気象庁は、交通政策審議会気象分科会提言「2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方」(2018年8月、2030年提言)を指針として各種施策を展開しています。2030年に向けて提言から折り返し地点を過ぎるとともに、急速な社会変化や技術革新を踏まえた対応としていくために、交通政策審議会気象分科会はこのほど、2030年提言を補強する目的で「追加的に講じるべき施策」をとりまとめ、公表しました。
2018年の提言当時と比べ、現在は先端AI技術が急速に進展したほか、令和元年房総半島台風や令和元年東日本台風に伴う洪水・土砂災害、令和6年能登半島地震と大きな災害も発生しています。交通政策審議会気象分科会では、提言内容を着実に実施するとともに、追加的に講じるべき施策が必要だと判断しました。
公表された文書「『2030 年の科学技術を見据えた気象業務のあり方』の補強」では、2030年提言を基礎としつつ、追加的に強化していくべき施策として①台風情報の高度化②気候変動情報の高度化③大規模地震・噴火対策の推進④先端AI技術の活用⑤面的気象情報の拡充――の5つを柱としています。
例えば、先端AI技術の活用では、従来の数値予報モデルに新たにAI気象モデルを組み合わせることで気象予測の高精度化を推進します。数値予報モデルとは、観測データに基づき現在の気象状況を初期値として設定し、物理法則に従いその変化を数値計算して将来の気象状況を予測するコンピュータプログラムです。
また、観測データそのものの品質向上や観測データを基にした解析および推定の高精度化などにもAIを活用します。AI処理することで時空間的に高密度な三次元気象データを推定できます。AIに学習させるデータとしては、気象再解析データ(過去の気象ビッグデータ)や気象衛星データなどが挙げられています。AIのリスクや課題を考慮した上で自然現象の予測精度の向上や防災気象情報の高度化につなげるとし、知見共有のために産学官連携を強化すると記されています。
なお、先端AI技術の活用は気象だけでなく海洋・地震・火山などあらゆる分野において観測から解析・推定、将来予測までを含めて推進し、防災気象情報の高度化を図ると明記されています。