環境省はこのほど、パンフレット「深刻化する豪雨~我々はどのようなリスクに直面しているのか~」を作成しました。本パンフレットには、西日本を中心に深刻な被害をもたらした「平成30年7月豪雨」を対象に、地球温暖化が進行した条件下で大雨の様子や与える被害にどのような変化が生じるのか、シミュレーションによる評価と適応策が掲載されています。
環境省では、2020年より文部科学省の気候変動研究プログラムの成果などを活用し、近年甚大な被害をもたらした気象災害について評価を行っています。2023年には「令和元年東日本台風(台風第19号)」などを対象にして評価を行い、同様のパンフレットを作成、公開しています。
パンフレット内では、実際に「平成30年7月豪雨」が発生した時の状況をコンピュータ上で再現したシミュレーションと、地球温暖化による気候変動で工業化以前(1850年~1900年)より世界平均気温が2℃上昇、4℃上昇した各シナリオ設定上において「平成30年7月豪雨」が発生した場合のシミュレーション結果を比較し、評価しています。
その結果、降水量については、2℃上昇、4℃上昇いずれも西日本全体で降水量が増加しました。2℃上昇における総降水量の増加率(※1)は、全54ケースのシミュレーションで平均9%(最小-1%~最大23%)、4℃上昇における増加率は、平均25%(最小1%~最大50%)でした。総降水量の平均増加量の分布では、4℃上昇シナリオの場合、特に九州南部や四国などの西日本南部で降水量の増加が著しいという結果となりました。
一方、河川の流量(※2)については、2℃上昇におけるピーク流量の増加率は、中国・四国・九州地域の41水系で平均17%(最小3%~最大49%)、4℃上昇における増加率は、平均46%(最小11%~最大89%)となり、いずれもピーク流量が増加しました。41水系のうち8水系のピーク流量に着目すると、特に九州南部の球磨川水系や大淀川水系で大きく増加する傾向が見られると分析しています。
パンフレットには、これら気象災害についての適応策も明記されています。まず推奨される行動としては、地球温暖化の影響が既に現れ始めているとして「過去に経験のない大雨がいつ降ってもおかしくない」という危機感を持ち、事前に備える行動につなげていくことが重要であると記しました。
また、堤防などの物理的なハード対策だけでは防ぎきれない大雨が降る可能性に言及し、被害を減らすためには、上・中・下流が一体となった流域治水対策と自助共助の取り組みが欠かせないとしています。特に、住民を対象とした対策としては、リスクのより低い地域への居住誘導や、想定浸水以上の高さに居室を確保するなどの工夫を行うことが有効だとしました。
このほか、リスク情報の適切な発信と理解が大切だとして、早期に発信された河川氾濫情報を活用するには、予測の不確実性を加味したタイムラインを設定し、防災行動につなげることが肝心であると示しました。さらに、有事の際には最悪のシナリオを想定して危機管理を行うことを推奨しています。そうすることで、逃げ遅れによる人的被害ゼロの実現や社会経済被害の最小化につながると記しました。
なお、環境省は、本調査が過去の豪雨事例について地球温暖化が進行した条件下でどのような影響がもたらされるか評価することを目的としたもので、シミュレーションした大雨が今後発生することを示すものではないとしています。
※1 全54ケースそれぞれについて計算領域の陸域における総降水量の増加率を算出し、全体の平均値、最小値、最大値を求めたもの
※2 全54ケースの降水量に対して、2つの河川モデルを使用した計108ケースのシミュレーションを行い、各ケースにおける河川流量の最大値(ピーク流量)を算出