【解説】北海道・三陸沖後発地震注意情報とは?発表基準と企業が備えるべき対応策
| 執筆者: | ニュートン・コンサルティング 編集部 |
日本海溝・千島海溝沿いでは、過去に先発地震の発生から約2日後に、より大きな後発地震が発生した事例があります。これに備えるため、気象庁は「北海道・三陸沖後発地震注意情報」を発表し、後発地震に備えた防災対応を求めます。南海トラフ地震臨時情報の北日本版ともいえるこの注意情報について、発表基準や企業が平時に備えるべき防災対策を解説します。
北海道・三陸沖後発地震注意情報とは?
北海道・三陸沖後発地震注意情報とは、日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の想定震源域と、想定震源域に影響を与える領域で、モーメントマグニチュード(Mw)7.0以上の地震(※1)が発生した後に、気象庁が発表する防災情報です。
後発地震注意情報は、発表後1週間を「防災対応を呼びかける期間」と定めています。日頃からの備えや特別な備えの再確認を促し、社会全体で防災意識を高めることで、大規模地震が発生した場合に一人でも多くの命を救うことを目的としています。
(※1)気象庁は、地震の規模を表す指標として「マグニチュード(Mj)」と「モーメントマグニチュード(Mw)」の2種類を用いています。モーメントマグニチュードは、地震発生時に生じた岩盤のずれの規模(ずれ動いた部分の面積×ずれた量×岩石の硬さ)を基にして算出したマグニチュードを指します。
日本海溝・千島海溝沿いで過去発生した地震
北海道・三陸沖後発地震注意情報の対象となる想定震源域では、2003年の十勝沖地震や、1994年の北海道東方沖地震などの大規模な地震が発生しています。
この想定震源域では、Mw7.0以上の地震(先発地震)の後に、Mw8.0以上の大規模な地震(後発地震)が発生した事例が確認されています。これらの地震を地図上に示したものが図1の通りです。
図1:日本海溝・千島海溝沿いの想定震源域と過去の主な地震分布
図1に示した「後発地震が発生した地震」として、1896年の明治三陸地震や、1963年の択捉島南東沖地震、2011年の東日本大震災があります。
このうち、戦後最大で未曽有の災害ともいわれる東日本大震災では、3月9日にMw7.3の地震が発生し、その2日後、さらに規模が大きいMw9.0の後発地震が発生しました。これにより、日本列島全体で揺れを観測したほか、巨大な津波が襲いました。死者・行方不明者は1万5千人を超え、死因の9割が溺死という甚大な被害をもたらしました。(※2)
これを受け、内閣府は、南海トラフ地震や首都直下地震のみならず、日本海溝沿い・千島海溝沿いにおいても、最大クラスの津波を伴う巨大地震を想定した防災対策の必要性を強く認識するに至りました。
”実際に後発地震が発生する確率は低いものの、巨大地震が発生した際の甚大な被害を少しでも軽減するため、後発地震への注意を促す情報の発表が必要である”(※3)との提言を踏まえ、気象庁は、2022年12月より「北海道・三陸沖後発地震注意情報」の運用を開始しました。
(※2)警察庁「第1節 被害状況及び警察の体制」
(※3)内閣府「北海道・三陸沖後発地震注意情報防災対応ガイドライン」
後発地震注意情報の発表とは?
2025年12月9日、運用開始後初めて北海道・三陸沖後発地震注意情報が発表されました。これは、2025年12月8日23時15分に青森県東方沖で発生したMw7.4の地震を受けて発表されたものです。(※4)
今回の地震は、図2に示す北海道・三陸沖後発地震注意情報の発表基準のうち、「想定震源域および想定震源域に影響を与える領域でMw7.0以上の地震が発生した場合」に該当します。
図2:北海道・三陸沖後発地震注意情報の発表基準と想定震源域の関係図
後発地震注意情報は、地震の発生後、15分から2時間程度で一定精度のMwを気象庁が推定し、発表基準を満たす先発地震であるかを評価した後に発表されます。
この発表により、防災対応に取り組む必要のある対象エリアは、「震度6弱以上の揺れ」または「津波高3m以上が想定される」地域とされ、北海道・青森県・岩手県・宮城県・福島県・茨城県・千葉県の7道県182市町村です。(※5)
(※4)気象庁「令和7年12月8日23時15分頃の青森県東方沖の地震について(第2報)」
(※5)内閣府「北海道・三陸沖後発地震注意情報の解説ページ」
後発地震注意情報発表後の防災対応
北海道・三陸沖後発地震注意情報の発表後、1週間は「防災対応を呼びかける期間」として、通常の生活を維持しながら、後発地震に備える必要があります。
内閣府や気象庁からは、防災対応として「日頃からの備えの再確認」と「特別な備え」の実施が求められるため、以下の点に留意します。
「日頃からの備え」とは、非常持ち出し袋や備蓄品の準備、避難場所や避難経路の確認、連絡や安否確認手段の確保、訓練や自助・共助を意識した取り組みの実施などを指します。
地震により想定される土砂災害や浸水被害はハザードマップで確認し、実際に発生した場合には、気象庁から発表される防災気象情報や、キキクルを活用し、状況把握に努めます。東日本大震災のように震源が遠い場合でも、後発地震が発生した際には液状化現象により、地盤沈下や噴砂・噴水、マンホールの浮き上がりなどが発生する可能性が高いため、「重ねるハザードマップ」で事前に情報を収集することが重要です。
「特別な備え」とは、今回の地震のように深夜に発生した場合を考慮した備えと、それ以外の備えの大きく2種類に分けられます。
深夜に発生した場合の備えとしては、発生後すぐに起床して迅速に避難ができるよう、そのまま外出できる服装で就寝することが重要です。その場合、靴や防寒具の準備も併せて行います。さらに、非常持ち出し袋を室内の安全な場所や、避難の際にスムーズに取り出せる場所に置くことなどが挙げられます。
それ以外の備えとしては、通勤時に発災した場合を想定し、非常持ち出し袋の常時携帯が推奨されます。非常持ち出し袋を常時携帯することが難しい場合には、非常持ち出し品として、身分証明書や貴重品、簡易備蓄品、モバイルバッテリーなど、必要なものを準備し、その他は会社に置くなどします。さらに、避難しやすい靴や動きやすい服装を考慮し、自分自身で安全を確保できる状態に努めることが重要です。
企業側の対応としては、従業員の通勤経路に土砂災害や先発地震による建物の崩壊などの危険性がないかを確認し、率先してリモートワークや在宅勤務に切り替えるなど、調整を行います。従業員からの発信が難しい場合は、企業から従業員に対して柔軟な対応をとるよう発信することが求められます。
発表時に企業がとるべき防災対応とは?
北海道・三陸沖後発地震注意情報が発表された際は、「後発地震の発生可能性が平常時よりも相対的に高まっていること」、「後発地震の発生時には、津波のリスクが非常に高いこと」に留意し、個々の企業の状況に応じて、適切な対応を講じることが肝要です。
内閣府の「北海道・三陸沖後発地震注意情報防災対応ガイドライン(令和7年3月18日)」では、以下の点を企業の防災対応として挙げています。
安全で確実な避難対策
商業ビルやオフィスビルなどの利用者や、イベント会場への来場者など、施設利用者の避難誘導手順を従業員全員で共有し、再確認することが求められます。
館内放送やサイネージなどを利用し、「北海道・三陸沖後発地震注意情報」が発表されていることを利用者に向けて発信することや、避難経路や近隣の津波避難ビルまでの地図を掲示するなど、安全に配慮した取り組みを実施します。
さらに、施設利用者だけでなく、従業員自身の避難手段や手順を整理し、情報の共有体制を再確認するほか、日によって勤務する従業員が異なる場合には、情報伝達に漏れがないよう注意が必要です。
後発地震によるリスクが高い地域の企業の対策
旧耐震基準の建物や、築年数により老朽化した建物などが周辺にある場合は、地震による倒壊リスクが高いため、従業員に周知し、巻き込まれないよう注意を促す必要があります。
後発地震による津波も懸念されるため、拠点が津波の浸水想定区域にある場合には、1週間は該当箇所での作業や業務を控えます。津波による浸水や土砂崩れが予想される道路を通勤に使用している場合は、従業員に代替ルートの利用を促すなど、事前にリスク回避を行います。
津波に関する対応については、発災直後の対策や、長期間に及ぶ企業への影響を踏まえた対策を以下の記事にまとめています。ぜひご覧ください。
防災備蓄やプライチェーン対策の再確認
水や食料の在庫や消費期限の確認、季節に応じた備蓄品などの準備は適切か、在庫管理に問題がないか、保管場所は全社員に共有されているかを確認します。特に、非常用発電機の確保や、燃料の貯蔵に関しては、発表後に必ず確認し、それぞれの保管場所と在庫量について社内で共有します。
輸送ルートや製造拠点などの代替先の確認とサプライヤーとの連携は、後発地震を見据えて再確認し、自治体などと災害時の協定を結んでいる場合には、事前にその内容も確認することが重要です。
北海道・三陸沖後発地震注意情報においては、発表後も、社会経済活動は止めず、平時と同じように継続することが求められます。後発地震の発生確率は、100回に1回程度(※6)であるほか、後発地震の発生時期や場所・規模を高い確度で予測する情報ではない点に留意が必要です。
呼びかけの期間が過ぎた後も大規模地震が発生する可能性があり、後発地震注意情報には不確実性が伴うことから、確率に左右されず、「自らの命は自分で守る」という原則に基づき、従業員個人と企業が防災行動を積極的にとることが肝要です。
(※6)Mw7.0以上の地震発生後、7日以内にMw8クラス以上(Mw7.8以上)の大規模地震が発生する可能性