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積算雨量に基づく有効なBCPの考え方

掲載:2020年04月17日

コラム

近年、多くの地域で風水害が発生しています。その規模を図る指標のひとつに「積算雨量」があります。

2018年7月の西日本豪雨(平成30年7月豪雨)では、最も降雨量が多かった高知県の積算雨量は1,000ミリを超えました。翌年、2019年10月の台風19号(令和元年台風19号)では、神奈川県箱根町の積算雨量は1,001.5ミリを記録し、首都圏を含む東日本に大きな被害をもたらしました。

このような風水害に対して、従業員や家族の安全確保、建物や設備の被害防止など、事業への影響を軽減することは、企業にとって重要かつ喫緊の課題となっています。

         

積算雨量とは

西日本豪雨(京都嵐山 渡月橋と増水した桂川)

どの時点でどのような判断、対応をするかの指標の一つとして、「積算雨量」が有効です。

 積算雨量とは一般的には、「ある一定の期間(例えば日積算・月積算など)に降った雨の量」を指します。

 一定期間の時間軸は各機構・自治体によって様々で、1時間もあれば、24時間などその定義は異なります。例えば、気象庁では計測期間を時間や日単位に設定しており、積算雨量を「××時間雨量」または「日雨量」という表現を使用しています。近年ゲリラ豪雨という言葉が定着したように、短時間で大量の雨が降ることが多くなりましたが、短時間であるゆえに排水機能などがパンクし、大きな被害をもたらします。積算雨量はその被害を予測しやすくしている側面もあり、企業のBCPなどにも有効な指標として活用できます。

積算雨量と予報用語の関係 

天気予報などで、「強い雨」や「激しい雨」等の表現を耳にしたことがあると思います。また「バケツをひっくり返したような」「滝のように降る」という表現も近年多く聞いているのではないでしょうか。

気象庁では雨の強さを1時間積算雨量に基づいて分類しています。この1時間積算雨量には5段階あり、以下の「予報用語」と「人の受けるイメージ」を紐付け、わかりやすくなるよう工夫しています。

【表1:雨の強さと降り方】
1時間雨量(mm) 予報用語 人の受けるイメージ
10以上~20未満 やや強い雨 ザーザーと降る
20以上~30未満 強い雨 どしゃ降り
30以上~50未満 激しい雨 バケツをひっくり返したように降る
50以上~80未満 非常に激しい雨 滝のように降る
80以上~ 猛烈な雨 息苦しくなるような圧迫感がある。恐怖を感じる
(出典:気象庁ホームページを基にニュートン・コンサルティングが作成)

近年の風水害の積算雨量

実際の例として、近年発生している大型台風の積算雨量はどの程度だったのか、発災事例をもとに見ていきます。

令和元年台風19号

一つ目の例として2019年10月の台風19号を取り上げます。

台風19号は多くの地域に記録的な大雨をもたらしました。10月10~13日までの総積算雨量が、神奈川県箱根町で1,000ミリに達し、東日本を中心に17 地点で500ミリを超えました。特に静岡県や新潟県、関東甲信地方、東北地方などの多くの地点で3、6、12、24時間降水量について観測史上1 位を更新する記録的な大雨でした。台風19号による被害は死者99名、家屋の全壊が3,081棟に上りました。
 

【表2:台風19号の被害状況】
項目 詳細
人的被害 【死者】99名 【行方不明者】3名 【負傷者】484名
物的被害 【全壊】3,081棟 【半壊】24,998棟
停電 最大521,540件
断水 最大167,986戸
(出典:内閣府 2019年「令和元年台風第19号等に係わる被害状況等について」、P.5)

 

【図1:2019年10月13日9時ごろ関東地方の降水量分布】

(出典:気象庁2019年「台風第19号による大雨、暴風等」、P.6)

【表3:2019年10月10~13日1時間積算雨量ランキング】

(出典:気象庁2019年「台風第19号による大雨、暴風等」、P.6)

令和元年10月低気圧等による大雨

もう一つの例として、2019年10月下旬に発生した低気圧等による大雨の事例を見ていきます。 10月23日に東シナ海で発生した低気圧が、24日から26日にかけて、太平洋沿岸に沿って北上。この低気圧のため、関東地方から東北地方の太平洋側を中心に広範囲で総積算雨量が100ミリを超え、12時間降水量が10月の降水量平年値を超えたところがありました。特に、千葉県や福島県では総積算雨量が200ミリを超えたほか、3、6時間降水量の観測史上1位の値を更新する記録的な大雨となりました。

【図2:2019年10月25日11~12時ごろ関東地方の降水量分布】

(出典:気象庁2019年「低気圧等による大雨」、P.6)

【表4:2019年10月24~26日1時間積算雨量ランキング】

(出典:気象庁2019年「低気圧等による大雨」、P.6)

企業が検討しておくべき水害への備え・水害対応BCP

風水害対応のBCPとして、個人・組織に限らずまず検討すべきは、避難前に実施する被害軽減策、そして迅速な避難です。

地震などの突発災害とは異なり、雨による災害は事前に予測することが可能です。当然避難前には被害を軽減するために防水壁の設置や土嚢の積み上げなども可能であり、事業継続で重要な資機材、例えば在庫品の荷揚げや金型などの安全な場所への移動・移設を可能な限り試みるべきです。

そして避難については、地域によってそのレベルは異なるものの、積算雨量や河川の水位がある一定レベルを超えると、大雨警報や河川氾濫警報などが発令される可能性が高くなります。避難のタイミングは地域を管轄する自治体主導の面も大きいものの、原則「自助」として考え、積算雨量等に基づき、企業としてどう判断するか事前に検討しておくことが有効です。

被害を抑えるため、企業及び個人がとれる対策には以下のようなものがあります。
 

対策 概要
ハザードマップの確認
および周知
自宅および会社所在地域のハザードマップを確認し、以下の情報を入手および周知
  • 周辺河川情報(各警報水位の確認)
  • 避難場所
  • 災害時指定医療機関
備蓄品、非常用持ち出し
備品の準備
避難時、必要な備品を準備
  • 飲料水、非常用食品
  • 現金、貴重品
  • 衣料、毛布、など
初動対応計画の策定 事前に以下の事項を組織として検討・決定しておく
  • 避難するタイミング
  • 警戒本部の設置基準や収集すべき情報のリストアップ
  • 帰宅及び出社方針、など
特に避難するタイミングは、豪雨の際、テレビ、ラジオやスマートホンなどの媒体にて避難勧告・指示の発令をモニタリングし決定する、あらかじめ1時間積算雨量が50ミリレベル以上となったら避難する、等の計画・ルールを作成しておくことによって、被害を最小限に抑えることができます
事業継続計画の策定 事業の優先度、重要な経営資源を洗い出し、被害を低減すための在庫の荷揚げや別の安産な場所への移動、浸水した場合の代替策として代替オフィスやITシステムのクラウド化等を検討し、事業継続計画として取りまとめることも重要です
タイムラインの策定 前述したとおり、水害は突発災害と違い、被害発生前に対応する時間があります。積算雨量等に基づき、過去の水害ではどのような時間軸で被害が発生したのか、そのデータを踏まえ新たに発災した場合、それぞれの時点で誰が何をすべきかをまとめたのがタイムラインです。近年その有効性は高く評価され、企業の事業継続計画とセットで策定しておくとBCPの実効性は一段と向上するはずです

 

タイムラインの策定については、タイムライン防災の記事に詳しく書いてありますので是非参考にしてください。

積算雨量をBCPで有効に活用する

近年の水害の被害は年々その数、規模ともに大きくなっています。企業が水害対応のBCPを策定するのは地震のBCPと同様必須となってきたと言っていいでしょう。

実際の有事には在庫の荷揚げ・資機材の移設、避難、出社の判断、BCP発動など、様々な判断が必要となります。いつ、そうした判断を下すのか、の有効な指標となりうるものの一つが積算雨量です。過去に水害被害が発生した企業などはぜひその時の積算雨量を確認いただき、どの時点でどのような判断をすべきだったか再検討いただくことでBCPの実効性は必ず上がるはずです。

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