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企業が風水害に備えるために重要なポイントとは

掲載:2024年06月20日

改訂:2024年09月05日

執筆者:コンサルタント 奥津 巧海

コラム

梅雨や台風の時期になると、毎年のように浸水被害や土砂災害が発生しています。また乗客や従業員の安全のために計画運休を実施したり、臨時休業を余儀なくされたりするなど、企業活動にも大きな影響を与えています。近年は気候変動の影響により、台風による降水量や風力が増し、被害もより甚大になると予測されています。そのため、日本の企業は風水害対策を検討しておくことが重要になるでしょう。 本稿では、風水害に対してどのように備えて被害を軽減すればよいかを解説します。

         

風水害とは

風水害とは、強風や大雨、波浪、高潮などによって引き起こされる災害の総称です。具体的には、土砂災害や浸水などがあげられます。

風水害の特徴は、発生をある程度予測することができ、時間をかけて被害の様相が変化していく災害であるということです。このような災害を、ほぼ前触れがなく発生する地震などの突発型災害と対比して、進行型災害と表現することがあります。つまり、風水害は予兆から被災までの時間が比較的長く、事前にある程度被害の規模やタイミングを予測することができるといえます。

近年の風水害の事例

日本では台風や大雨などの風水害が毎年発生しています。表中の災害の多くは、7~10月に多く発生しています。また、特定の地域に限って発生しているわけではなく、日本全国で風水害が起きていると言えるでしょう。

【2010年以降の主な日本の風水害】
名称・期間等 主な被害
1 平成23 (2011)年7月27日~30日「平成23年7月新潟・福島豪雨」
  • 新潟県と福島県会津を中心に600ミリを超える大雨を記録
  • 死者4名、行方不明者2名や多くの家屋全半壊、床上浸水等が発生
2 平成26(2014)年7月30日~8月26日「平成26年8月豪雨」
  • 7月31日から8月11日にかけて、台風12号及び台風11号が相次いで日本列島に接近
  • 8月上旬から8月26日にかけて前線が日本付近に停滞し、全国で記録的な大雨が発生
  • 広島市内では死者77名、負傷者68名を出したほか、住宅の倒壊や土砂災害が発生
3 平成30 (2018)年6月28日~7月8日「平成30年7月豪雨」
  • 九州北部、四国、中国、近畿、東海、北海道の多くの観測地点で記録的な大雨が発生
  • 全国1府10県に大雨特別警報を発表
  • 死者224名、行方不明者8名のほか、非常に多くの家屋の全半壊や床上浸水が発生
4 令和元(2019)年9月7日~8日「令和元年房総半島台風」
  • 伊豆諸島や関東地方南部を中心に猛烈な風、猛烈な雨が発生
  • 死者3名、重傷者13名が発生したほか、多くの家屋の全半壊や床上浸水が発生
5 令和元(2019)年10月10日~13日「令和元年東日本台風」
  • 全国1都12県に大雨特別警報が発令されるなど、記録的な大雨が発生
  • 死者91名、行方不明者3名が発生したほか、非常に多くの家屋の全半壊や床上浸水が発生
6 令和2(2020)年7月3日~31日「令和2年7月豪雨」
  • 熊本県、鹿児島県、福岡県、佐賀県、長崎県、岐阜県、長野県の 7 県に大雨特別警報が発表されるなど、記録的な大雨となった
  • 死者84名、行方不明者2名が発生し、非常に多くの家屋の全半壊や床上浸水が発生
7 令和4年(2022)8月1日~8月6日「8月1日から6日の前線による大雨」
  • 北海道地方や東北地方及び北陸地方を中心に記録的な大雨となった
  • 大雨の結果、土砂災害や河川の増水や氾濫、低地の浸水による被害が発生した

企業が風水害に備えるためのポイント

このような状況の中、企業も風水害から従業員や自社の事業を守るために何らかの対策を講じておく必要があると言えるでしょう。 ここでは、風水害対策を検討する上で、企業が押さえておくべき重要なポイントについて解説していきます。

①ハザードマップの確認と分析

ハザードマップを確認・分析することは、自社の拠点が風水害リスクが高いのか、また予測される被害はどの程度のものなのかを把握するのにとても有効です。ハザードマップを確認することで、浸水等の災害発生が想定される区域や避難所に関する情報を得ることができ、自社のどの拠点が最も風水害リスクが高いのかや、被災した際の避難先などが整理できます。
把握した情報に基づき各種計画の策定や、予防策の導入を検討することが、費用対効果を最大限に引き上げるために重要なポイントとなってくるでしょう。

実際にハザードマップを活用するとなった際には、Web上で公開されている全国どこの地域の情報も見ることができ、複数の災害のハザードマップを一括で閲覧できる「重ねるハザードマップ」や河川ごとの浸水被害に関する情報に特化しており、時間経過ごとの浸水深を調べたり、河川の決壊ポイントごとにどのような浸水が想定されるかがわかる「浸水ナビ」を活用するほか、各自治体が公表しているハザードマップを、知りたい情報や目的に応じて活用することをお勧めします。自治体のハザードマップは、国土交通省・国土地理院「わがまちハザードマップ」から確認することもできます。

出典:ハザードマップポータルサイト「重ねるハザードマップ

②タイムラインの活用と具体的な対策の検討

①で把握した情報をもとに、風水害が起こった際の自拠点の被害の程度を想定したタイムラインを策定しておくことで、被害を軽減することが可能です。

タイムラインには災害発生の予兆から時間経過ごとの対策、事後対策を定めます。
例えば大雨の場合、予兆としては気象警報・注意報または早期注意情報があり、それらが発令されたタイミングで、土嚢を用意する、社員の帰宅判断を行うことをタイムラインに明記しておきます。あるいは、実際に河川氾濫等で浸水被害が発生した際の安否確認方法を整理しておくことなどが挙げられます。このような対応策を決めておくことで、自社の被害を低減し、早期の復旧が可能となります。

タイムライン策定にあたっては、「いつ」、「誰が」、「何をするか」の3要素に着目し、時系列で行動計画を整理する必要があります。防災情報などの推移の想定を起点に対応を行うタイミングを定め(いつ)、役割分担と連携体制(誰が)を明確にし、そして既存の防災マニュアルやBCP等と整合した防災行動(何をするか)を記載していきます。

タイムラインを準備しておくことは非常に有効ですが、外部環境や組織の変化などが反映されなければ効果は発揮できません。有効なタイムラインとして機能するためには、常にブラッシュアップさせることが何よりも重要になります。

タイムラインを策定する上で重要なポイントやその有効性については、こちらの記事に詳しく掲載しておりますので、詳細をお知りになりたい方はご覧ください。

③BCPの策定

ハザードマップを確認し、タイムラインを作成したからと言って風水害による事業の停止を避けることはできません。事業の停止に備え、「BCP(事業継続計画)」を策定しておくことも、風水害対策として重要なことです。

ただし、これからBCPを策定される場合は、風水害にのみ対応するBCPではなく、近年主流になってきている「オールハザードBCP」を検討しましょう。内閣府が発行する「事業継続ガイドライン」でも、あらゆる災害に対応可能な「オールハザードBCP」の策定が推奨されており、風水害も対象となっています。

この策定手法が推奨されている理由としては、近年BCPが対象とする災害や事象が多様化しており、それらに対して個別に対策を立てるということは、手間がかかることや、想定外のシナリオに対応できない可能性があるからです。ですので、あらゆる災害に応用可能な、「オールハザードBCP」の策定が推奨されています。

④社内体制の構築と継続的な教育

ここまでお伝えしたポイントに基づき導入した対策を、さらに有事に使える対策とするには、平時及び有事の役割責任を明確にし、トップから現場の従業員までの全ての当事者が日々教育や訓練を通じて対応力向上を図っていくことが重要です。

当事者がルールを全く知らない状態では、刻々と変化する被害状況に対応が間に合わない可能性があります。平時から教育・訓練の場を設け、ルールを周知し、自分は風水害が起きた際にどのような行動を取るべきかイメージを膨らませておくことが重要になります。

また、組織の環境は内部も外部も日々変化します。作成したタイムラインが現状の組織でも有効なのか、外部環境の変化には対応しているのかなど、訓練を通して発見することも可能です。継続的に見直し、有効性を高めましょう。

まとめ

風水害対策は、従業員の安全確保、企業の事業継続にとって非常に重要である一方、どこまで対策を立てればいいか、その見極めも大事です。本稿でご紹介したポイントを踏まえ、優先的に対策をとるべき拠点はどこか、その拠点のなかでどの施設・設備が重要なのかを見定めつつ、自社の実情に合った対策を検討・導入することが有効になっていくでしょう。

また、有事対応は継続的な取り組みこそが最も重要なポイントであり、風水害についても同様です。定期的な訓練やシミュレーションを実施し、従業員の意識向上を図り、対応力を向上させていくことで、不測の事態にも耐えられる組織力が養われるでしょう。