警戒レベル
掲載:2021年07月01日
改訂:2024年08月05日
改訂者:コンサルタント 中村 大七
用語集
警戒レベルは、市区町村が発令する避難情報等を住民らにより分かりやすく伝えるためのものです。ここで言う「避難情報」とは、「避難指示」など、住民に災害発生の危険性を知らせ、避難行動を促す情報のことです。避難情報を伝える際に警戒レべルを用いることで、住民が危険度を直感的に理解しやすくし、適切なタイミングでの避難を促します。
警戒レベルはレベル1~5の5段階に分かれており(※)、気象の状況、地域の地形などのさまざまな情報を総合的に勘案して発表されます。市区町村から住民へ避難情報が発令された場合には、テレビやラジオ、インターネット、防災行政無線や広報車などで伝達されます。
※警戒レベルの1と2は気象庁が発表、警戒レベルの3~5は市区町村が発令します。
警戒レベルが定められた背景
2018年7月に発生した西日本豪雨では、気象警報や自治体による避難情報など様々な情報が発信されましたが、情報が分かりにくく、住民の避難行動に結びつかなかったため多くの方が犠牲となりました。この教訓を踏まえ、2019年5月より、内閣府が5段階の警戒レベルを防災情報に追加しました。住民が気象警報や避難情報など多岐にわたる情報に接する際、現在の危険度が5段階でどの状態か直感的に分かるようにしています。
出典:政府広報オンライン「『警戒レベル4』で危険な場所から全員避難!5段階の『警戒レベル』を確認しましょう」
2021年5月には、内閣府の「避難情報に関するガイドライン」が改定され、警戒レベルが発表される状況や住民が取るべき行動、行動を促す情報が一部変更されました。
出典:気象庁HP「警戒レベルの一覧表(周知・普及啓発用)」を基にニュートン・コンサルティングが作成
参考:高齢者等避難/避難指示/緊急安全確保の詳細は、こちらをご覧ください。
警戒レベルと警戒レベル相当情報の違い
警戒レベルは、レベルごとに「取るべき行動」を定めているほか、居住する市区町村が発令する避難情報(例えば「避難指示」など)と、気象庁や都道府県などが発表する防災気象情報の両方に適用されました。
具体的には、警戒レベルの3~5は市区町村から避難するタイミングに関する情報として発令されます。災害発生の危険度が高い順に「緊急安全確保」(警戒レベル5)、「避難指示」(警戒レベル4)、「高齢者等避難」(警戒レベル3)となります。一方、警戒レベル1~2は気象庁が防災への心構えや避難への準備を促す目的で「早期注意情報(警報級の可能性)」(警戒レベル1)や「洪水注意報」(警戒レベル2)などを発表します。市区町村が発令する情報は「緊急安全確保」「避難指示」「高齢者等避難」とシンプルですが、防災気象情報の方は警戒レベル1や警戒レベル2のほかに「警戒レベル〇×に相当する情報」(警戒レベル相当情報と呼ぶ)が複数あります。さらには、警戒レベルに紐づいていない防災気象情報もあります(例えば「大雪警報」や「記録的短時間大雨情報」など)。防災気象情報には、警戒レベル1と2のほかに、警戒レベル相当情報やそれ以外の警報・注意報などがあるとまずは知ることが重要です。警戒レベル相当情報は、住民にとっては、市区町村からの避難情報の発令を待たずに避難を検討するための判断材料であり、市区町村にとっては避難情報を発令する際の検討材料となります。
適切な避難行動の流れと注意点
警戒レベルおよび警戒レベル相当情報は適切な避難の判断に役立ちますが、これらの情報が発表された後に避難の準備をするのではなく、平時から備えておくことが求められます。生活している地域の環境やそのときの状況などにより、避難行動は異なります。事前に家族や地域の組織(自治会など)でハザードマップを確認し、どこに避難すればよいか、何を持っていくかなどを話し合いましょう。「自らの命は自らが守る」意識を一人一人が持ち、普段からどう行動するか決めておくことが重要です。
出典:内閣府の資料を基にニュートン・コンサルティングが作成
また、避難の種類には以下があります。
避難の種類 | 実施事項 |
---|---|
行政が指定した避難所への立退き避難 | マスク、消毒液、体温計、スリッパ、常備薬、着替えなど自身が必要とするものを持参する 予め持ち運びができるバックなどにまとめておく |
安全な親戚・知人宅への立退き避難 | 上記の必要なものを持参する 普段から災害時に避難することを相談しておく |
安全なホテル・旅館への立退き避難 | 通常の宿泊料が必要 ハザードマップで安全かどうかを確認し、予約する |
屋内安全確保 | ハザードマップで自宅などにいても大丈夫か確認し、下記を満たす場合は、屋内で上階などに避難する ・家屋倒壊等氾濫想定区域に入ってない ・浸水深より居室が高い ・水がひくまで我慢でき、水・食糧などの備えが十分にある |
出典:政府広報オンライン「『警戒レベル4』で危険な場所から全員避難!5段階の『警戒レベル』を確認しましょう」の資料を基にニュートン・コンサルティングが作成
ただし、事前の準備をしていても、実際に警戒レベルおよび警戒レベル相当情報が発表されるタイミングは様々です。下記の実例の通り、レベル3相当からレベル4相当までは30分~1時間程、レベル4相当からレベル5相当までは2~5時間であり、想像より早い印象を受けるのではないでしょうか。事前準備と早めの避難行動が重要であることが分かります。
- 平成27年9月関東・東北豪雨 常総市の鬼怒川氾濫時
- 氾濫警戒情報(レベル3相当)発表後、氾濫危険情報(レベル4想定)発表まで:1時間15分
- 氾濫危険情報(レベル4想定)発表後、越水(レベル5相当)まで:5時間45分
- 平成30年7月豪雨 倉敷市の小田川氾濫時
- 氾濫警戒情報(レベル3相当)発表後、氾濫危険情報(レベル4想定)発表まで:30分
- 氾濫危険情報(レベル4想定)発表後、越水(レベル5相当)まで:2時間10分
出典:NHK放送文化研究所「鬼怒川決壊 常総市の住民はどのように避難したのか?」、倉敷市「平成30年7月豪雨災害 対応検証報告書」を基にニュートン・コンサルティング作成
警戒レベルに合わせた防災気象情報の見直しと留意点
よりわかりやすい防災情報の伝達を実現するため、現在、警戒レベルに合わせて防災気象情報の見直しと、省庁(国土交通省・気象庁)と都道府県との連携強化が進められています。特に、警戒レベル相当情報は大幅に見直され、2026年出水期から新たな情報体系で運用を開始することを目指しています。
防災気象情報の見直しを進める理由は、防災気象情報の「わかりやすい」伝達を通じて、住民の混乱を防ぎ、人命確保を確実にするためです。現状では、2019年に警戒レベルが導入されたものの、既存の防災気象情報の体系を改廃せずに当てはめるにとどまったため、いざ情報が発表されたときに「どの程度、危険な状況なのか」ということが理解しづらくなっています。気象台(気象庁)と都道府県が共同で発表している情報、気象庁や河川事務所(国土交通省)、都道府県が単独で発表している情報など、発表主体がさまざまであるために、発表する基準が異なっていたり、災害の種類で情報体系が異なるため同じ「警戒」という言葉が使われていても示すレベルが異なっていたりしています(洪水でレベル3相当情報に使われている一方、土砂災害ではレベル4相当情報に使われている)。 土砂災害に関する情報を例にとると、警戒レベル5,3,2相当の「大雨特別警報(土砂災害)」「大雨警報(土砂災害)」「大雨注意報」を気象庁が「土壌雨量指数」を基準にして発表することにしています。一方、警戒レベル4相当の「土砂災害警戒情報」は気象庁と都道府県が共同で発表し、その発表基準は「土壌雨量指数」のほかに「60分間積算雨量」も含まれています。また、高潮に関する警戒レベル相当情報では都道府県が警戒レベル5相当の「高潮氾濫発生情報」のみを発表。一方、気象庁は警戒レベル4相当、3相当、警戒レベル2を発表しています。
こうした状況を改善するために、国は「防災気象情報に関する検討会」を設置、2024年6月に検討会が報告書をとりまとめました。そこでは、防災気象情報を災害の種類ごとに、内閣府が定めた5段階の警戒レベルに対応させて再編するよう提言しました。具体的には以下のように整理しました。
【防災気象情報の見直し後の情報名称一覧】
出典:国土交通省「防災気象情報の体系整理と最適な活用に向けて(「防災気象情報に関する検討会」取りまとめ)」
- ※1 警戒レベル相当情報への位置づけについては、関係機関で今後の課題として検討。
- ※2 発表単位をどうすべきかについては、情報利用者の視点も踏まえつつ、引き続き関係機関で検討。
- ※3 洪水予報河川または水位周知河川、高潮に関する情報の対象沿岸において氾濫の発生を確認した場合、その旨を氾濫特別警報または高潮特別警報の文章情報等に明記。
- ※4 警戒レベル相当情報とは、国・都道府県が発表する防災気象情報のうち、居住者等が自ら行動をとる際の判断に参考となる防災気象情報と5段階の警戒レベルとを関連付けるものである。警戒レベル相当情報が発表されたとしても必ずしも同時刻に同じレベルの避難情報が発令されるものでない。
各名称にはレベルが付されているため、より直観的に災害発生の危険度がわかりやすくなりました。例えば、警戒レベル4相当情報では、氾濫危険情報、土砂災害警戒情報、高潮特別警報、高潮警報と、 同じ警戒レベル4相当情報の中でも表記が分かれていたものが、全て「危険警報」へと表記が統一されました。
この見直しによる企業への影響は大きくはないですが、BCP策定・見直しにあたっては、今後も警戒レベルを中心に 行動計画を記すようにしておくことが望ましいでしょう。
企業の防災担当者として実施すべきこと
企業の防災担当者の皆様には、万が一の際に、指示が遅れて取り返しがつかない状況にならぬよう、平時より以下3点の実施を推奨します。
- 警戒レベルに紐づく企業・住民が取るべき行動を理解する
- 自拠点のハザードマップを確認し、組織として素早い意思決定ができるようタイムラインを策定する
- 演習・訓練を通じて組織の意思決定者、代行者のスキルアップを図る
1.警戒レベルに紐づく企業・住民が取るべき行動を理解する
自治体は防災気象情報のほか、様々な情報を踏まえて避難情報を発令するため、同じレベル相当の防災気象情報と避難情報の出るタイミングが必ずしも同時になるわけではありません。「自らの命は自らが守る」との意識を持って、防災気象情報も参考にしながら、適切な避難行動を理解し、組織の意思決定者への情報提供や、社員への避難指示などができるようにすることが重要です。
また、社員の安全無くしては、組織の事業も継続できません。社員には、平時から自宅がある地域のハザードマップと避難先を確認するよう周知し、自分の命を守るための準備を促しましょう。
2.自拠点のハザードマップを確認し、組織として素早い意思決定ができるようタイムラインを策定する
ハザードマップで自拠点のリスクを理解し、タイムライン(防災行動計画)を作成しましょう。タイムラインとは、災害時に発生する状況を予め想定して「いつ」、「誰が」、「何をするか」、時系列で整理した計画のことです。特に風水害など、被害発生が事前にある程度予測できる災害にはタイムラインが効果を発揮します。
3.演習・訓練を通じて組織の意思決定者、代行者のスキルアップを図る
組織の意思決定が遅れることで、社員の命を守れないといった最悪の事態を招く可能性があります。平時からの演習・訓練を通じて、特に組織・拠点の意思決定者、意思決定代行者のスキルアップを図ることを強く推奨します。
参考文献
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