【解説】指定感染症とは?感染症法の分類・検疫感染症との違い・企業対策の3つの視点
| 執筆者: | コンサルタント 林 和志郎 |
| 改訂者: | ニュートン・コンサルティング 編集部 |
新型コロナウイルスを契機に注目が高まった「指定感染症」について、定義や感染症法に基づく分類、検疫感染症との違いをわかりやすく整理します。冬から春頃にかけて感染症が流行しやすい時期となるため、企業としてどのような方針で備えるべきか、3つの視点から解説します。
指定感染症とは
指定感染症とは、既に知られている感染症のうち、感染拡大防止のため緊急の措置が必要なものとして、政令で一時的に指定される疾病です。
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」の第6条第8項では、次の通り定義されています。
この法律において「指定感染症」とは、既に知られている感染性の疾病(一類感染症、二類感染症、三類感染症及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)であって、第三章から第七章(※a)までの規定の全部又は一部を準用しなければ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあるものとして政令で定めるものをいう。
※a 第三章「感染症に関する情報の収集及び公表」、第四章「就業制限その他の措置」、第五章「消毒その他の措置」、第六章「医療」、第七章「新型インフルエンザ等感染症」
引用:e-Gov「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号)」
指定感染症の指定は、感染症法に基づく感染症の分類の中でも「緊急かつ一時的な措置」という特徴があります。通常、感染症の分類を変更するには法律の改正が必要となりますが、「指定感染症」は、国会の審議を通さずに、内閣の閣議決定を経て政令によって指定されるため、緊急時における迅速な対応が可能です。
運用期間は原則として1年間に限られますが、必要に応じてさらに1年まで延長でき、最大で2年間の運用が可能です(感染症法第44条第9項)。指定を受けた疾病については、感染力や重篤性などのリスク評価に基づき、法律で定められた一類から五類感染症・新型インフルエンザ等感染症などの対応措置が準用されます。これにより、入院勧告や就業制限といった強力な感染拡大防止措置を速やかに講じることが可能になります。
過去には、新型コロナウイルス感染症(2020年指定、現在は五類感染症へ移行)や、中東呼吸器症候群(MERS)、インフルエンザ(H5N1)などが指定されました。
指定感染症を含む感染症法上の分類
感染症は、疾病の感染力や重篤性などの危険性に応じて、一から五類、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症の各類型に分類されます。
以下の表1は、感染症法で指定されている感染症の分類とそれぞれの特徴や疾病をまとめたものです。
【表1】感染症法における分類と代表的な疾病一覧
| 分類 | 定義・特徴 | 代表的な疾病 |
|---|---|---|
| 一類感染症 | 感染力および罹患した場合の重篤性からみた危険性が極めて高い感染性の疾病 | エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱 |
| 二類感染症 | 感染力および罹患した場合の重篤性からみた危険性が高い感染性の疾病 | 急性灰白髄炎(ポリオ)、結核、ジフテリア、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、特定鳥インフルエンザ |
| 三類感染症 | 特定の職業への就業によって感染症の集団発生を起こし得る感染性の疾病 | コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス |
| 四類感染症 | 動物またはその死体、飲食物、衣類、寝具その他の物件を介して人に感染し、国民の健康に影響を与えるおそれがある疾病 | E型肝炎、A型肝炎、黄熱、Q熱、狂犬病、炭疽、鳥インフルエンザ(特定鳥インフルエンザを除く)、ボツリヌス症、マラリア、野兎病など |
| 五類感染症 | 既に知られている感染性の疾病(四類感染症を除く)で、国民の健康に影響を与えるおそれがあるもの | インフルエンザ(鳥インフルエンザおよび新型等を除く)、ウイルス性肝炎(E型・A型を除く)、クリプトスポリジウム症、後天性免疫不全症候群(AIDS)、梅毒、麻しん(はしか)など |
| 新型インフルエンザ等感染症 | 新たに人から人に伝染する能力を有し、国民の免疫が獲得されていないため、全国的かつ急速なまん延により国民の生命および健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるもの | 新型インフルエンザ、再興型インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症(※)、再興型コロナウイルス感染症(※) ※2023年5月8日より省令により五類感染症へ移行 |
| 指定感染症 | 既に知られている感染性の疾病(一類、二類、三類、新型インフルエンザ等感染症を除く)で、政令で定めるもの。まん延により国民の生命および健康に重大な影響を与えるおそれがあるため、他の規定(第三章から第七章まで)の全部または一部を準用しなければならないもの | 恒常的な疾病名の記載なし |
| 新感染症 | 人から人に伝染すると認められる疾病で、既知の感染症と病状または治療の結果が明らかに異なるもの。病状が重篤であり、まん延により国民の生命および健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるもの | 法令上に具体的な記載なし |
e-Gov「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号)」、厚生労働省「類型から探す(感染症法)」を基にニュートン・コンサルティングが作成
上記の一類から五類感染症、新型インフルエンザ等感染症においては、分類ごとに入院勧告や就業制限、消毒、疫学調査の実施といった対応措置があらかじめ法律で定められています。
「一類感染症」とは、エボラ出血熱やペストなど、国民の生命に重大な影響を与える極めて危険性の高い感染症を指し、原則として入院措置などの対象となります。また、「新型インフルエンザ等感染症」とは、新たに人から人に伝染する能力を有するインフルエンザなどを指し、外出自粛の要請など強い措置が規定されています。
一方、「指定感染症」は、法律ではなく政令により期間限定で指定されるもので、具体的な適用規定は感染症ごとに政令で規定されます。なお、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2020年2月に指定感染症として定められ、上記の分類に準じた措置が適用されました。
指定感染症と検疫感染症の違い
指定感染症と混同されやすい用語に「検疫感染症」があります。両者は対象となる疾病や運用主体などが異なります。
検疫感染症とは、検疫法により「感染症法に規定する一類感染症・新型インフルエンザ等感染症のほか、国内に常在しない感染症のうち、その病原体が国内に侵入することを防止するため、その病原体の有無に関する検査が必要なものとして政令で定めるもの」と定義されています(※1)。
国内に常在しない感染症のうち、検疫感染症で指定されている感染性の疾病については、海外からの侵入を未然に防ぐため、空港や港湾などの「水際」で対策が講じられます。具体的には、検疫所が主体となり、入国者に対して厳格な検査や措置を実施します。
対して、指定感染症は、国内における感染症の拡大防止(まん延防止)を目的としています。これは、既に国内で確認、あるいは発生した感染症に対し、厚生労働省(厚生労働大臣)や都道府県知事などが主体となって対策を講じるものです。
(※1)e-Gov「検疫法(昭和二十六年法律第二百一号)」
指定感染症と検疫感染症の主な違いは、以下の図1の通りです。
図1:指定感染症と検疫感染症の違い
検疫感染症には、一類感染症の全てに加え、ジカウイルス感染症、マラリアなどの四類感染症、さらに中東呼吸器症候群(MERS)や鳥インフルエンザ(H5N1・H7N9)などが指定されています。水際対策としての検疫(隔離・停留など)を経て国内へ流入した場合は、感染症法に基づく分類(指定感染症としての運用など)に従って管理されます。
感染症法で定められた対応措置とは
感染症法では、分類された一類から五類感染症、新型インフルエンザ等感染症、新感染症について、適用することができる対応措置が定められています。一方、「指定感染症」は、政令により「どの分類の規定を準用するか」が個別に定められます。
政令で指定される「指定感染症」を含めた、行政や医療機関が実施する主な対応措置は、以下の図2の通りです。
図2:感染症法における分類と主な対応措置の一覧
対応措置の具体例としては、最も強力な隔離措置として「入院勧告」、「建物への立ち入り制限」や「交通の制限」などが挙げられます。これらは、極めて危険性が高いとされる一類感染症などに適用されます。
個人の行動に影響が及ぶ措置としては、「就業制限」や「外出自粛の協力要請」などがあります。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が「指定感染症」に指定された際には、患者数の把握のため、医師が患者を診断した際の届け出が義務になりました。また、濃厚接触者への対応では、保健所が実施する積極的疫学調査に基づく、濃厚接触者の特定や、健康状態の報告義務、外出自粛等の協力要請などが行われました。
加えて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では、政令により入院勧告や就業制限など、二類感染症の規定が多く準用されました。これにより、入院措置や汚染場所の消毒などが可能となり、「二類相当」の扱いとして、厳格な措置が講じられました(※2)。その後、ワクチンの普及や病原性の変化を踏まえ、2023年5月には「五類感染症」へ移行。幅広い医療機関での外来受診が可能となり、個人や企業の自主的な判断を尊重する運用へと大きく転換されました。
このように、政令による指定感染症の指定は、行政による法的措置が可能となることを意味します。これは、従業員の就業制限や濃厚接触者の特定などを通じ、企業の労務管理や事業継続計画(BCP)の運用に直接的な影響を及ぼすため、留意が必要です。
(※2)厚生労働省「感染症法上の指定感染症について」
指定感染症に認定された場合、企業が検討すべき3つの視点とは
疾病が「指定感染症」に認定された際、企業のリスク管理担当者は、制度理解を実務に活かすため、以下の3つの視点から対応を検討する必要があります。
- 視点1:法的制限に伴う労務管理と安全配慮義務
- 指定感染症に認定され、就業制限が課された場合、該当する従業員は法律上、業務に従事できなくなります。企業は感染症法に基づく行政の指示を優先するとともに、職場の感染拡大を防ぐための安全配慮義務を履行しなければなりません。
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- <企業対応>
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- 出勤停止措置:法的な就業制限がない場合でも、企業独自の基準で「感染症による出勤停止」を定めるかの検討。
- 特別休暇・休業手当:就業制限時の賃金支払いや、傷病手当金の活用など、社内規定の再確認。
- 視点2:事業継続計画(BCP)のタイムライン発動
- 指定感染症への指定は、パンデミック(世界的大流行)へ発展する可能性も想定されるため、企業はあらかじめ策定した「リスクシナリオ」に基づき、事態の進展に合わせた行動計画である「タイムライン(防災行動計画)」を早期に稼働させ、実効性を確保します。
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- <企業対応>
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- 人員不足への備え:入院勧告や濃厚接触者の外出自粛により、主要メンバーが不在となるリスクを想定。
- テレワークへの切り替え:物理的な隔離措置が強化される事態に備え、テレワーク体制へ移行する判断基準の明確化。
- 視点3:情報の信頼性確保と社会的責任
- 感染症の流行初期には、不正確な情報が拡散する「インフォデミック」が発生します。企業は、内閣感染症危機管理統括庁や厚生労働省などの公的機関が発信する一次情報を継続的に収集し、科学的根拠に基づいた行動を徹底することが求められます。
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- <企業対応>
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- 方針の周知:経営層からのメッセージとして、従業員や顧客に対し、科学的根拠に基づいた対応方針を迅速に発信。
- 地域社会との連携:保健所の調査への協力や、クラスター発生時の透明性を確保した公表など、社会的信頼を維持するための対応。
指定感染症への指定は、重症化リスクや感染力が未解明な感染症に対し、必要に応じて強い措置が講じられる法的枠組みとなります。この行政の動きは、企業にとってBCPを稼働させる「決定的な判断基準」と位置づけるべきものです。企業はこの「フェーズ移行の起点」を正確に捉え、リスクマネジメントに基づいた迅速な意思決定を行うことが重要です。初期対応の速度を最大化することが、事業継続の成否および被害を最小化できるかを左右する鍵となります。