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MERS、エボラ出血に見る感染症指定医療機関の対応と、 企業が実施しておくべき備え

掲載:2015年08月10日

コラム

昨年は西アフリカ地域でエボラウィルスが流行し、WHOのまとめでは推定も含め2万人以上の感染者が発生したとされています。また今年5月には韓国でMERSが発生・パンデミック状態となり、180名以上が感染、800名以上が隔離対象となる事態となりました。韓国国内では終息宣言がでたものの、国内での発生については未だ予断を許さない状況であり、企業の危機管理等の担当者であれば、国内感染が発生した場合に重要な役割を担う感染症医療機関は知っておくべきところです。

         

感染症指定医療機関とは

感染症医療機関とは「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、感染症法)」に定められている、特定の感染症に対する治療を行う医院、病院、診療所等の医療機関のことです。感染症法によると、感染症指定医療機関は4種類あり、現在全国には約14万の医療機関が指定されています。
感染症指定医療機関の種類
種類 設置規模 指定者 指定数
特定感染症指定医療機関 全国に数か所(現在は千葉県、東京都、大阪府にて指定あり) 厚生労働大臣 3医療機関(8床*)
第一種感染症指定医療機関 原則として都道府県ごとに1か所 都道府県知事 46医療機関(87床*)
第二種感染症指定医療機関 原則として2次医療圏 ごとに1か所 都道府県知事 335医療機関(1,716床*)
結核指定医療機関 結核患者の通院治療が可能な医療機関(病院・診療所)または薬局) 都道府県知事 133,500医療機関
 出典:(感染症指定医療機関の指定状況 平成27年4月1日現在)
*指定医療機関の合計床数(都道府県の中で区市町村単位等、入院に係る医療が一体の区域の中で完結できるよう定められる医療の地域圏で、 医療法のもと厚生労働省により設定される)


 しかし、種類によって設置規模や指定者、対象とする感染症の種類が異なりますので、一概にどの病院でも治療が受けられるというわけではありません。

感染症の類型に応じた医療機関の役割と対応

各感染症の類型と、その治療が可能となる医療機関は以下の通りです。

表1感染症指定医療機関の役割と対応

感染症を発症した場合、類型に合った感染症医療機関を受診することが望ましいですが、体調不良の原因が感染症であると明確にわからない場合などは、近隣の医療機関で受診することも十分考えられます。その場合、感染が疑われると診断した医師から保健所を通して都道府県知事へ感染症確認の届出がされ、知事より厚生労働省へ報告されます。また、患者は疾病の類型に合わせた感染症指定医療機関へ、検体は受診した医療機関から国立感染症研究所(村山庁舎:東京都東村山市所在)へ搬送されることとなります。 ちなみに、指定医療機関への移送や入院手続きは患者の了承のもと知事の指示によるとされており、また、新感染症、新型インフルエンザ等感染症、一類、二類感染症への罹患の場合、治療費のうち保険適用外の部分は公費で支払われることとなっています。

MERS、エボラ出血熱の対応事例にみる感染症対応

2015年6月現在、韓国においてMERS(中東呼吸器症候群)の感染が確認されていますが、2014年には世界各地でエボラ出血熱の発症が確認され、日本でも感染が疑われる事態が発生しました。海外にて一類感染症が発生した場合、日本では水際対策として空港や港で入国時に検疫が行われます。昨年の事例では、感染発生国から帰国した男性が入国時の検疫の際に発熱の症状を訴えたことと渡航履歴から感染が疑われ、国立国際医療研究センター(東京都新宿区所在)へ搬送されました。一方、検体は国立感染症研究所へ搬送、検査が行われ、幸いなことに陰性であったため、数日間の入院という対応となっています。陽性であれば、厚生労働省により国内の感染者が発生したことが正式に公表され、患者は都道府県知事の指示のもと、感染症担当部局により特定・第1種感染症指定医療機関に移送されます。この移送には患者の同意が必要となります。

なお、検疫時には感染が確認されなかった渡航者については健康監視対象とされます。その場合、一定期間の間に発熱等発症の疑いが出た際には、自ら保健所へ連絡し、その指示に従うことが求められています。ここで注意が必要なのは、地域の医療機関での受診は控えなくてはならないという点です。なぜなら、感染症指定医療機関以外では適切な治療ができないばかりか、他の患者や診察した医師へ感染が拡大する恐れがあるためです。

また、MERSの日本上陸についても、現在は空港の検疫所で呼びかけを行う等警戒体制の強化が行われています。なお国内においても、感染が疑われる症状が出た場合には、都道府県等の地方衛生研究所にて、スクリーニング検査を受けることが可能です。こちらの検査が陽性だった場合、国立感染症研究所において詳細な検査が行われ、そこでも陽性となった場合にMERS感染者と確定されます。なお、患者の治療ですが、基本的には第2種感染症指定医療機関にて受入れ、入院治療が行われることとなります。

BCP担当者としてとるべき行動とは

自社の社員が感染症指定医療機関での治療が必要となる感染症に罹った場合、迅速に感染拡大の防止に努めることが求められます。具体的には罹患社員の過去の行動履歴を突き止め、罹患社員と接触した可能性のある社員への検温による確認指示や自宅待機指示のほか、潜伏期間における取引先など社外との接触についても特定し速やかに連絡する必要があるでしょう。またエボラ出血熱のような社会的に影響の大きい感染症であればマスコミ対応や罹患社員のプライバシー保護のための社内統制なども検討する必要があります。

このような対応はいざやろうとしても徹底できるものではありませんから、事前に企業としてどのような対応を取るべきかについて、あらかじめ検討しておくことが重要です。また、上記対応を行うためにはより早いタイミングかつ詳細な状況報告が必要となりますので、対応内容の検討に加え、日ごろから連絡体制を明確にしておくことが求められます。
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