【解説】災害対応車両登録制度とは?2025年6月運用開始、目的や登録基準・登録メリット
執筆者: | ニュートン・コンサルティング 編集部 |

迅速かつ円滑な被災者支援を実現するため、2025年6月1日より「災害対応車両登録制度」の運用が開始されました。本記事では、制度の概要に加え、登録可能な車両の種類や災害対応車両検索システム(D-TRACE)を用いた申請、登録することで得られるメリットを解説します。
災害対応車両登録制度とは
災害対応車両登録制度とは、2025年6月1日より開始された制度で、避難所や仮設住宅などの住まいや被災地のトイレなどに活用できる車両(災害対応車両)を平時から登録し、データベース化する制度です。発災時に被災自治体が円滑な車両活用を自ら迅速に行うことを目的として運用が開始されました。
災害対応車両とは
災害対応車両登録制度に登録可能な災害対応車両は、避難所や住まいに関わる車両のみならず、食事やトイレ、洗濯、入浴などのサービスを提供するトレーラーやコンテナなどの車両も含みます。現在は以下の17種が該当します。
災害対応車両の例 | ||
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トレーラーハウス | キッチンカー | トイレカー |
ムービングハウス | キッチントレーラー | トイレトレーラー |
コンテナハウス | キッチンコンテナ | トイレコンテナ |
キャンピングカー | ランドリーカー | シャワーカー |
キャンピングトレーラー | ランドリートレーラー | シャワートレーラー |
ランドリーコンテナ | シャワーコンテナ |
※内閣府 「災害対応車両登録制度 特設HP」をもとにニュートン・コンサルティングが作成
能登半島地震の教訓を活かした制度
2024年に発生した能登半島地震では、災害対応車両が避難生活の環境改善や被災者に対する良好な住居環境を提供したほか、被災自治体への応援職員に対する宿泊場所の提供などの観点で有効活用された一方、当時は、活用できる車両の所在地などを被災自治体が十分に把握できない状況であり、被災地のニーズに応じたキッチンカーやランドリーカーなどの車両を迅速に提供するための仕組みが構築されていませんでした。
このことから、民間や地方自治体が連携体制を強化することが求められ、今後発生するといわれている南海トラフ地震や首都直下地震などの大規模災害も見据え、避難所の生活環境の改善をより一層強化するために本制度の運用が開始されました。2025年6月6日に政府より公表された「第1次国土強靱化実施中期計画」においても、2030年までに災害対応車両登録制度に登録された車両台数の目標を1,000台としてかかげており、地域における防災力の一層の強化を図るとしています。
災害対応車両登録制度の登録方法
災害対応車両登録制度の登録は、災害対応車両検索システム(D-TRACE)上の申請ページ、または、書面にて申請を行います。災害対応車両として登録する車両、または、災害対応車両調整法人(※1)を登録することが可能です。
(※1)災害対応車両調整法人とは、発災時に災害対応車両の配車調整などを行う法人

図1:災害対応車両登録制度の概要
災害対応車両検索システム(D-TRACE)とは
災害対応車両検索システム(D-TRACE)とは、登録申請のあった車両についてデータベース化するシステムです。D-TRACEは、すべての地方自治体が閲覧、検索することが可能なため、発災後に車両活用を検討する被災自治体が、D-TRACEを使用してニーズに沿った災害対応車両を検索し円滑な避難支援を行います。
災害対応車両登録制度の対象と基準
D-TRACE上の申請や書面にて申請された情報をもとに、内閣総理大臣がD-TRACEに登録します。災害対応車両登録制度の登録については、車両登録の場合と、災害対応車両調整法人として登録する場合とで基準が異なります。
災害対応車両として車両登録を行う車両の所有者は、「各申請者が発災時に被災自治体を支援する意思を有し、一定の欠格事由に該当しない」場合かつ、「申請された車両が登録基準に適合する」場合に当てはまることが条件です。申請した車両の登録基準については、以下の通りです。

図2:災害対応車両登録制度に登録可能な車両の登録基準
災害対応車両調整法人として災害対応車両登録制度に登録する場合は、「各申請者が発災時に被災自治体を支援する意思を有し、一定の欠格事由に該当しない」を満たす必要があります。災害対応車両調整法人の場合は、必ずしも車両の登録をする必要はなく、災害時に支援可能な用途(避難所、住まい、トイレ、食事、洗濯、入浴)を選択します。ただし、調整法人として登録する場合でも、調整法人が所有する車両を被災地に配車するには、災害対応車両としての基準に適合しなければなりません。
なお、車両登録や調整法人の登録までの期間は概ね3週間程度です。
災害対応車両登録制度の登録メリット
災害対応車両登録制度への登録はD-TRACEを活用する側の自治体と車両を提供する登録者、および、調整法人それぞれにメリットがあります。
被災自治体のメリット
災害対応車両登録制度への車両登録が増えることで、発災後の避難支援において被災自治体が被災状況を考慮し、ニーズに沿った避難支援を円滑かつ迅速に行うことが可能となるほか、本制度では、災害対応車両の配車調整などを行う法人も登録できるため、被災自治体が直接災害対応車両の調整を行わず、調整法人に依頼することが可能です。被災自治体の職員においては、調整法人に直接配車調整をかけることで、それに係る人員や時間を削減できるほか、心理的負担を軽減することが期待されています。
災害対応車両の所有者と調整法人のメリット
災害対応車両として登録する車両の所有者は、被災自治体からの要請に基づき車両を提供した場合、貸与などに係る費用を被災自治体から受け取ることが可能です。貸与などに係る対価とは具体的に以下の通りです。
- 車両の賃借に係る費用(レンタルやリースの経費など)
- 車両の輸送に係る費用(平時の設置場所と被災地の往復輸送に係る経費など)
- 車両の工事に係る費用(フェーズ切り替えに伴う最低限の改修経費など)
- 被災地における車両の設置費用(公有地を確保できなかった場合の民有地の土地借料など)
- 車両を活用したサービスの対価に係る費用(キッチンカーの場合は、1食当たりの提供単価など)
- 車両の管理に係る人件費
※車両所有者や調整法人への費用は被災自治体から支払われます。国による費用負担は災害救助法が適用された災害に限り被災自治体に支払われるため、該当しない場合は、被災自治体に確認することが求められています。
さらに、平時には災害対応車両登録制度の登録を受けていない車両と比べて、国や地方自治体が管理する公共施設に優先的に入構し、営業活動を営むことができる可能性が高まるとしています。内閣府の庁舎や迎賓館赤坂離宮内では、職員や来館者向けの飲食を提供することを目的とし、キッチンカー事業者が入構していることを踏まえ、今後の事業者更新時には、災害対応車両登録制度を受けた車両の所有者が相対的に高く評価されるよう、選定基準を見直す予定としています。