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コラム

新型コロナウイルス(COVID-19)に対して、今こそ、企業のリスクマネジメント・危機管理チームが取り組むべきこと

2020年02月25日

取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント

勝俣 良介

取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介

本稿は筆者が、新型コロナウイルス(COVID-19)という日本企業の前に立ちはだかる暗雲を取り除き、全ての企業に元気になってほしいという強い思いを込めて書いたものです。

新型コロナウイルス(COVID-19)騒動を受け、1月30日付けでウェブメディア「EnterpriseZine(エンタープライズジン)」に「【緊急寄稿】新型コロナウイルスで今後企業に求められる対応とは」という記事を寄稿しました。「楽観的シナリオ」と「悲観的シナリオ」の2つについて予想しましたが、残念ながら今のところは「悲観的シナリオ」に傾きつつあります。そんな中、感染者数や症状、その特徴、個人・組織が取るべき対策についてあらゆるメディアが特集を組んでいます。ただ、衛生面については執拗に追いかけても、マスク、手洗い、うがい以上の有効な対策が見つかるわけではありません。事業継続のために組織が取るべき対策についても、テレワークや時差通勤など、限られた対策にとどまっています。

そのような状況下で、私たち企業人はメディアが報じる対策や一部の企業が公表しているテレワーク、あるいは事業継続(BCP)ガイドラインが指し示す対策を真似しておけば十分なのでしょうか。いや、企業それぞれによって業務内容も、資金的な余裕も、顧客ニーズも、サプライチェーンも異なります。一律に同じ対策を打っておけばいいというわけではありません。つまり、メディアや他企業から提供される情報を参考にしつつも、組織自らの頭で考えて対応を進めていくことが必要不可欠です。そこで本稿では、企業の業種、業態、規模を問わず、企業のリスクマネジメントあるいは危機管理担当者の方々が「組織自らの頭で考えて対応を進める方法」について解説したいと思います。

新型コロナウイルス(COVID-19)で押さえておきたい4つの特徴

まずはじめにCOVID-19について、最低限押さえておくべき基礎情報と特徴についておさらいします。

【COVID-19に関する基礎情報】

  • 感染力は1.4 ~ 2.5(※1)(罹患者が他の人を感染させる平均人数のこと)
  • 致死率は約3%(※2
  • 潜伏期間は2日から最大12.5日間(多くは5日~6日)(※3
  • 主な症状は咳、下痢、高熱、呼吸困難(但し、発熱しない場合もある)


こうしたことを踏まえ、COVID-19について頭に入れておきたい特徴は、次の4点です。

特徴1)感染力が高く国内感染者数が急増する可能性

感染力2~4(※4)と言われるSARSを遥かに上回る勢いで感染者が増えており、今後、国内感染者数が急増する可能性が十分にあります。WHOによればCOVID-19の感染力は1.4~2.5とされていますが、最新の研究報告では3.28(※5)ともいわれています。ちなみに、風疹が5~7(※6)、例年流行する一般的なH1N1インフルエンザは1.4~1.6(※7)です。

特徴2)高齢者の方の致死率が高い

COVID-19は肺炎を引き起こすことから、免疫力が比較的弱くなる高齢者の方で重症化しやすく、致死率が高くなっているといわれています。中国の疾病予防センターからの発表(※8)によれば、年代別にみると40代以下は0.4%以下、50代は1.3%と全体の致死率より低かったのに対し、60代では3.6%、70代では8%、80代以上は14.8%となっています。

特徴3)初期症状が風邪と変わらず油断しやすい

COVID-19は、先述の通り若い人の間では致死率が低く、加えてその初期症状は普通の風邪に酷似しているため、どうしても油断しやすく、かえって感染が広まりやすいという特徴があります。症状は大きく2つにわかれます。(次のイラスト参照)

 

【図:COVID-19が人にもたらす症状のパターン】

したがって、COVID-19だと気づかずそのまま治癒する人もいれば、怪しいと分かっても軽微なため病院に行かず治そうとする人も出てくる可能性があります。結果、感染者を大きく増やしかねない状況です。
 
特徴4)暖かい季節に感染力が弱まるも、増加に歯止めはかからない可能性も

SARSと似たウイルスであるため、暑さや湿度に弱いのではと予想されていますが、暖かい地域でも寒い地域でも感染者が出ており、まだ予断を許さない状況です。つまり、現段階ではSARSの時のように、湿度や気温の上がる5月ごろからの減少を期待できるか分からない状況です。なお、COVID-19は摂氏6度で最も安定し、マイナス60度の世界でも数日間生き延びる生命力を持っています。これはSARSも同じであるため、もし仮に熱耐性についても同じ性質を持っているとすれば、摂氏37度が3日間続くと活動を停止(摂氏70度15分で死滅)(※9)することになります(現時点ではまだ不明)。ただし、COVID-19はそれを補って余りある感染力があり、一度ウイルスが体内に取り込まれるとこの性質は当てはまらなくなるため、夏の時期にどこまで感染力が弱まるかは不透明です。

今後、企業が直面するシナリオ

以上の特徴を踏まえ、深掘りをしていくと、次のような楽観的シナリオと悲観的シナリオを描くことができます。

楽観的シナリオ

SARS同様、高温多湿に弱いことが判明。国内では湿度が高くなり暖かくなる5月ごろから減少傾向に入る。7-8月頃にCOVID-19は死滅。国内でいち早く終息宣言が出され、その後WHOより世界終息宣言が出される。東京2020オリパラも予定どおり開催。

企業環境に目を向けると、買い控えが起きていた需要の揺り戻しが一気に起こり、国内外の需要が上振れする。一部では需要に対して生産が追いつかず機会損失が起こる。ただし、次の冬を迎えるにあたり、COVID-19に対してもインフルエンザに対しても人々の警戒心は強く、再びマスクや消毒液の売り切れが起きる。合わせて次のパンデミックへの警戒心から、中国から別拠点への工場移転の流れは止まらない。

悲観的シナリオ

子供や学生の間での感染拡大をきっかけに、国内感染者数が爆発的に増え始める。SARS同様、高温多湿に弱いことが判明し多少感染者数の増加が弱まるものの、あまりの感染力の強さに、増加傾向に歯止めがかからない。熱中症などと相まって、国内の死亡者数が2桁から3桁に迫る勢いとなる。運の悪いことに、こうした混乱の最中、避難が必要な風水害や地震に見舞われる。避難所を開設するがCOVID-19の感染者隔離もうまくいかず、さらに感染者が増える。東京2020オリパラは中止、又はかろうじて開催されるものの観客数も観光客数も半減

企業環境に目を向けると、社員や社員の家族に感染者が出始め、事務所の閉鎖や事業停止が相次ぐ。テレワークに移行する企業が増え、電車はがらがらに。学校は卒業式・入学式の式典を延期またはキャンセルに。娯楽産業や集客、旅行ビジネスは大赤字に。また、属人化している業務の問題が顕在化。ただしいつまでも事業中断をするわけには行かず、過度なイベント自粛から多少の揺り戻しが起こる。感染者が出ることを受け入れながら事業再開・継続、または縮小する形で事業を続ける企業が増える。一部の企業は資金難に陥り、倒産も出る。他方、通信技術を使うビジネス(例:通販、ビデオ研修等)や無人ビジネス(例:無人コンビニ、無人タクシー)が伸びる。感染源になりやすい現金取引が減少し、キャッシュレス取引が増える。こうした災害に強いビジネスモデルへの変更を検討する企業が増える。感染者数増加に陰りが見え始めた頃、次の冬が到来し、再び急増する。マスクや消毒液の売り切れが継続。中国から別拠点への工場移転が頻発。1918年に流行したスペイン風邪の時のように(※10)2年目もこの状態が継続する。
 

【1年間に大流行の波が3回起こったスペイン風邪に学ぶ】
スペイン風邪は、1918年頃に世界で大流行したスペインインフルエンザのパンデミックです。日本でも約40万人の死者を出しました。死亡者の多くは、二次感染による肺炎や広範な出血を伴う一次性のウイルス性肺炎を引き起こしたことによるものでした。このスペイン風邪は、1918年から1919年にかけて大流行の波が3回発生しました。第一波は、1918年3月に米国とヨーロッパで始まり、夏にかけて大流行しました。第二波は同年の晩秋に起こり、フランス、シエラレオネ、米国で同時に始まりました。そして、最後の第三波は年明けた冬の時期、すなわち1919年初頭に発生しました。この際、オーストラリアでは、国境を事実上閉鎖することによりスペイン風邪の国内侵入を6ヶ月遅らせることに成功し、その頃にはウイルスは病原性をいくらかでも失っており、そのおかげでオーストラリアでは期間は長かったものの、より軽度の流行で済んだとされています。このように1年間に3回のタイムスパンで3回流行したのは、現代に比べ限られた医療技術・知識であったためともいわれています。ですが、医療技術が発達した現代においても、急拡大を見せるCOVID-19の今後の広まりのヒントになるのではないでしょうか。

企業がなすべきはリスクアセスメント

さて、こうしたシナリオを想定するとき、メディアが報じる対策や一部の企業が公表しているテレワーク、感染症や事業継続ガイドラインが指し示す対策を真似する以外に、組織自らの頭で考えて対応を進めていくことが必要不可欠だと冒頭で申し上げましたが、それはどのように実現すればいいのでしょうか。結論から申し上げれば、こうした楽観的・悲観的シナリオを前提においたリスクアセスメントを行うことです。

具体的には、リスクマネジメント・危機管理の事務局員や、部長・執行役員クラスを交えて、組織の中で1~2時間程度、次のようなステップを踏んだ議論をなすことをお勧めします。

ステップ0)今後企業が直面するシナリオの検討

前段で述べたような「楽観的シナリオ」や「悲観的シナリオ」を参考に、今後、企業が直面するであろうシナリオを検討します。
 

ステップ1)リスク洗い出しの実施

付箋などを使い、設定したシナリオ下で想定されるリスクの洗い出しを行います。なお、リスクは、必ずしもネガティブリスク(組織の目的にマイナスの影響をもたらしかねないもの)だけである必要はなく、ポジティブリスク(組織の目的にプラスの影響をもたらしかねないもの)も含まれます。以下にリスク洗い出しの際に、企業が想定すべきリスクの一例を列挙します。


【企業が想定できるリスク(例)】

  • 外的要因
    ○世の中のニーズや感染症耐性のあるビジネスモデルへのシフトが加速し、自社製品・サービスに対するニーズが減る/増える
    ○円安が進行し、(輸出業には)追い風/(輸入業には)向かい風になる
    ○東京2020オリパラが中止になり、期待していた需要がなくなる
    ○感染症の終息とともに揺り戻しが起こり需要急増に増産が追いつかず機会損失を出す
    ○地震や風水害災害に見舞われ、感染症対策と地震・風水害対応の間で大混乱が起こる
    ○中国から別地域への工場移転が起こる(投資計画に変更の必要性が生じる)
    ○東京2020オリパラ開催でサイバー・物理テロが発生する
     
  • 労働安全衛生
    ○社員や社員の家族に感染者が出る
    ○高齢の社員や経営層に重篤者・死亡者が出る
    ○マスク・消毒液など売り切れにより、在庫が切れる
    ○過度なリモートワークが社員の間に別のストレスを生じさせる
     
  • 情報セキュリティ・内部不正
    ○在宅勤務が増え、情報分散傾向が強まり、情報セキュリティ事故が起きやすくなる
    ○在宅勤務が増え、管理者の目の届かない業務が増え、不正行為の温床になる
     
  • 信用失墜・風評
    ○社員がSNSなどを通じてCOVID-19に関する不謹慎な発言を行う
    ○社員が本人や家族の感染を隠していたことが発覚。感染拡大につながっただけでなく、風評被害も生む
    ○会社がCOVID-19に対して何も方針を出さないことにより従業員や投資家の不信感が増大する
    ○社員の感染者や濃厚接触者に対する福利厚生や従業員・取引先・投資家への情報発信(リスクコミュニケーション)が不十分なことにより、不信感が増大する
    ○ケアが不十分なまま、イベント開催を強行し風評が生じる
     
  • 事業継続
    ○入社式や社員旅行、研修旅行などイベントの開催ができなくなる
    ○属人化気味の業務に従事する社員が感染し、重要業務が中断する
    ○長期にわたり海外出張ができなくなる(日本からの出張者の入国拒否)
    ○重要な取引先が倒産する
    ○自社のキャッシュフローが枯渇する
ステップ2)リスク分析の実施

縦軸に影響度、横軸に発生可能性をとった4×4または5×5程度のリスクマトリックスを用意し、ここに洗い出したリスク(付箋)を、貼り付けていきます。
 
ステップ3)リスク評価の実施

リスク分析の結果を見て、組織として積極的に対応を検討するリスクを決定します。

この後はリスクアセスメントによって特定された「対応を検討すべきリスク」に対して、備えを進めることが必要になります。
 

【メディアが報じる対策や一部の企業が公表しているテレワークなどの対策とは】

次のような対策を指します。

  • COVID-19や他企業の動向に関する情報収集といったモニタリングの強化
  • 安全衛生教育などを通じた社員の意識・知識の向上
  • テレワークや電話会議への切り替えを通じた感染機会の抑制
  • 事業継続計画の見直しとその実行準備、またはその実行

※上記対策について詳細を知りたい方は、ウェブメディア「EnterpriseZine(エンタープライズジン)」に掲載中の拙稿「【緊急寄稿】新型コロナウイルスで今後企業に求められる対応とは」をご覧ください。

【感染症や事業継続ガイドラインとは】
英語版のみとなりますがシンガポール企業庁がいち早く、COVID-19向けの事業継続ガイドラインを発表しています。


米国CDCが「COVID-19感染防止ガイドライン」を公開しています。また、これについては医師の方々が善意で邦訳を行い、WEBに公開してくださっています。


また厚生労働省が、感染症対応FAQを出しています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。ここで解説した方法は新型コロナウイルス(COVID-19)に限った話ではなく、平時・有事のどのような場面でも活用できる有効なアプローチです。

事実、時間的余裕があるとき、すなわち平時にこうしたリスクアセスメントを実施し必要な対策を講じる活動をリスクマネジメントと呼びます。また、利用できる経営資源が限られ時間的余裕がないとき、すなわち有事にこうしたリスクアセスメントを実施し必要な対策を講じる活動を危機管理と呼びます。

こうしたリスクアセスメントを身軽に行えるかどうかが組織力に比例するといっても過言ではありません。本稿は筆者が、日本企業の前に立ちはだかる暗雲を取り除き、全ての企業に元気になってほしいという強い思いから、魂を込めて書きました。本稿が皆様の企業のリスクマネジメント力・危機管理力の向上のきっかけとなれば幸いです。

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【注釈】
※1 https://www.who.int/news-room/detail/23-01-2020-statement-on-the-meeting-of-the-international-health-regulations-(2005)-emergency-committee-regarding-the-outbreak-of-novel-coronavirus-(2019-ncov)
※2 https://www.bloomberg.com/graphics/2020-wuhan-novel-coronavirus-outbreak/
※3 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00009.html
※4 Consensus document on the epidemiology of severe acute respiratory syndrome (SARS) P.24
※5 https://academic.oup.com/jtm/advance-article/doi/10.1093/jtm/taaa021/5735319
※6 https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rubella/index.html
※7 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19545404
※8 http://weekly.chinacdc.cn/en/article/id/e53946e2-c6c4-41e9-9a9b-fea8db1a8f51
※9 https://asia.nikkei.com/Spotlight/Caixin/Will-warm-weather-kill-new-coronavirus-Scientists-not-sure
※10 https://www.cdc.gov/flu/pandemic-resources/1918-commemoration/pandemic-timeline-1918.htm

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