【解説】一時滞在施設とは?避難所との違い・帰宅困難者への支援内容・利用時の注意点
| 執筆者: | ニュートン・コンサルティング 編集部 |
| 改訂者: | ニュートン・コンサルティング 編集部 |
一時滞在施設とは、大地震などの災害発生時に帰宅困難者を受け入れる施設で、地方自治体や民間企業によって提供されます。本記事では、避難所との違いや、東京都・大阪府の帰宅困難者支援の内容、企業担当者が押さえるべき注意点などをわかりやすく解説します。
一時滞在施設とは?
一時滞在施設とは、大規模災害の発生で帰路を断たれた帰宅困難者を一時的に受け入れる施設です。地方自治体が指定する公的施設のほか、民間企業との協定に基づき提供される民間施設があります。
一時滞在施設の目的
一時滞在施設の目的は、地震の発災時に帰宅困難者の安全を確保し、社会の混乱を最小限に抑えることです。特に以下の2点が大きな目的とされています。
- 公共交通機関の再開まで安全に待機できる場所の確保
多数の人が一斉に帰宅しようとする状況では、駅や道路の混雑、群衆事故などの二次被害が発生するおそれがあるため、公共交通機関の再開まで施設での待機を促します。 - 消防や救急などの救助活動の妨げとなる混乱の回避
一時帰宅を抑制することで鉄道や道路の大渋滞を防ぎ、消防や救急といった初動対応の救助活動を妨げないようにします。
一時滞在施設は、このような一斉帰宅による大渋滞や群衆事故を未然に防ぎ、混乱の抑制と救助活動の円滑化を支える役割を担っています。
施設の設置期間は、交通機関が復旧するまでの数時間から、発災後72時間(原則3日間)程度とされています。これは、人命救助が最優先となる初動対応期間を想定したものです。
特に夜間や余震が続く場合には、自宅への無理な移動を避け、周囲の安全が確認されるまで施設内で待機することが推奨されます。
なお、一時滞在施設と名称が類似するものとして「一時待機場所」があります。一時待機場所は、一時滞在施設が開設されるまでの間、帰宅困難者が一時的に待機する場所として、都道府県が設置します。
このほかにも、発災時に避難する先として、「指定緊急避難場所」や「広域避難場所」があります。これらはそれぞれ用途や運用の目的が異なるため、平時のうちに自社周辺施設の情報を整理し、災害対応マニュアルや避難訓練に反映することが重要です。
一時滞在施設と避難所の違い
災害時に避難先として指定される施設や場所には、用途や対象者に応じて複数の区分が設けられています。「一時滞在施設」、「指定緊急避難場所」、「指定緊急避難所」などがこれに該当します。
- 指定緊急避難場所
-
- 災害から命を守るために緊急的に避難する施設・場所
- 地震、津波、火災など災害種別に適した施設や場所が指定される
- 指定緊急避難所
-
- 自宅での生活が困難になった被災者が一定期間生活・滞在するための施設
- 災害種別を問わず指定することが可能
上述の通り、指定緊急避難場所と指定緊急避難所は、帰宅困難者の受け入れを目的とした施設ではなく、災害発生時の緊急避難先、あるいは発生後の被災者の生活を支える拠点として区別されています。なお、これらは両者の機能を兼ねている場合もあります。
一方、「一時滞在施設」は、一斉帰宅の抑止を目的としており、3日程度の滞在を想定するものの、それ以上の滞在には対応していません。この点が、長期滞在を前提とする指定緊急避難所とは大きく異なります。以下の図1は、一時滞在施設と避難所のそれぞれの違いを項目ごとに整理したものです。
図1:一時滞在施設と避難所の違い(対象・目的・運営主体などの比較)
図1に示されているように、一時滞在施設は、駅ビルや商業施設など、人の流動が集中しやすい都市部の施設が指定されています。これは、帰宅困難者が実際に滞留しやすい場所に待機先を確保することで、一斉帰宅の混乱を抑止するという制度設計に基づいたものです。
こうした立地特性から、公的施設のみでは十分に対応できないことが多く、民間施設の協力が不可欠となっています。地方自治体と事前に「協力協定」を締結した民間事業者が、自社の施設を一時滞在施設として提供・運営する枠組みが整備されており、これが「共助」の重要な取り組みの一つとなっています。
また、一時滞在施設は、避難所のように長期滞在を想定した施設ではないため、備蓄品や物資の提供には限りがある点を考慮しなければなりません。企業としては、自社内での待機体制や備蓄の確保を基本としつつ、一時滞在施設をあくまで補完的な手段として捉え、過度な依存を避ける計画を策定する必要があります。
一時滞在施設に関する取り組みや支援とは
大規模災害時に、多くの帰宅困難者が発生する都市部では、迅速な受け入れ体制の構築を進めています。
東日本大震災では震源から遠く離れた首都圏でも、公共交通機関が麻痺し、東京都内では約352万人の帰宅困難者が発生しました。また、東京都が2022年5月25日に公表した「首都直下地震等による東京の被害想定」では、大規模地震が発生した場合に、都内で約453万人の帰宅困難者が発生するとしています(※1)。
(※1)東京都「首都直下地震等による東京の被害想定(令和4年5月25日公表)」
こうした想定を見据えて、東京都や大阪府などの主要都市では、平時から一時滞在施設に関する明確なガイドラインや協定制度を整備しています。以下の図2は、東京都と大阪府における帰宅困難者対策に関するガイドラインや周知啓発、企業事例などをまとめたものです。
図2:東京都と大阪府における一時滞在施設支援策の比較(ガイドライン・啓発・企業事例)
東京都の場合
東京都では、東日本大震災の教訓や、将来の大規模災害を見据え、2012年に「東京都帰宅困難者対策条例」を制定しました。本条例は、事業者や施設管理者の責務と、行政の支援体制を明文化したものです。
条例では、発災直後72時間は不要な移動を控え、安全が確認されるまで施設内に留まることが原則とされています。これに基づき、事業者には主に以下の表1に示す備えが求められます。
【表1】「東京都帰宅困難者対策条例」における具体的な記載内容
| 主体 | 項目 | 具体的な記載内容と責務 |
|---|---|---|
| 事業者(企業など) | 一斉帰宅の抑制 | 大規模災害発生時、施設の安全や周辺状況を確認した上で、従業員に対して施設内での待機を指示する |
| 備蓄の確保 | 従業員の施設内待機を可能にするため、3日分の飲料水・食糧その他必要な物資を備蓄する | |
| 事前準備 | 平時から、従業員との連絡手段の確保、家族との連絡手段や徒歩帰宅経路の確認などを従業員へ周知し、準備する | |
| 施設管理者(駅・集客施設など) | 利用者の保護 | 鉄道事業者や百貨店・遊技場などの集客施設の管理者は、施設内で多数の帰宅困難者が発生した場合、施設内待機の案内や安全な場所への誘導など、利用者保護の措置を講じる |
| 学校・保育所など | 児童・生徒の保護 | 学校や保育所などの設置者・管理者は、施設内の安全を確認した上で、幼児・児童・生徒などを施設内に待機させる |
| 行政(東京都) | 情報提供体制 |
|
| 一時滞在施設の確保 | 都立施設を一時滞在施設として指定するほか、国、区市町村、民間事業者(民間施設)にも協力を求め、帰宅困難者を受け入れる体制を整備する | |
| 帰宅支援 | 公共交通機関停止時の代替輸送手段の確保や、徒歩帰宅者に飲料水やトイレ、情報を提供する「災害時帰宅支援ステーション」を確保し、円滑な帰宅を支援する | |
| 事業者への支援 | 帰宅困難者対策を実施する事業者などに対し、必要と認める場合に支援を行う |
東京都「東京都帰宅困難者対策条例(2012年3月30日公布)」を基にニュートン・コンサルティングが作成
この条例に基づき、民間事業者との協力を促進するため、以下のような支援制度を設けています。
- 民間一時滞在施設備蓄品購入費用補助事業
- 帰宅困難者の受け入れ協定を締結した民間施設を対象に、帰宅困難者向けの備蓄品・スマートフォンなどの充電設備に使用する備品の購入費用を補助する事業
- 災害時拠点強靭化緊急促進事業
- 駅周辺や民間施設など、帰宅困難者を受け入れるスペース・備蓄倉庫・設備などに対し、国と東京都が予算の範囲内で必要な補助を行う事業
なお、協定を結んだ施設は、「東京都防災マップ」の地図上に、施設名と位置情報(住所)を併せて表示することが可能です。これにより、近隣の一時滞在施設の有無だけでなく、施設の種類やバリアフリー情報も確認することができます。
さらに、周知・啓発や対策の促進に向けて、東京都は企業向けに「帰宅困難者対策ハンドブック」を公開し、要配慮者対応や感染症対策などを含めた実践的な情報を提供しています。また、民間事業者による「一時滞在施設の取り組み」や「地域と連携した防災活動」など、企業による実践的な対策を広く共有するため、東京都は「事業所防災リーダー優良企業認定制度(※2)」を通じて、毎年その取り組み事例を公表しています。
(※2)「一斉帰宅抑制推進企業認定制度」の後継事業として2024年度より運用
このように、東京都は、従業員の一斉帰宅の抑制と一時滞在施設の提供という二つの取り組みを、企業に対して積極的に呼び掛けています。こうした取り組みに協力する企業は、地域の防災力を高める上で欠かせない存在として期待されています。
大阪府の場合
大阪府も、東京都と同様に「むやみに移動を開始しない(一斉帰宅抑制)」を基本原則としていますが、想定される災害リスクが異なります。
大阪府では、南海トラフ巨大地震や上町断層帯地震といった大規模災害を想定し、広域的かつ都市部特有のリスクに対応するための対策が進められています。特に、津波リスクが高い大阪湾沿岸部においては、帰宅困難者対策における「待機」と「避難」の区別が明確にされています。
津波浸水想定区域では、避難指示などの発令時は施設内待機ではなく、「津波が襲来すると想定される区域から逃げること」が優先されており(※3)、東京都とは異なる判断基準が「事業所における『一斉帰宅の抑制』対策ガイドライン(大阪府)」上で明記されています。
併せて、本ガイドラインでは、2018年の大阪府北部地震の経験を踏まえ、発災時間帯に応じた行動ルールを整理しています。これにより、従業員が迷わず判断できるよう、具体的な指針を平時から周知しています。
- 出勤時間帯に発災:原則、自宅待機または自宅に戻る
- 就業時間帯に発災:施設内待機を指示
- 帰宅時間帯に発災:原則、事業所待機または事業所に戻る。自宅に近い場合は自宅へ
さらに、観光・商業拠点である大阪市では、帰宅困難者の中でも旅行者や訪日外国人への対応を重視し、宿泊施設や大型商業施設と協定を結んだ一時滞在体制を構築しています。大阪市の「難波駅周辺地区帰宅困難者対策計画(2025年2月)」では、地域内のホテル・商業施設が連携し、待機スペース・備蓄・多言語対応などを含めた包括的な対応が整理されています。
こうした地域特性に即した施策と並行して、大阪府では「社員と会社を守る防災ガイド」や「大阪防災アプリ」の提供を通じ、事業者向けに防災対策の手引きや備蓄品チェックリストなどを公開しています。企業には、府や市の取り組みに連動する形で、自社の立地条件・従業員属性を踏まえた実効性の高い対策が求められます。
大阪府においても東京都と同様に、ホテルやオフィスビルといった民間施設との協定締結により、大規模な受け入れ体制の整備が進んでいます。特に梅田や難波などの日本有数の繁華街では、災害時に膨大な数の来街者が帰宅困難者となることが予想されます。
このようなエリアに拠点を置く事業者には、自社の従業員だけでなく、施設を利用する顧客や観光客の安全をどう確保するかという視点も求められます。大阪府では繁華街周辺を中心に一時滞在施設の確保を重点的に進めるなど、地域特性に即したきめ細やかな対策を講じています。公共施設だけでは収容能力に限界があるため、公民連携が対策の要となります。事業者は、自社の立地環境が持つリスクを正しく認識し、行政の施策と連携した実効性のある対応を検討することが重要です。
(※3)“避難指示等発令時の対応については、本ガイドラインの適用の範囲外とする”と「事業所における『一斉帰宅の抑制』対策ガイドライン」にて明示
一時滞在施設を利用する際の注意点
一時滞在施設の整備や運用方針は、地域の災害リスクや社会構造に応じて異なります。対象者や避難行動の判断基準も多様であり、活用する際には、地域ごとの特性を踏まえた実践的な理解を深めることが不可欠です。
一時滞在施設は、帰宅困難者にとって安全な一時待機場所となる一方、利用にあたってはいくつかの留意点があります。ここでは、施設の運用上の制約や利用者としての心得について解説します。
受け入れ可能人数が指定されている
一時滞在施設は、あらかじめ定められた収容人数の範囲内で運用されます。これは、施設の構造上の安全性や消防法に基づいて設定されるものです。
そのため、各施設では「入館制限」などが実施されることも想定されており、企業においては「まずは自社内での待機」が原則とされます。外部施設の利用を前提とせず、社内での滞留を基本とした社内備蓄と体制整備が必要です。
こうした企業の自律的な対応が、結果として「真に助けを必要とする人」の一時滞在施設利用を促し、地域全体の防災力の向上に大きく貢献します。
備蓄品の数に限りがある
一時滞在施設には、毛布や水、食糧など最低限の備蓄品が用意されている場合もありますが、その数量には限界があります。備蓄品の数は、あらかじめ想定された収容人数に応じて準備されており、必ずしもすべての利用者に行き渡るとは限りません。想定を超える帰宅困難者が集中した場合には、供給が追いつかない可能性もあるため、留意が必要です。
そのため、企業や個人にとっては「自助」の意識が極めて重要です。特に、以下の3点は災害時の安否確認や健康管理を支える基本的な備えとして、平時からの準備・携行が推奨されます。
- モバイルバッテリー
災害時は、スマートフォンによる安否確認や情報収集の頻度が高まり、バッテリーの消耗が激しくなります。予備電源を確保する手段として、モバイルバッテリーと充電ケーブルを常時携行しておくことが重要です。 - 非常食・飲料水
調理不要で即時に摂取できるゼリー飲料や栄養補助食品などは、発災直後のエネルギー補給に有効です。最低限の飲料水を携行するほか、マイボトルを持参し、災害時に開放される給水スポットでの補給も想定しておくと安心です。こうした対策は、行動範囲や滞在時間に応じて柔軟に活用できる備えとなります。 - 常備薬・救急用品
持病の薬に加え、急な体調不良に備えた鎮痛剤や胃腸薬、簡易的な救急用品も準備します。これらは、一時滞在施設の利用中や、その後の帰宅までの安全と健康を維持する上で重要な役割を果たします。
このような日頃の備えが、災害時の安全と安心を大きく左右します。
共助を前提とした施設運営である
一時滞在施設の運営は、自治体や施設管理者のみで完結するものではなく、利用者同士が協力し合う「共助」を前提としています。災害対応においては、「自助・共助・公助」の三本柱が基本であり、一時滞在施設は公的支援の枠組みでありながら、その機能の多くは共助によって支えられています。
実際の運営では、受付業務の補助、物資の配布、清掃活動などにおいて、利用者が自発的に協力し合うことが想定されています。こうした当事者意識は、企業の社会的責任(CSR)の観点においても重要であり、非常時に従業員が秩序を持って行動できることは、組織のレジリエンス(回復力)を高めることにもつながります。
また、災害時には「災害時帰宅支援ステーション」のように、民間事業者が主体となり、帰宅困難者を一時的に支援する取り組みもあります。これは、一時滞在施設のように主に屋内施設で多数の帰宅困難者を受け入れるものではなく、沿道上での一時的な支援を目的としたものです。
- 災害時帰宅支援ステーションの特徴
-
- 登録店舗:コンビニエンスストア・飲食店・ガソリンスタンド・自動車販売店など
- 支援内容:水道水・トイレ・道路情報・災害情報・休憩場所などの提供
災害時帰宅支援ステーションは、行政による指導ではなく、企業の善意によって行政と協定を締結し、登録・運営されるものです。これは共助の一環として地域防災に貢献する重要な取り組みといえます。