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WHO専門家チームによる新型コロナウイルスに関する調査結果報告書のポイント解説

掲載:2020年03月03日

執筆者:取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介

コラム

WHOと中国の合同専門家チームが2020年2月28日に「WHOと中国の合同専門家チームによる新型コロナウイルスに関する調査結果をまとめた報告書」(原文タイトル:Report of the WHO-China Joint Mission on Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) を公開しました。

同報告書には、感染が集中している中国エリアを中心に得られたデータに基づく分析・評価結果が記載されています。企業の危機管理・リスクマネジメント担当者が事態を把握し、今後を予測する上で貴重な情報源となります。とは言え、原文が英語であること、それなりにボリュームがあり読み込むには時間がかかることから、多忙を極める関係者の方々の時間節約をするために、本稿では同報告書のポイントについて解説をしていきます。

         

「新型コロナウイルスに関する調査結果をまとめた報告書」とは

この調査報告書は、WHOと中国の合同専門家チームが2020年2月16日から24日までの9日間の新型コロナウイルスに関する調査結果をまとめたものです。なお、合同専門家チームとは、25人の中国、日本、韓国、ナイジェリア、ロシア、シンガポール、アメリカ、WHOの専門家から構成された組織を指します。

合同専門家チームの狙いは以下の4点です。

  • 中国のCOVID-19のアウトブレイクの進行具合、現在とっている封じ込め手段の影響と性質についての理解を促進する
  • COVID-19に影響を受けているまたは脅かされている国々で実施されているCOVID-19への対応と準備手段についての知識を共有する
  • 中国や世界各国におけるCOVID-19の封じ込めおよび対応手段を調整するための推奨事項を提供する
  • 知識および対応・準備のためのツール・活動における致命的なギャップを特定するため、共同作業プログラムや研究、開発の優先順位を確立する

また、調査報告書の全体構成は次のとおりです。

  1. ミッション
  2. 主要な発見
  3. アセスメント結果
  4. 主要な推奨事項
  5. 附属書

報告書の要旨その1:COVID-19の特徴とは

これまでにCOVID-19の特徴について各種メディアで報道されてきた情報に近い内容です。改めてまとめると、次のとおりです。

  • 誰もが感染するリスクを持つ
  • 症状が出ない人もいる
  • 発症までに5~6日間、回復までに2週間かかる
  • 子供の感染率は低く、高齢者の死亡率が高い
  • 感染経路は「親から子供」が多い

◆誰もが感染するリスクを持つ
SARSに類似している(類似率96%)ものの、COVID-19は新型の病原体であるため、人間にはまだ免疫がなく誰もが感染するリスクがあります。

◆症状が出ない人もいる
COVID-19の感染症状は、全くその症状が見られない人から、重症化して肺炎になり死亡する人まで幅広いケースが確認されています。ただし、一定の傾向が見られ、確認された感染者のうち8割が軽度、または通常の風邪程度の症状で収まっています。重症化する感染者が13.8%、重篤化する感染者が6.1%となっています。また、今回の調査で得た55,924症例を基に典型的な症状を分類すると、下記の通りになります。

  • 高熱・・・87.9%
  • 乾いた咳・・・67.7%
  • 倦怠感・・・38.1%
  • 痰・・・33.4%
  • 息切れ・・・18.6%
  • 喉の痛み・・・13.9%
  • 頭痛・・・13.6%
  • 筋肉痛または関節痛・・・14.8%
  • 悪寒・・・11.4%
  • 吐き気または嘔吐・・・5%
  • 鼻詰まり・・・4.8%
  • 下痢・・・3.7%
  • 喀血・・・0.9%
  • 結膜充血・・・0.8%

◆発症までに5~6日間、回復までに2週間かかる
感染後、症状や兆候が現れるまでに平均5~6日かかります。ただし、人によって異なり、早い人で1日目から、遅い人で14日目というケースもあります。通常の風邪症状の場合、発症から回復まで平均2週間かかっています。重症化または重篤化するケースでは回復までに平均3~6週間です。

◆子供の感染率は低く、高齢者の死亡率が高い
80歳以上の致死率が最も高く21.9%です。逆に子供の中で重症化することは比較的稀で、18歳以下の感染者は全体の2.4%と少なく、そのうちのごく少数(若者の感染者の中の2.5%)が重症化、0.2%が重篤化するという結果になっています。ちなみに性別では女性より男性の方が死亡率が高く、前者が2.8%で後者が4.7%となっています。

◆感染経路は「親から子供」が多い
18歳以下の感染例は比較的低い結果となっています。中国の武漢では2019年11月から2020年1月第二週にかけて子供の感染例はありませんでした。現状、得られるデータだけでは結論は出せませんが、データ上は子供の感染は家庭で親からもらうケースが多かったということです。

報告書の要旨その2:COVID-19に対する中国の対応と成果

COVID-19の震源地とも言える中国では、その発生から約4ヶ月が経過した今、経済強化策が図られ、学校も再開され、徐々に通常の社会生活に戻りつつあります。中国における対策が一定の成果を収めていることがわかります。事実、同調査の開始初日(2月16日)には中国で2,478の感染例が報告されていましたが、2週間後の段階では409まで減ってきているとのことです。

では、中国での対応とはどのようなものだったのでしょうか。その対応は大きく3段階、「感染源と感染地域でのモノの出入りのコントロール」→「流行防止のための移動の規制」→「経済活動と流行拡大防止のバランスをとった対策の導入・推進」に分けられます。これを見ると、初期段階こそ半ば力技で管理を進めようとしていたものの、データや知識が蓄積されるにつれ、科学的かつリスクベースのアプローチが採用されるようになっていったことがわかります。

第一段階:感染源と感染地域でのモノの出入りのコントロール
感染源をコントロールし感染拡大を防ぐことを狙いとし、アウトブレイクの初期段階で武漢およびその他湖北省の主要地域から外へ「モノが出ること」と他地域から「モノが入ること」の防止に力点をおいた戦略を実施。

第二段階:流行防止のための移動の規制
アウトブレイクの第二段階では、流行の程度を緩和し、増加速度を弱めることに重きをおいた戦略を実施。武漢とその他の湖北省の主要地域では、患者に対する積極的な治療が行われ、患者の死亡数を減らす努力がなされた。1月20日には、各地域の境界線で、検温、健康状態の申告、検疫がなされた。武漢では1月23日には厳しい交通規制を敷いた。

第三段階:経済活動と流行拡大防止のバランスをとった対策の導入・推進
アウトブレイクの第三段階では、患者クラスター(集団)が次の新たなクラスター(集団)を生み出すことの防止に力点をおいた戦略を実施。対応手段の標準化を図る一方で、リスク・科学的根拠ベースに基づいた対策を導入したり、流行防止策をとる一方で経済・社会発展の持続可能性維持を考慮したりするなど、各方面でバランスをとった対策が講じられた。

ちなみに、日本国内でも2月25日には政府の新型コロナウイルス感染症対策本部からクラスター管理を進める新型コロナウイルス感染症対策の基本方針が発令されました。2月27日には全国全ての学校について臨時休校させる方針を示しました。

報告書の要旨その3:アウトブレイクが起こりつつある国への推奨事項

報告書では、「中国」「感染者がいる、または・およびCOVID-19のアウトブレイクが起きている国」「無感染国」「各国の国民全体」「国際的なコミュニティ」それぞれに対して、今後の対応の推奨がなされています。このうち、私達日本企業に関係する2点について下記にまとめておきます。

「感染者がいる、または・およびCOVID-19のアウトブレイクが起きている国」に対しては次のような対策が推奨されています。

  • COVID-19を封じ込めるために必要な(医薬面以外の公衆衛生対策などの)政府・社会全体のアプローチを確実なものとするため、最高レベルの国家的な対応命令を直ちに発動する
  • 各種活動(症例の積極的かつ徹底的な発見、速やかな感染検査と隔離、忍耐強く接触者の確認をし続ける活動、濃厚接触者の厳格な検疫)の優先順位付け
  • COVID-19の深刻さとその感染拡大防止のために各自が担う役割に関する国民への徹底した教育
  • COVID-19の伝染の鎖を検知できるようにするため次の事項の速やかな実施。全肺炎患者の検査、呼吸器系に病気を抱えた感染者、または(および)COVID-19にさらされた人たちのスクリーニング、既存の監視システムの中に(例:インフルエンザや深刻な呼吸器感染に似た病気を管理するシステムのような)COVID-19検査体制を組み込むこと
  • 伝染の鎖を切るためのより厳格な対策の展開。複数セクターでの計画立案とシミュレーションの実施(例:大規模集会の禁止や学校や職場の閉鎖等)

「各国の国民全体」に対しては次のような対策が推奨されています。

  • COVID-19が、新しい病原体で懸念される病気であること、しかしながら、アウトブレイクに正しい対応がなされれば感染した大半の人が回復できる病気であることを理解すること
  • 頻繁な手洗い、くしゃみや咳をする際は口と鼻を常に覆うといった、COVID-19に対して最も重要な予防策の採用とその徹底した実施
  • COVID-19そのもの、ウイルスの兆候と症状(熱や乾いた咳)に関する情報の継続的更新(病気に関する新情報の蓄積に基づいて継続的に改善されるため)
  • 社会的距離戦略(人と人との距離を開け接触機会を減らすこと)や高リスクを抱える高齢者支援策も含めた様々な手段によるCOVID-19対応を積極的にサポートできるよう準備すること

報告書から企業の危機管理・リスクマネジメント担当者が学べること

公表されている内容に大きな目新しさはないですが、一つ間違いなく言えるのは、感染防止において企業が担う役割は大きいということ、それを各企業が自覚し対応を進めることが重要であるということです。

実際に中国でのコントロールが功を奏して感染者数が減っていることは既に述べたとおりで、日本でも同様の対策が望まれますが、国家体制のあり方が異なる中、中国のような国家主導の対策推進は困難です。すなわち、日本では官民一体となった協力体制が重要になります。また、「子供の感染率が低く、感染経路は家庭で親から子供にうつることが多い」という事実も、私たち企業人が知っておくべき重要な点です。現在、日本では政府の要請で3月2日から学校が一斉休校になっており、子供たちが長期にわたり自宅にいることになります。多くの企業がテレワークに切り替えているものの完全に足並みが揃っているわけではなく、今後も通勤環境にある人は自宅で家族に感染させる危険性が高いと言えます。

だからこそ、危機管理・リスクマネジメント担当者におかれましては、企業が担う役割の重要性と、テレワークなど社員から感染者を出さないための対策のより一層の必要性について、経営層の方々に積極的に共有していくことが重要であると考えます。

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