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ベキ分布(ベキ乗則)

掲載:2011年06月21日

用語集

近年急速に情報が集まり、分析が進展し、理論的な解明がすすんでいる確率分布のひとつに「ベキ分布」があります。
従来はリスクについて考える際は、損害規模や発生確率は正規分布的に平均を考え、分散を考え、どの程度かと想定していました。しかし、地震や山火事や、株価の大暴落の災害や異常現象は、何らかの平均があり、それからの乖離を計る分散を見ることで予測できるものではないのではないか、という議論が出てきます。
その後の研究により、自然現象では地震の大きさと発生頻度、山火事の被害面積ごとの発生頻度など、経済現象では株価、為替などの市場価格の変動、社会現象では戦争の発生頻度と戦死者数などは正規分布とは明らかに異なる形、即ちベキ分布に従っていることが分かってきました。

         

正規分布

まずは正規分布について説明します。

いわゆる確率的な分布と言われたら、ほとんどの人は右図のような釣鐘型の正規分布を思い浮かべることでしょう。正規分布とは、あるサンプル集団のばらつきが、その平均値を境として前後同じ程度にばらついている状態を示し、分布図で見ると、平均値を線対称軸とした左右対称の釣鐘型でなだらかな曲線を描きます。つまり、平均値の周辺にサンプルが多く集まり、値が大小の左右の裾野に向かうとサンプル数が急激に減るということです。

正規分布はド・モアブルによって1733年に発見され、1809年にガウスにより、詳細に論じられました。我々が良く使う平均や分散、標準偏差などは正規分布の研究で使われ、一般知識となりました。正規分布はランダムな現象を説明できる分布として広く使われています。例えば、保険、偏差値、金融派生商品(デリバティブ)の価格付けに使われるブラック・ショールズ方程式などがあります。

ベキ分布の発見と研究の発展

ベキ分布(ベキ乗則)は1890年代にイタリアのパレート(80:20の法則で有名)が収入の分布を研究していて発見しました。その後1950年代にアメリカのグーテンベルクとリヒターが地震の大きさと頻度を調べていて、ベキ乗則に従っていることを発見し、近年急速に研究が進みました。

ベキ分布とは、極端な値をとるサンプルの数が正規分布より多く、そのため大きな値の方向に向かって曲線は長くなだらかに裾野を伸ばしていきます。裾野は正規分布よりも広い(ファット・テール)のも特徴です。

これまで正規分布は統計の基礎として、特に、経済学で数学モデルを作る時に使われてきました。しかし、近年の経済物理学の研究から、下記のような事象はベキ分布に従っていると考えられるようになりました。
  • 自然現象:ガラスを床に落とした際の破片の大きさの分布、地震の大きさと発生頻度、山火事の被害面積ごとの発生頻度など
  • 経済現象:株価、為替などの市場価格の変動、所得の分布、純資産の分布など
  • 社会現象:本の売上分布、論文の数と引用された回数の関係、戦争の発生頻度と死者数

左図は、「はやぶさの破片のサイズと数の分布の(両対数)グラフ(提供国立天文台)」(出典:国立天文台 メールニュース No.13 (2010年9月22日発行))です。

はやぶさが地面と激突し、破砕された破片はベキ分布に従っていることがわかります。

ベキ分布の発見と研究の発展

ベキ分布は正規分布と異なり、平均と分散が意味を持たない場合があります。
 
分布 平均 分散 特長
正規分布 意味あり 意味あり(平均値からの乖離具合) ランダム
ベキ分布 意味のない場合がある 意味のない場合がある ファット・テール

上のベキ分布グラフを見て分かるように、ベキ分布においては平均という概念は意味を持ちません。また、分散に至っては考えようがありません。

例えば、(2011/4/7日経新聞朝刊:高安秀樹明治大学客員教授「『統計の常識』超す大災害の本質-平均の概念意味なさず」から)仮にマグニチュードが5と7と9の地震だけで考えてみましょう。M5の地震エネルギーを1とした場合、M7は1000、M9は1,000,000です。

ある10年間、日本近傍を観察すると、M5の地震はおよそ1000回、M7の地震は10回発生します。一方M9の地震は、この間1回起こるか起こらないかでしょう。

M9の地震が起こらなかった場合、この期間の地震エネルギーの平均値は11になります。一方M9の地震が1度発生すると、この期間の地震エネルギーの平均値は1011になってしまいます。たった一つの超巨大地震のサンプルを含むか含まないかで、平均値は100倍も変わるのです。これがベキ分布の特異性です。
 

ベキ分布の他の特性

もう一つのベキ分布の特長はスケール不変性(フラクタル性)です。どのスケール(尺度)で拡大/縮小してみても、同じような状況が見えるのです。

ベキ分布は確率分布の一つに過ぎませんが、正規分布では起こりえない事象がある程度の確率で起こってしまう(不確実性の)問題を考える上で、有効なツールと考えられています。
参考文献
  • 「不透明な時代を見抜く統計思考力」神永正博 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2009/4/15
  • 「歴史は『べき乗則』で動く」マーク・ブキャナン 早川書房 2009/8/25
  • 「経済物理学の発見」高安秀樹 光文社新書 2004/9/20
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