
日本で起きている集中豪雨の3分の2ほどが線状降水帯によるものだと言われています。「線状降水帯」は、2017年には流行語大賞にノミネートされるほど注目された言葉ですが、具体的に線状降水帯がどのようなものかを知っている人は少ないのではないでしょうか。本稿では、この線状降水帯について解説します。
線状降水帯とは
気象庁では、線状降水帯を次のように定義しています。
“次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなした、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50~300km程度、幅20~50km程度の強い降水をともなう雨域”
出典:気象庁HP、[最終閲覧:2022/06/01]
ただし、この用語は2000年ごろに日本で作られた新しい用語で、気象学的に厳密な定義があるわけではありません。英語でも “Senjo-kousuitai” と表現されています。
他の気象用語との関係
なお、天気予報などでは、線状降水帯以外にも「局地的大雨」や「集中豪雨」等、多くの用語が使われています。これらの言葉とはどう異なるのでしょうか。
気象庁によると、局地的大雨は「急に強く降り、数十分の短時間に狭い範囲に数十mm程度の雨量をもたらす雨」と定義され、「単独の積乱雲が発達することによって起き、大雨や洪水の注意報・警報が発表される気象状態でなくても、急な強い雨のため河川や水路等が短時間に増水する等、急激な状況変化により重大な事故を引き起こすことがある」といいます。
一方、集中豪雨は「同じような場所で数時間にわたり強く降り、100mmから数百mmの雨量をもたらす雨」と定義され、「積乱雲が同じ場所で次々と発生・発達を繰り返すことにより起き、重大な土砂災害や家屋浸水等の災害を引き起こす」といいます。他に「ゲリラ豪雨」という言葉もありますが、これは上記2つのどちらの場合にも使われる言葉です。
ここで認識しておきたいのは、上記の用語は「豪雨」という現象に対してつけられた名前であるということです。線状降水帯は、複数の積乱雲が帯状に連なっている状態を表し、強い雨を降らす原因になるものです。したがって、線状降水帯によって生じた豪雨は、集中豪雨と呼称されることになります。
(表:局地的大雨と集中豪雨の違い)
積乱雲の数 | 降水時間 | 降水量 | 災害発生可能性 | |
---|---|---|---|---|
局地的大雨 | 1つ | 数十分程度 | 数十mm程度 | ○ |
集中豪雨 | 複数 | 数時間程度 | 数百mm程度 | ◎ |
(出典:気象庁HPを基にニュートン・コンサルティング作成)
線状降水帯による災害事例
ここでは、線状降水帯による集中豪雨の影響で大きな被害が発生した事例を紹介します。
平成26年8月豪雨
1つ目は、2014年8月に発生した集中豪雨が挙げられます。特に、8月19日から20日にかけて、広島県広島市安佐北区三入で発生した集中豪雨は、1時間降水量で101mmを記録しました(午前3時~4時)。三入でのこれまでの観測史上1位が62mmだったことを考えれば、明らかに異常な降水量であることがわかります。この豪雨により、土石流やがけ崩れなどの土砂災害が併発し、広島県安佐北区、安佐南区で74名が亡くなりました。

【図:2014年8月20日午前3時~4時の広島県の降水量分布】

【図:2014年8月15日~20日にかけての三入の降水量推移】
平成29年九州北部豪雨
2つ目は2017年の九州北部豪雨です。この豪雨が、線状降水帯という言葉が一般に流布するきっかけになりました。7月5日には、福岡県朝倉市朝倉で1時間に129mmの降水量を記録し、福岡県だけで37名が亡くなりました。

【図:2017年7月5日午後3時ごろの九州地方北部の降水量分布】

【図:2017年6月30日~7月10日にかけての朝倉の降水量推移】
平成30年7月豪雨
3つ目は2018年に西日本全域を襲った豪雨です。上記2つの豪雨と異なるのは、豪雨の範囲が北海道から九州にまで亘った点です。さらに、前年の九州北部豪雨では線状降水帯の形成は4事例程度しか見られませんでしたが、平成30年7月豪雨では16事例にも及びました。 線状降水帯の形成によって特に大きな被害を受けたのは高知県で、安芸郡馬路村魚梁瀬では1時間当たりの降水量で約97.0mmを記録しました。

【図:2018年7月6日午前3時ごろの四国地方の降水量分布】

【図:2018年6月28日から7月8日にかけての魚梁瀬の降水量推移】
令和2年7月豪雨
最後は2020年7月に熊本県を中心とする九州地方などで大きな被害が出た豪雨です。特に7月3日から8日にかけては、九州地方で多数の線状降水帯が発生し、総降水量に対する線状降水帯による降水量の割合が平成30年7月豪雨より大きくなりました。停滞が異例の長時間にわたった線状降水帯もあり、球磨川で発生した大規模な洪水氾濫においては、同川流域に線状降水帯が11時間半も停滞を続けました。
企業や個人が取れる対策
このように、線状降水帯は大きな被害をもたらしかねず、近年はその対策が重視されるようになってきました。気象庁は線状降水帯に関する社会的な認知が広まったことを受け、2021年6月からその発生を確認した後に「顕著な大雨に関する情報」として発信するようになりました。翌2022年6月1日からは、予測は難しいとされてきた線状降水帯ですが、スーパーコンピューター「富岳」などを使い、線状降水帯による大雨が発生する半日前から予測情報を提供するようになりました。2024年5月からは、強化されたスーパーコンピューターやメソアンサンブル予報(MEPS)を用いた危険度分布(キキクル)を活用することでそれまで全国11のブロックに分けて発表していたものを、より絞り込んだ府県単位の発表に変更します。予測範囲が狭まることで、住民などに警戒意識を高めてもらい、より早い避難や防災対策を促します。
線状降水帯による集中豪雨を含め、雨による災害は事前に予見することが可能です。豪雨対策は、いざというときにすぐに避難を開始できる体制を整えておくことが重要です。被害を最小限に抑えるために、企業や個人で取ることのできる対策には以下のようなものがあります。
対策 | 内容 | 対策の対象 |
---|---|---|
ハザードマップの確認 | 自宅や会社の地域のハザードマップを見て以下の情報を確認しましょう
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個人・企業 |
タイムラインの作成 | タイムラインとは、国土交通省が推奨する防災行動計画のことです。災害の発生を前提に、防災関係機関が連携して災害時に発生する状況を予め想定し共有した上で、「いつ」、「誰が」、「何をするか」に着目して、防災行動とその実施主体を時系列で整理して計画化するものです。各企業でも、行政機関の動きを把握した上で、企業としての行動を事前に準備しておくことが重要です | 企業 |
マイタイムラインの作成 | マイタイムラインとは、上記のタイムラインの個人版です。各個人が、台風や豪雨の情報に接した際に、「いつ」「誰が」「何をするか」を整理します 各都道府県や市区長村等の自治体がテンプレートを発行しているため、自分の住んでいる自治体のものをダウンロードし、ハザードマップの確認をしながら防災計画を立てましょう |
個人 |
非常用持ち出しセットの準備 | 以下のものを1つの鞄などに入れ、いつでも簡単に持ち出せるよう準備しましょう
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個人・企業 |
安否確認手段の確保 | 家族や社員の安否確認手段を確認しておきましょう。例としては以下の手段が考えられますが、重要なのは、どのように安否確認をするかを事前に決めておくことです
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個人・企業 |
事業継続計画(BCP)の策定 | オフィス等が水害に見舞われた際、どのような手順で事業を復旧、継続していくのかを検討することも大切です。特に水害の場合は地震等とは異なり、ある程度天気予報等で事前に予測がつくため、被害が発生する前から対策本部を立て、被害を最小限に抑えるための行動を取ることが重要になります | 企業 |