブコンサルタント 辻井 伸夫

改訂者:ニュートン・コンサルティング 編集部

用語集

タイムライン(timeline)とは、時間軸や時間の流れを意味する英語です。

ただし、防災やBCPの文脈では、「防災行動計画」あるいは「事前対応計画」と訳されています。その意味するところは、「起きるかもしれない事象、あるいは過去に起きたことのある事象を時系列に並べて、将来の被害の発生を抑えるために策定する計画」ということです。

         

タイムラインの活用

2012年に米国を襲ったハリケーン・サンディは、交通やビジネス活動に極めて甚大な被害をもたらしましたが、ニューヨーク州では事前にタイムラインを策定しており、そのタイムラインをもとに住民避難等の対策をとって被害を最小限に抑えることができました。

このように、発生が予測される被害に対して、その被害を防ぐために必要な対応を共有するという点で、タイムラインは大変効果が高い計画といえます。そのため、水害や雪害などの進行型災害発生時の対応策の一つとして広く活用されています。また最近では、あらかじめ被害が想定される水害だけではなく、地震等による突発型災害発生後の対応策において有効なものとして活用され始めています。

自治体、企業で導入が進むタイムライン

気象庁がホームページで公開している「災害をもたらした気象事例(平成元年~本年)」によると、平成に入ってから、日本国内では年平均3.7件の気象災害が発生しています。台風による災害が多かった2004年(平成16年)には、なんと10件もの気象災害が発生しています。
 

【災害をもたらした気象事例の件数】

出典:気象庁HP「災害をもたらした気象事例(平成元年~本年)」よりニュートン・コンサルティングにてグラフ化

このように、日本は毎年必ず水害や雪害、風害などの気象災害が発生しているといっても過言ではありません。

そのため、被害を予測しやすい台風や豪雨等の災害に対しては、防災関係機関が連携して発生する状況を事前に共有し、「いつ」、「誰が」、「何をするか」を時系列で整理した行動計画、つまりタイムラインの策定が有効な対策と考えられるので、民間企業や地方公共団体などで防災計画の策定における災害対策の一部としてタイムラインの導入が進んでいます。

タイムラインの有効性

発生する(した)事象を時系列にまとめ、それらに照らして企業や組織ごとに取るべき対策や対応を纏めることは、既知の事象に対してはもちろんのこと、未知の事象に対しても、危機対応活動の実効性を向上させるといった意義が存在します。

例えば、台風などによる進行型災害であれば、発生から接近、そして上陸までの対応をまとめておくことで、災害発生前の早い段階で関係機関が密接に連携して防災・減災の対応ができるというメリットがあります。

また、地震による突発型災害発生時には本震からの対応、余震に対する対応を事前に想定しタイムラインにまとめておくことで、実際の有事の際にも事前に定めた手続きに則って対応活動を安定して実施できるというメリットがあると言えます。

【災害対応におけるタイムラインの位置づけ】

タイムライン作成時の勘所

タイムライン策定にあたっては、「いつ」、「誰が」、「何をするか」の3要素に着目し、時系列で行動計画を整理する必要があります。対応を行うタイミングと防災情報などの推移とを照らし合わせ、役割分担と連携体制を明確にし、そして既存の防災マニュアルやBCP等と整合した防災行動を記載していきます。

その上で以下4つのポイントを押さえた策定をすることが望ましいと言えます。

  1. 想定されるべき最悪の事態を、実事例を参考に設定する
    タイムラインの策定時には、過去の事例を参考にしながら発生する状況を予め想定し、タイムラインの対象とする災害を設定する必要があります。
    ただし、実際に災害が起こったときには、想定している状況とは異なる事態が発生する可能性があります。想定外の事態を減らすためにも、他地域での事例(ハリケーン、サイクロンなどの北米やアジア諸国での現象)も参考にして、最悪の事態を前提にした策定を行うことが望ましいと言えます。
     
  2. 内容を検討する場を全社的に設ける
    社内の連携を強化し災害対応を迅速かつ効率的に行うためには、関係部署間での情報共有、意思統一、そして各部署が主体的にタイムライン策定に関わることが重要です。そのため、社内での既存の会議体を利用する、あるいは新たに設置するなどして、関係部署を集め内容を協議できる検討の場を設けることが望ましいと言えます。
     
  3. 自組織以外の関係先の活動も考慮して調整する
    大規模災害時には、いかに自組織以外の関係機関と連携できるかが復旧を早めるカギになってきます。そのため、タイムラインの策定を検討する場合には、顧客、サプライヤー、行政機関といった自組織以外の関係機関と情報共有と意思統一を図っていくための検討の場を設けることが重要です。この際の検討の場としては、業界または地域の協議会などの組織を用いて検討を進めていくことが考えられます。
     
  4. ふりかえり(検証)を行う
    策定したタイムラインは、BCPをはじめとする他の危機管理計画と同様、検証と改善を繰り返していくことが、対応力を向上させるという点で非常に有効です。実際の災害対応後や訓練後にふりかえりを行うことで、想定外であった事象や実施すべきであった対応の検知が可能となり、その後のタイムラインの改善につなげることができます。あいにく、日本においては台風被害の多さからタイムラインの内容を検証できる機会が多いため、その環境を活かしPDCAサイクルを回していくことが重要です。
 

以上の4つの勘所を押さえることで、有効なタイムラインの策定ができます。ただし、策定したマニュアルや文書は、その時点から陳腐化が進んでいくものだという認識を持ち、常にブラッシュアップさせることが何よりも重要です。

タイムライン利用上の注意事項

災害発生時に起こることをできる限り想定してタイムラインを策定したといっても、実際の災害では、その想定とは異なる事態(想定外)が発生することは容易に想像できます。例えば、2018年7月に西日本各地を襲った豪雨では、避難指示の発令やダムの放流の案内が夜間に出されたため避難できなかったり、特別警報が出された時にはすでに河川の氾濫が起こったりしていました。

また、豪雨と地震がほぼ同時に発生するような複合的な災害にあたっては、単一の災害を対象としたタイムラインで定めた行動計画だけでは対応できません。このような「想定外」に対しては、関係組織が連絡を取り合って、その場で臨機応変に対応していくことが求められます。

タイムラインは有効なものであることは間違いありません。しかし、実際に災害が起こった時に動くことができるようにするためには、訓練・演習が重要なことは他の防災計画、事業継続計画と同じです。タイムラインを実効性のあるものとするためには、関係組織間の連絡や避難等の行動の周知・指示、防災行動の手順などの訓練・演習を重ねていくことが求められます。

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