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2022年の重大リスクを考える~さまざまな重大リスクレポート for 2022の特徴と活用方法~

掲載:2022年02月01日

執筆者:取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介

ニュートン・ボイス

2022年の開始直後には、やはりさまざまな専門機関や専門誌から「2022年の重大リスク予測」などが発表されましたね。こうした予測を発表する組織は年々増えているように思いますが、ありがたいなと思う一方で、さまざまな方面から示される重大リスクランキングの情報に溺れ気味の感があります。こうした情報をうまく活用しきれず、ストレスを溜め込んでいらっしゃる方もいるのではないでしょうか。そこで今回は、各方面から出されているこうした重大リスク情報を並べてみて、俯瞰的に捉えつつ、何かしらの学びにつなげられればと思います。

         

2022年はどんな重大リスクが発表されているのか

改めてどのような重大リスクが発表されているのか、振り返っておきたいと思います。

代表的なレポートから

代表的なレポートの1つが世界経済フォーラム(World Economic Forum)が毎年、年次総会(ダボス会議)の前に発表している「グローバルリスク報告書」2022年版です。世界経済フォーラムが学術界、企業、政府、市民社会、オピニオンリーダーからなる広範なネットワークの専門知識を活用して取りまとめたものであり、数ある報告書の中でも、広範かつ多様な調査対象者のリスク認識に基づく結果であると言えます。ゆえに、サステナビリティに関係する「気候変動対策の失敗」や「異常気象」などが上位にランクインしています。2022年版の同報告書では、2年内の重大リスクとして次のようなリスクを挙げています。

  1. 異常気象
  2. 生活危機
  3. 気候変動対策の失敗
  4. 社会的結束の低下
  5. 感染症
  6. メンタルヘルスの悪化
  7. サイバーセキュリティ対策失敗
  8. 債務危機
  9. デジタル格差
  10. 資産バブル崩壊

出典:“Global Risks Horizon”, The Global Risk Report 2022, WEF

また、IIA(内部監査人協会)は2022年の12の主要リスクを発表しています。2022年に組織に影響を及ぼす可能性のある幅広いリスクの中から厳選された以下の12のリスクは、150人あまりの取締役、経営幹部、CAEへの詳細なインタビューを通じてまとめられたものです。こちらは、世界経済フォーラムのグローバルリスク報告書とは異なり、2022年に主眼を置き、より企業人にフォーカスした調査結果であると言えます。ゆえにトップ12の中には、「人材管理」や「ガバナンス」といったものもランクインしています。

  1. サイバーセキュリティ
  2. 人材管理
  3. ガバナンス
  4. データ保護
  5. 文化
  6. 経済・政治情勢不安
  7. 法規制環境変化
  8. サプライヤ管理
  9. 破壊的なイノベーション
  10. 社会的持続性
  11. サプライチェーン中断
  12. 環境の持続性

出典:ONRISK a guide to understanding, aligning, and optimizing risk, 2022 from IIA

次に、リスクはリスクでも、地政学リスクに特化した調査結果を発表している米ユーラシア・グループによる地政学的リスクトップ10があります。2022年の重大リスクは次のように紹介されています。

  1. ゼロコロナ政策の失敗(ノーゼロコロナ)
  2. 巨大ハイテク企業による支配(テクノポーラー世界)
  3. 米国の中間選挙
  4. 中国の国内政策
  5. ロシア
  6. イラン
  7. 2歩前進1歩後退のグリーン政策
  8. 世界における力の空白地帯
  9. 文化戦争に敗れる企業
  10. トルコ

出典:Top Risks 2022 from Eurasia Group

その他のレポートから

英エコノミスト・インテリジェンスも、「EIU Risk Outlook 2022」というレポートを発表しています。こちらはエコノミストらしく、世界の成長率とインフレ率に影響を与えるという観点での10のリスクシナリオが掲載されています。ゆえに「米中関係を起点とする世界のデカップリング」や「金融引き締めによる米国株暴落」などが上位にランクインしています。

  1. 米中関係の悪化による世界経済の完全なデカップリング
  2. 予想外の金融引き締めで米国株暴落
  3. 中国での不動産暴落による急激な景気後退
  4. 国内外の金融引き締めによる新興国市場の回復遅延
  5. ワクチンに耐性を持つ新種コロナ(COVID-19)の出現
  6. 広がる社会不安が世界的な景気回復の重荷に
  7. 中国と台湾の間で紛争が勃発し米国が介入
  8. EUと中国の関係が大幅に悪化
  9. 深刻な干ばつによる飢饉の発生
  10. 国家間のサイバー戦争による主要経済国の国家インフラの機能不全

出典:Economist Inteligence 2022 10 scenarios that could impact global growth and inflation

グローバルファームAONも、2021年10月にトップ10リスクを発表しています。こちらはWebアンケートによる調査結果に基づくものです。2年に1度実施する調査で、2022年のリスクに関しては、世界60ヶ国・地域の中小企業から大企業まで、16の産業クラスターから回答が集まりました。オープンなWebアンケート結果に基づくものですので、「サイバー攻撃」や「事業中断」など、よく耳にするリスクが上位を占めています。トップ10のリスクは以下の通りです。

  1. サイバー攻撃&情報漏洩
  2. 事業中断
  3. 景気低迷
  4. 商品価格&原料不足
  5. 風評&信用失墜
  6. 法規制変化
  7. パンデミック&健康問題
  8. サプライチェーン問題
  9. 競争激化
  10. イノベーション失敗&顧客ニーズとのミスマッチ

出典:2021 Global Risk Management Survey

最後に、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブが2021年11月から12月にかけて行った「経済安全保障に関する日本企業100社アンケート」です。こちらは日本の大企業100社に対して行ったアンケート結果です。対象が日本企業ですので、やはり「米国」や「中国」というワードが目立ちます。順位という形では示されていませんが、主なところをピックアップすると次のようになります。

●中国リスク

  • 政府の方針変更
  • 情報漏洩
  • 地政学
  • 中国競合企業成長、等々

●米国による対中政策リスク

  • サプライチェーン混乱
  • 中国企業排除激化、等々

出典:「一般団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ 経済安全保障に関する100社アンケート 調査結果に関する主要データ」を基に筆者が要約

さまざまな重大リスクレポートから見えてくる2022年

それぞれのリスク予測は基となる視点や調査対象範囲および種別が異なるため、一概に比較することはできませんが、こうやってデータを並べてみることでわかることもあります。視点や対象範囲、順位の並びは異なれど、トップ10に入ってくるリスクにそれほど大きな違いも驚きもないな、ということです。私個人の直感的なまとめになりますが、これらに共通して見られるリスクを大括りにしてみますとこんな感じになりそうです。

  • サイバーリスク
  • 情報漏洩リスク
  • サプライチェーンリスク
  • 気候変動リスク
  • 感染症(コロナ)リスク
  • 不景気リスク
  • 地政学リスク(中国、米国、ロシア、欧州、台湾、イラン、トルコ)
  • 法規制環境変化リスク
  • 破壊的イノベーションリスク
サイバー・情報漏洩リスク

サイバーリスクや情報漏洩リスクは言わずもがな、です。昨今のサイバー攻撃事情を見ればサイバーリスクの高さは火を見るよりも明らかです。またサイバー攻撃リスクが高まれば、情報漏洩リスクが高まるのも必然です。こうしたリスクを軽減するために、個人情報保護に向けた法規制強化も進みますが、そこには各国の政治的な思惑もあります。企業にとってみれば、法規制違反という地雷を踏むリスクも高まりますし、中国などの国が法律を振りかざし企業が持つデータを監視するリスクもあります。

サプライチェーン・気候変動リスク

サプライチェーンリスクは、間違いなくホットトピックの1つですね。ある機関によるCEOを対象にした調査でも、サプライチェーンリスクが上位に来ていました。サプライチェーンリスクは他のリスクとの絡みで、よりリスクの大きさが高まってきます。コロナは企業の人手不足を招き、また異常気象も企業に物理的なダメージを与えます。旺盛な半導体需要やEVバッテリー需要の影響でさまざまな部材が供給不足に陥っています。さらに、異常気象につながる気候変動リスクに対応しようと再生エネルギーへの取り組みが進んでいますが、それがまたエネルギー供給不安という新たなリスクをももたらしています。

気候変動についても、日本では2022年4月から上場企業に気候変動リスクに関する情報開示が求められます。6月にはIFRS財団が気候リスクの情報開示基準の標準化を予定しています。こうした取り組みの裏で、異常気象も無視できないレベルになってきています。

地政学・法規制環境変化リスク

地政学リスクについては、米中の対立は誰もが知っている通りですし、そこにウクライナをめぐるロシアやヨーロッパ・米国との関係、イランと米国の関係など、さまざまな対立があります。こうした対立がいつどこで激化してもおかしくないのです。

法規制環境変化リスクという言葉にピンとこない方もいらっしゃったかもしれませんが、これは、今後、ますます多様な法規制強化が進むことにより、企業は身に纏わなければいけない鎧が増え、避けるべき地雷が増え、身動きが取りづらくなっていくという意味です。個人情報保護法然り、人権デューデリジェンスしかり、コンプライアンスしかりです。

いずれにしましても、私が1つ1つのリスクの可能性をここで詳しく述べるよりも、興味を持ったテーマについては、先に挙げたレポートの中身をじっくり読んでいただくことをお勧めします。

リスクレポート活用の際に注意したいこと

おそらく多くの企業が、こうしたリスクレポートのいずれかまたは全部に目を通していらっしゃることと思います。利用方法としては、自組織が持っているリスクカテゴリの見直しのインプットとして活用するのが一般的でしょう。

その際に2つ注意いただきたい点があります。1つは、こうして挙げられたリスクの中には、比較的身近に感じ、自組織に置き換えてリスクを洗い出しやすいものもありますが、逆に縁遠いものもあります。地政学リスクはその典型例だと思いますが、例えば米中の対立が巡り巡って、自組織の業界やステークホルダー、あるいは自組織そのものに対してどのような影響を与える可能性があるのかについては、それなりの知識と考える工夫や時間が必要になります。リスク検討の際には、なんとなく「リスクカテゴリとしてカバーしたから終わり」とするのではなく、その内容に応じて少し工夫を心がけたいものです。

もう1つの注意点は、「専門家の予測は外れるものだ」ということを心のどこかに留め置いておくことです。ある調査では、専門家が「『絶対に起こり得ない。またはほぼ起こり得ない』と断言したことが15%の確率で発生し、逆に『間違いなく起こる』と断言したことが4回に1回は起こらなかった」ということがわかったと言います。つまり、リスクレポートはあくまで参考にとどめておくのが良かろうということです。

ちなみに、「ほぼ起こり得ないようなリスク」のことを「テールリスク」と言ったり「ブラックスワンリスク」などと言ったりしますが、雑誌『週刊東洋経済』の昨年末の特集では、2022年テールリスクとして、1位が中国の台湾侵攻、2位が中国不動産バブル崩壊による世界恐慌、3位が米中間選挙をめぐりトランプ大統領による国内騒乱、など言及していました。「ええっ!」と思うかもしれませんが、そうした意外性こそがテールリスクたるゆえんです。企業としてはこのようなテールリスクのことも考えてみたり、あるいは、想定し得ないことが起きた時のBCPや危機対応を充実させていくことが、本当の意味でのリスクマネジメント力強化につながるのではないかと思います。

個人的には、年末に、ここに書かれていたリスクが結局どうなったのか、ぜひ振り返りをできたらと思っています。その際にはまたよろしくお願いします。

【参考文献】
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