安否確認とは?企業が知っておくべき意味・目的・実施方法を解説
| 執筆者: | ニュートン・コンサルティング 編集部 |
| 改訂者: | ニュートン・コンサルティング 編集部 |
地震などの災害や事故が発生した際、企業が最初に行うべき対応の一つが「安否確認」です。従業員の安全を確保するとともに、被害状況を把握し、事業継続の判断につなげる重要な役割を担います。しかし、安否確認の意味や必要性、具体的な実施方法について十分に理解されていないケースも少なくありません。本記事では、安否確認の意味や企業における目的、実施方法、平時から備えるべき体制について解説します。
1. 安否確認とは?
「安否確認」とは、災害や事故などの緊急事態が発生した際に、対象となる人物の安全や被災状況を迅速に確認することです。けがの有無や現在の状況に応じて適切な対応を行うために、安全(無事)なのか・そうでないのかを確認します。
企業においては、事業継続計画(BCP)の初動対応の要として位置づけられます。緊急時の従業員とその家族の状況把握は、企業が事業を再開・復旧させるために不可欠な要素です。具体的には、生死や負傷の有無、現在の所在(自宅、避難所、出張先)を確認し、出社や勤務が可能かどうかを調査します。また、家族の状況や支援の必要性があるかなども併せて確認し、業務再開の判断材料として情報収集を行います。
一方、個人が行う安否確認は、災害時に家族や知人の無事を確認するために行うものです。電話やSNS、災害用伝言ダイヤル(171)などの通信手段を用いた確認のほか、避難所での名簿確認など実際に現地に探しに行く手段などがあります。
なお、行政機関が行う安否確認としては、一人暮らしの高齢者に対する住居訪問や災害発生時に被災者に対して行われるものがあります。災害が発生した際に警察が行う安否確認は、主に「避難行動要支援者名簿」などの情報を基に、高齢者や障がい者といった特に支援を必要とする市民の救助や所在把握を目的として実施されます。
生存確認との違い
「生存確認」と「安否確認」は似た文脈で使われますが、目的が異なります。一般的に「生存確認」とは、災害や事故など生命の危機が迫る状況下において、対象者が「生きているかどうか(生死)」を確認する行為を指します。大規模災害時や連絡が長期間途絶えた際などに、生死を判別する目的で使用されることが多い言葉です。
生存確認が「生死の確認」を主目的とするのに対し、「安否確認」は生死の確認にとどまらず、対象者が安全な状態にあるか、けがはないか、避難できているかなど、より詳細な状況を把握することを目的としています。
企業が行うのは、事業継続を判断するための「安否確認」です。各従業員の状況を正確に把握することで、対策本部の立ち上げ、社外向けの情報発信、事業継続方針の決定など、その後の対応につなげる役割があります。こうした対応を行うためには、各従業員のけがの有無や所在などの情報を収集し、どの程度動けるかを把握しておくことが欠かせません。
安否確認は義務なのか
企業による従業員の安否確認は、法的な義務として定められているものではありません。ただし、企業の「安全配慮義務」の観点から、災害発生時や緊急時には従業員の安否を確認することが望ましいといえます。
安全配慮義務について、労働契約法の第五条では「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と定めています(※1)。この義務は、労働契約上の付随的義務として使用者が当然に負うものとされており、一律に特定の措置を求めるものではないものの、労働者の職種や労務内容、労務提供場所などの具体的な状況に応じて必要な配慮をすることが求められています(※2)。
したがって、労働者の生命や、心身の健康を含む身の安全を確保することは、企業の重大な管理責任であるといえるとともに、災害時に従業員の安否確認を実施しないことは、安全配慮義務違反とみなされる場合もあるため、注意が必要です。
また、労働安全衛生法でも「事業者等の責務」(※3)として、労働者の安全と健康の確保を求めていますが、こちらは労働災害の防止に焦点を当てたものとなっています。平時における職場環境の整備に重点が置かれており、違反した場合には行政指導や罰則の対象となります。
(※1)e-Gov「労働契約法」
(※2)厚生労働省「労働契約法のあらまし」
(※3)e-Gov「労働安全衛生法 第三条」
2. 企業における安否確認の目的
企業における「安否確認」が果たす役割を、BCPの観点から整理してみましょう。
BCPの目的である「事業の継続・復旧」を実現するためには、その前提として従業員の命が守られ、人的資源が確保されていなければなりません。企業内の対策本部やBCP担当者は、収集した「人」や「施設」などの被害状況をもとに、事業継続判断を行います。限られたリソースのなかで、どの重要業務から優先して再開させるのかといった意思決定は、初動対応での正確な情報把握に基づいて行われます。
複数の事業所を展開する企業においては、本社が一括して情報を集めるだけでなく、拠点単位での状況把握も不可欠です。万が一、通信網が途絶え本部から孤立した場合でも、事業所単位で独自の判断で行動し、業務継続の準備を進められるよう、あらかじめ手順を定めておくことが有効です。
また、大規模災害時などに発生する帰宅困難者への対応についても備えておく必要があります。「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」では、「むやみに移動を開始しない」という基本原則が示されています(※4)。そのため、公共交通機関が機能停止した場合、従業員の一斉帰宅を抑制し、一斉帰宅に伴う混乱による二次被害を防ぐとともに、社内に安全にとどまれるよう備蓄品などを提供する配慮が必要です。その一方で、就業時間中に家族の安否が確認できず不安を抱える従業員に対しては、安全に配慮した上で一時帰宅させるなど、従業員の事情に寄り添った柔軟な対応が企業には求められます。
(※4)内閣府「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」
従業員の安全確保と安全配慮義務
企業における従業員の安全確保とは、災害や事故などの緊急事態が発生した際に、従業員の生命や身体を保護し、被害を最小限に抑えるための初動対応のことです。こうした初動の行動は、企業が法的に負う「安全配慮義務」の一環といえます。
災害発生時において、企業は従業員の被害状況を把握し、安全な場所への避難や自宅待機など、適切な指示を出さなければなりません。安否確認システムなどを通じて迅速に状況を把握し、的確な措置を講じることは、企業に求められる「安全配慮義務」を果たすための重要な初動対応です。これらの初期対応に不備があり、さらなる負傷者が発生した場合は、安全配慮義務違反が問われるおそれがあります。
BCPにおける初動判断の基盤
安否確認は発災時の初動対応の基盤になるものです。自然災害発生時や緊急時には、企業は速やかに被害の状況を把握した上で、あらかじめ定められた基準に基づき、事業継続に向けたBCPを発動するかどうかを判断する必要があります。その判断基準の一つとなるのが、安否確認を通して把握した従業員の状況です。
企業は従業員の被害状況を把握することで、有事の対応に必要な人員を確保することができます。これにより今後の対応方針を具体的に検討することが可能となります。従業員の避難や安否確認、情報収集などの規定や対応手順を定めておくのが「緊急時対応計画(ERP)」です。ERPでは、こうした初動における情報収集の方法を事前に整備しておきます。例えば、迅速な事業継続判断を行うためにも、従業員への安否確認メールを自動発報し、その回答を自動集計できる安否確認システムなどを導入して、管理者を定めておくことが重要です。
図:災害発生時における安否確認とBCP(事業継続計画)の関係
帰宅困難者・拠点対応との関係
内閣府の「首都直下地震の被害想定と対策について(報告書)」では、マグニチュード7クラスの首都直下地震が平日12時に発生した場合には、1都4県で最大約840万人の帰宅困難者が発生し、そのうち約 250 万人が高齢者や障がい者などの要配慮者であるとの推計を示しています(※5)。これらの人々が一斉に帰宅しようとすると、救助活動などの妨げになったり、群衆雪崩が起きたりするなどの二次災害も懸念されます。
こうした事態を避けるためにも、発災時の企業対応では、一斉帰宅を抑制することが求められています(※6)。地震などが起きた直後は、不安の高まりにより、社内でも大きな混乱が生じやすくなります。その際、各拠点が即座に従業員とその家族の安否や被害状況の確認を行い、適切な判断・行動ができる体制を整えることで混乱の抑制と二次災害を防ぐことにつながります。
(※5)内閣府「首都直下地震の被害想定と対策について(報告書)」
(※6)内閣府「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」
3. 安否確認の実施方法と確認内容
災害発生直後は、事業継続の要となる従業員の「人命保護」を最優先とし、直ちに安否確認を行う必要があります。企業における安否確認の方法には様々な選択肢がありますが、災害が発生した際は通信規制などが実施されるため、固定電話や携帯電話以外の複数の連絡手段を確保しておくことが欠かせません。従業員の安否や被害状況を的確に収集・把握することが、事業復旧への迅速な意思決定を可能にします。
ここでは、主な実施方法と安否確認において確認すべき内容をまとめました。
主な実施方法
安否確認の実施方法には、緊急連絡網を用いた電話連絡などの従来型の手段に加え、メールやLINEなどのデジタルツールを活用する方法もあります。また、近年ではアプリなどを用いた安否確認システムを提供する民間企業も増えています。安否確認システムには、地震や津波などの警報の発報をトリガーに自動で通知を送信する機能のほか、メール配信とともにアプリのプッシュ通知で見逃しを防ぐ、各人が回答した結果を自動集計するといった様々な機能があります。
①緊急連絡網・電話・メール
災害時の緊急連絡先を記入した「緊急連絡網」を作成し、従業員に常時携帯させることを中小企業庁は推奨しています(※7)。緊急連絡網の内容は企業により異なりますが、万一の際に必要となる家族の連絡先情報を共有することも重要です。緊急時、通信回線の混雑などで電話はつながりにくくなったり、メールの受信遅延が発生したりする可能性があります。そのため、「災害用伝言ダイヤル(171)」や「災害用伝言板(web171)」の利用なども検討します。
②LINE・アプリの活用
電話回線を利用せずにインターネット回線を利用して安否確認を行う方法に、LINEやアプリの活用があります。総務省の調査によると、令和6年能登半島地震における安否確認手段として最も多く利用されたのは、LINE(67.1%)となっています(※8)。この他にも社内連絡用の専用アプリを活用するなど、多様なデジタル手段を組み合わせることが実効性のある安否確認を実現するために有効です。
③安否確認システム
組織的かつ迅速な状況把握のためには、企業向け「安否確認システム」の導入が有効です。多くのシステムには、設定した地域で一定以上の震度を観測した際に、対象となる従業員へ自動で安否確認の連絡を発報する機能が備わっています。さらに、従業員からの回答を自動集計する機能を利用することで、管理者は人的リソースの被害状況の全体像をリアルタイムで可視化できます。これにより、限られた情報でも事業復旧に向けた具体的な対応方針をいち早く決定できるようになります。
どの安否確認方法を選択するかは、自社の規模や現在のツール活用状況を踏まえて判断することになります。例えば、比較的小規模な企業においては、電話やメールなどの既存のツールをそのまま活用するのがスムーズかもしれません。対して、大規模な組織においては、被災時の混乱を避けるため、専用の安否確認システムを導入するほうが有効といえるでしょう。いずれにせよ、電話が使えない場合はメール、メールが使えない場合はアプリなど、代替策も併せて検討することが求められます。
(※7)中小企業庁「資料12 安否確認の方法」
(※8)総務省「令和6年版 情報通信白書|安否確認行動」
確認すべき内容と実施上の留意点
安否確認に際しては、実施方法とともに確認すべき内容をあらかじめ定めておくとスムーズです。確認すべき内容の例としては、本人は無事か(けがはないか)、どこにいるか、被災状況、出社の可否、家族の状況などがあります。自社の事業継続のためにどのような項目を確認すべきか、平時から検討しておくことが重要です。
本人と家族の状況確認:
最優先で確認すべきは、従業員本人の生命・身体の安全です。本人が「無事」であるか「負傷」しているかといった被害の状況や、出社が可能かどうかの「出社可否」の確認、自宅や避難所などの「現在地」を正確に把握します。また、従業員自身の安全と同等に重要なのが「家族状況」の確認です。家族の安否が確認できない従業員に対しては、安全に配慮した上で一時帰宅を認めるなどの対応を適切に実施します。
未回答者への対応:
安否確認に対して未回答の従業員がいる場合、どう対応すべきかも考慮しなければなりません。未回答者は切迫した状況に置かれている可能性があるため、管理者は各従業員の回答を迅速に集計し、「誰がどのような状況か」とともに「誰が回答していないか」を洗い出す必要があります。
4. 平時から備える安否確認体制
緊急時の混乱に備え、企業は平時から安否確認がスムーズに進むよう備えておかなければなりません。まず行うべきは連絡体制の整備です。本記事の「主な実施方法」で述べた連絡ツールなどを活用し、自然災害発生時や緊急時にどのような手段で安否確認を行うかをあらかじめ定めておきます。
連絡体制を整備した後は、実効性の確認や社内周知のために安否確認訓練を行います。訓練では「〇曜日の〇時に震度〇の地震が発生」といった具体的な状況を想定した上で、安否確認を実施します。アプリなどの専用システムを導入している場合は、システムを起動し、管理者も実際の対応を行ってみましょう。想定する安否確認の応答率(例:3時間以内に100%)に対して、登録者全員が対応できるかなどを検証します。
その後、訓練での検証結果を踏まえ、自社の安否確認方法を明文化してBCPに記載します。記載して終わりではなく、定期訓練の実施とBCPの継続的な見直しを行うとともに、従業員の連絡先などの情報も随時更新していきます。
優れたシステムを導入しても、従業員からの回答がなければ状況把握は進みません。そのため、日頃から安否確認に対する社内の回答意識を醸成しておくことが大切です。また、連絡網の定期的な更新や、専任チームによる集計・報告手順の事前確認など、有事の際に迅速に行動できる体制づくりが管理者の重要な責務となります。
5. まとめ:安否確認は事業継続の出発点
企業における「安否確認」には、自然災害時や緊急時に従業員の状況を迅速に確認することで、自社の事業継続につなげる役割があります。取引先や従業員、地域住民といったステークホルダーに対する企業の社会的責任の一環として、平時から連絡体制の整備や利用するツールの準備、BCPへの組み込みなどの対応を進めておくことが重要です。
また、安否確認による人的資源の確保は、事業の復旧・継続を目指すBCPの起点であることを再認識し、有事にこれらを確実に機能させる実践的な訓練を繰り返し、実効性のある体制を構築しておくことが必要です。