【解説】指定緊急避難場所と指定避難所の違いとは?基準や調べ方、企業による避難支援の取り組み事例
執筆者: | エグゼクティブコンサルタント 伊藤 隆 |
改訂者: | ニュートン・コンサルティング 編集部 |

「指定緊急避難場所」と「指定避難所」はそれぞれ目的や役割が異なるため、それらの特徴を理解することは企業のBCP担当者にとって非常に重要です。本記事では、両者の違いや調べ方に加え、その他の避難関連施設の種類や特徴、企業による避難支援の取り組み事例について解説します。
指定緊急避難場所と指定避難所の違いと調べ方
「指定緊急避難場所」と「指定避難所」はどちらも災害発生時の避難先として設置されていますが、明確に区別されたのは2011年に発生した東日本大震災以降です。この震災では、設置基準や用途などが明確に区別されていなかったことが被害拡大の一因になったとされ、2013年に災害対策基本法が改正されました。
これにより、全国の市町村長は、指定緊急避難場所と指定避難所を区別して指定し、地域住民への周知徹底を図るようになりました。緊急指定避難場所、指定緊急避難所などと言葉が混在することもありますが、正しくは「指定緊急避難場所」と「指定避難所」です。企業の災害対策やBCP策定においても、それぞれの違いを正確に理解し、従業員へ周知徹底する必要があります。
指定緊急避難場所とは
「指定緊急避難場所」とは、災害から命を守るために緊急的に避難する施設、場所を指します。指定緊急避難場所は、市町村長により洪水や土砂災害を含む風水害、地震、津波、火災など災害種別に適した施設や場所が指定されることが特徴です。
内閣府の「指定緊急避難場所の指定に関する手引き」では、指定緊急避難場所の指定基準を「地震以外の異常な現象を対象とする場合」と、「地震を対象とする場合」で定めています。災害種別によって指定基準は異なりますが、管理条件はどちらも満たす必要があり、立地条件、構造条件、耐震条件はそれぞれ以下の通り満たす必要があります。

図1:指定緊急避難場所の指定基準
指定緊急避難場所は、避難行動自体が新たな被災リスクを生まないよう、原則として災害による影響が及ばないとされる「安全区域」と呼ばれる立地にのみ設置されますが、地震については日本全国どこの地域でも発生する可能性があるため、安全区域の設定はせず、管理条件と耐震条件を満たすことが求められます。
災害の危険が去って安全が確保された後も、引き続き避難が必要な場合は、生活支援が可能な指定避難所へ移動します。
指定避難所とは
「指定避難所」とは、地震や津波などの被害を受けて自宅での生活が困難になった被災者が一定期間生活するための施設と定義されています。指定緊急避難場所同様、市町村長が指定します。多くの指定避難所では、トイレ、寝具、食料、飲料水などの生活関連物資が備蓄されており、場合によっては医療や介護スタッフが常駐し、避難者が高齢者・障がい者・妊産婦など要配慮者の場合には「福祉避難所」へ移送します。
指定緊急避難場所と指定避難所の大きな違い
指定緊急避難場所と指定避難所は、避難の目的、施設機能に大きな違いがあります。指定緊急避難場所の目的は緊急時の一時的な避難先で「命を守る場所」であるのに対し、指定避難所は一定期間滞在することを目的とした「生活するための場所」です。
指定緊急避難場所は指定避難所を兼ねている場合を除き、生活することを目的としていないため、河川敷やグラウンドなどが指定される場合があります。一方、指定避難所は、避難者が一定期間生活することを目的としているため、小中学校の体育館や公共施設などの雨風を防げる施設が指定されます。
なお、指定緊急避難場所は災害種別ごとに指定されますが、指定避難所は災害種別を問わず指定することが可能なため、災害の種類によっては指定避難所への避難が、リスクを伴う可能性もあります。津波などの特に緊急性の高い災害の場合は、津波避難が可能な指定緊急避難場所に避難しなければなりません。
指定緊急避難場所と指定避難所の調べ方
指定緊急避難場所と指定避難所は、各自治体のウェブサイトや、国土地理院のハザードマップ、防災アプリなどで調べることが可能です。企業の場合は、BCMS訓練などにハザードマップの確認を取り入れ、自社や従業員の自宅周辺の具体的な災害リスクを把握し、災害種別に応じた適切な避難先、避難経路の選定に活用することをおすすめします。
さらに、指定緊急避難場所と指定避難所の防災標識も併せて確認します。指定緊急避難場所やそれを兼ねる指定避難所の場合は、洪水、高潮、津波など災害種別ごとに図記号が指定されているため、災害マーク一覧として可視化し、訓練する際に役立てることも可能です。
指定避難所は、各自治体のウェブサイトで施設の一覧や地図が公開されており、広さや、備蓄物資、従業員に要配慮者がいる場合の医療支援体制やバリアフリー対応など、機能に関する情報を確認することができます。山梨県・静岡県・神奈川県では、関係機関と連携して富士山火山防災対策協議会を設立し、平常時から避難対策など富士山の火山災害に対する防災体制の構築を推進しています。「富士山火山(防災)避難マップ」では、噴火レベルや溶岩流の到達範囲などによって避難エリアと開設される指定避難所が異なるため、確認しておくことが肝要です。
その他の避難場所・避難所・帰宅困難者対応施設の種類と特徴
指定緊急避難場所や指定避難所以外にも、避難場所、避難所と呼ばれる部類は、災害や避難者の状況に合わせて以下のように指定されています。

図2:避難場所・避難所・関連施設の種類と役割の分類図
【避難場所】広域避難場所
広域避難場所とは、大規模火災や地震による延焼、火災旋風、輻射熱から身を守ることを想定して指定される避難場所です。主に、大学のキャンパスや緑地など大規模かつ安全性が確保できる屋外に避難スペースが指定されます。指定避難所(地域防災拠点)のように水や食料などの備蓄はないため、近くの指定避難所も併せて確認しておくと安心です。
【避難所】福祉避難所
福祉避難所とは、高齢者、障がい者、妊産婦などの要配慮者が安心して避難生活を送るための施設です。バリアフリー設計が施され、福祉職員や医療従事者による支援が提供されます。通常は、指定避難所に避難した後に、必要性に応じて福祉避難所へ移送される仕組みとなっています。
企業においては、従業員やその家族に要配慮者がいる場合、該当者の事前把握と避難計画に反映させることが重要です。
【その他】一時集合場所
一時集合場所とは、災害発生時に従業員や地域住民が一時的に集合して災害状況を見定め、集団で避難するための中継拠点となる場所です。
【避難に関する施設】一時滞在施設
一時滞在施設とは、主に帰宅困難者を一時的に受け入れるための施設で、民間施設、公共施設などが指定されています。大規模地震などの発災直後は、一斉帰宅抑制が推奨されており、原則72時間待機する必要があります。その間、帰宅困難者が滞在・休息を取れる場所として活用されます。
大規模な地震の際は、インターネットがつながらない場合もあるため、従業員には平時から一時滞在施設の利用可能性を周知徹底し、社用スマホに一時滞在施設一覧のPDFをダウンロードさせるなどの対策を講じることで、従業員が帰宅困難者となった場合にスムーズに一時滞在施設へ向かうことが可能となります。
【避難に関する施設】災害時帰宅支援ステーション
災害時帰宅支援ステーションとは、災害時に、徒歩帰宅を余儀なくされた人たちに対し、水分補給やトイレの使用、地図や道路情報の提供などの必要な支援を行う拠点です。コンビニやファストフード店、ドラッグストアなどが自治体と協定を結んでいる場合、店頭にステッカーが掲示されます。
従業員が徒歩での帰宅を選択する場合、通勤ルート上の災害時帰宅支援ステーションの有無の確認は、安全確保に直結する情報となります。
災害時の避難支援における企業の取り組み例
企業と自治体が地域防災協定を結び、避難支援に積極的に参加することは、災害対策だけでなく、企業の信頼性を維持するためにも不可欠です。自分たちで行う自助、そして周辺企業や地域コミュニティと協力する共助の活動を行っている企業の具体的な避難支援事例をご紹介します。
セブン‐イレブン・ジャパンでは、各自治体と「災害時の物資支援協定」や「帰宅困難者支援協定」を締結し、災害時帰宅支援ステーションの役割を担っています。災害時には、帰宅困難者に対し、水道水やトイレ、支援物資などを提供するほか、自社で設置している燃料備蓄基地により被災地域をはじめとする指定避難所や福祉避難所、首都圏にあるグループ各店舗に最大10日間、緊急物資や商品を配送することが可能となっています。
日清食品では、阪神淡路大震災、新潟県中越沖地震、東日本大震災、熊本地震など被災地に給湯機能付のキッチンカーを派遣し、複数の避難所で炊き出しを実施しています。避難生活が長期化する被災者の栄養状態を鑑み、自社が製造する「完全メシ」や「カップヌードル」を提供したほか、2024年の能登半島地震では、15万食以上を避難所生活の支援として提供しました。