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シンガポールの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するBCPガイドライン ~その概要と日本企業での活用方法~

掲載:2020年03月13日

ガイドライン

2020年1月23日、シンガポール共和国(以下、シンガポール)において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の一次感染者が発見された後、迅速な対応がなされ、同月末に同感染症に対するガイドライン「Guide on Business Continuity Planning for 2019 novel coronavirus」が発行されました。

そして翌月2月、世界保健機関(WHO)により新型コロナウイルス感染症の正式名称がCOVID-19(coronavirus disease 2019)に決定されると、タイトルと掲載内容を一部更新する形で2月7日に「Guide on Business Continuity Planning for COVID-19」(以下、ガイドライン)の第二版が発行されています。※ガイドラインの記述はすべて英語です。

         

Guide on Business Continuity Planning for COVID-19とは

本ガイドラインはシンガポールの企業(特に中小企業)を対象に、ISO22301の要求事項にも準拠する形で、シンガポールの保健省(Ministry of Health、以下MOH)やその他政府機関の助言に従い作成されています。
 

図1:COVID-19 一次感染者発生からガイドライン発行までの経緯

本ガイドラインの特徴

本ガイドラインは、感染症発生期間における業務上の混乱を最小限に抑え、事業継続計画を策定、実行することをめざしています。利用対象者と目的は以下の通りです。

【利用対象者】
あらゆる組織の事業継続責任者(Business Continuity manager)
例:組織の対策や行動計画を策定する役割を担う部門関係者(経営企画部やリスク管理部、総務部など)

【目的】

  • 労働者の健康リスクを最小限に抑える
  • 感染拡大の前提となるリスクを抑える
  • 万一、従業員が休職、隔離、もしくは感染した場合にBCPを発動する
  • サプライヤーや顧客に対する代替案を確保した上で、業務の継続を可能にする

また、内容について、以下の3点が特徴的です。

特徴1. COVID-19に対して企業が行うべき対応を5つの観点に整理

BCPに必要となる対応を、以下の5つの観点からわかりやすくまとめています。

・人員管理

・事業プロセス・業務

・サプライヤー・顧客管理

・関係先とのコミュニケーション

・感染症警戒レベル(DORSCON ※)への対応

特徴2. DORSCON(※)に基づいた対応

感染症警戒レベルに合わせて企業に求められる具体的な対応を付属資料(Annex5)として添付しており、企業としては非常に参考になります。

特徴3. 事業継続責任者が行うべき対応をフロー図等を用いて掲載

COVID-19に対し、事業継続責任者の役割や責任、対応事項が明確にまとめられています。とくに付属資料(Annex3)には具体的な対応フロー図があり、どのような対応をすればよいか一目でわかる工夫がなされています。

※DORSCON:Disease Outbreak Response System Conditionの略で、シンガポール独自の感染症警戒レベル基準を指す。詳細は後述

本ガイドラインの構成

本ガイドラインは、7ページの本編と22ページの付属資料(Annex)で構成されています。
本編にはCOVID-19の概要や事業継続計画に求められる検討事項の説明、社内に感染者が出た場合の業務継続のためのさまざまな観点における対策、感染症警戒レベル、健康管理に関する情報等が記載されています。付属資料には衛生管理、事業継続責任者の対応、感染症警戒レベルのフレームワーク等が記載されています(下表参照)。
 

【本編】
章立て 内容
序文 ガイドラインの対象者、発行の経緯、前段の挨拶
導入 ガイドラインの目的
COVID-19とは? COVID-19の概要
事業継続計画(BCP) 人員管理 ・事業継続責任者はBCPに精通しており、かつ感染症発生期間に従事出来る者を採用する
・役員やキーマネージャーが不在の際の代行者を計画しておく
・リモートワークのような柔軟な働き方を検討する(リモートワークが出来ない場合は、MOM(シンガポール労働省)の助言を参考にする)
・休職、欠勤、病欠、休業などの従業員管理規程、健康保険の見直しを図る
・海外渡航や健康管理に関してはMOH(シンガポール保健省)やMOM、その他政府機関からの助言を参考にする
・感染症発生時に中国に渡航歴のある、もしくは今後渡航の可能性がある従業員から申告を得る
・MOHやMOMからの検疫指示、休職指示に従う
・外国人従業員に対する宿泊施設の提供
※併せて、付属資料1の利用も推奨
事業プロセス・機能

・重要な業務(優先すべき業務)とそれに必要な人員を特定の上、時差出勤にてチーム体制で勤務する
・ 感染予防対策や適切な衛生管理に関して従業員に教育をする、など
※併せて、付属資料2、3の利用も推奨

サプライヤー・顧客管理 ・重要なサプライヤーを特定し、事業継続のための対策を準備する
・重要な顧客を特定し、その要求を満たすための事業継続を実行する
・サプライヤー、および顧客への製品・サービス提供に向け代替手段を確保する
関係者とのコミュニケーション ・サプライヤーや顧客、その他関連するステークホルダーを特定し、感染症発生期間において潜在的に起こり得る不測の事態に対する対策を検討する
・感染症の発生前の段階で、従業員に対し、感染した場合の対策、役割や責任を明確に理解させる
・従業員の状況報告や問い合わせに対する連絡手段を確保する
感染症警戒レベル(DORSCON) ・付属資料 5のDORSCONフレームワークのレベルを参考に、事業継続のための対策や職場での感染予防対策を実行する
健康管理に関する情報提供 ・  MOHやMOM、その他政府機関からの最新の助言に従い、適切な対策を実行する

 

【付属資料 Annex1~6】

章立て 内容
Annex 1 事業継続責任者の役割と責任 感染症発生状況、公的機関から収集した最新の情報をもとに従業員への情報提供、感染症予防のための教育、万が一の場合の隔離用の部屋の確保など、事業継続責任者が果たすべき役割や責任
Annex 2 適切な衛生管理の方法、マスクの装着方法 A,Bと2種類あり、Aは日常生活における基本的な感染症対策の方法(例:適切な手洗い、家禽との接触を避けるなど)、Bはマスクの装着方法
Annex 3 感染症発生時の各種確認、管理における手順や方法 A~Gまで、計7種類の資料から構成されており、A~Dでは、来訪者や従業員の健康管理手順、社内外で具合の悪い従業員が発生した場合の管理手順が明示されているほか、接触者の追跡方法の流れをフロー図で掲載
E~Gでは、来訪者に対する健康確認のための記入表、従業員の体調状態に関する申告表、体温測定の記録表の各種サンプルを明示
Annex
4
体温の測り方のヒント ガラス温度計や電子体温計、耳式体温計、赤外線温度計を用いた適切な体温の測り方
Annex 5 感染症警戒レベル(DORSCON)フレームワーク 病症、日常生活への影響、それに対する助言の観点で、感染症警戒レベルに合わせて色分けされたフレームワークの考え方
▼色は下記4色で矢印の順に深刻度のレベルが上がっていく
 緑色 ⇒ 黄色 ⇒ 橙色 ⇒ 赤色
Annex 6 情報収集先一覧 COVID-19に関する情報収集先として、WHO、MOHやMOM等のURL

 

また、前章の「本ガイドラインの特徴」でも触れたとおり、このガイドラインでは以下の通りDORSCONによる警戒レベルに応じた対応を定めています。

図2 感染症警戒レベル(DORSCON) フレームワークの概要
病症 日常生活における影響 国民への助言
緑色 症状が軽い
または
症状が深刻だが、ヒト・ヒト感染が容易に発生しない
例:MERS, H7N9

最小限の混乱

例:水際での検査、海外渡航に関する助言

・社会的責任の一貫として疑わしい症状の場合は自宅にて待機
・適切な衛生管理を保持
・相談する機関を決めておく
黄色 症状が深刻で、ヒト・ヒト感染が拡大しているが、シンガポール国外で発生している
または
シンガポール国内で感染が認められるものの、
(a)典型的な軽い症状-季節性インフルエンザよりほんの僅かに深刻な状態。持病のある人たちには深刻になり得る可能性あり
(例:H1N1パンデミック) 
もしくは 
(b)落ち着いた状態

最小限の混乱

例:水際対策の強化、医療機関の設置、会社・学校の閉鎖は一部

・社会的責任の一貫として疑わしい症状の場合は自宅にて待機
・適切な衛生管理を保持
・相談する機関を決めておく
橙色

症状が深刻、
且つ、
ヒト・ヒト感染が拡大、シンガポール国内で広範囲な感染は見られず、落ち着いた状態 (例:シンガポールのSARS発生時と同様)

中程度の混乱

例:病院での隔離、検温、医療機関での外来患者の制限

・社会的責任の一貫として疑わしい症状の場合は自宅にて待機
・適切な衛生管理を保持
・相談する機関を決めておく
・対策の順守
赤色 症状が深刻、且つ、シンガポール国内でも広範囲に感染拡大

大規模な混乱

例:休校、リモートワークの要請、大量の死者

・社会的責任の一貫として疑わしい症状の場合は自宅にて待機
・適切な衛生管理を保持
・相談する機関を決めておく
・対策の順守
・隔離、人混みを避ける

出典:Guide on Business Continuity Planning for COVID-19 p.23を弊社にて翻訳


上記4色の感染症警戒レベルに基づいて状況判断を行い、それぞれのレベルに応じた具体的な対応を検討します。対応事項に関しても以下の通り、表で示されています。

(※下表は一部のみ抜粋して弊社にて翻訳)

 

図3 感染症警戒レベル(DORSCON) フレームワークが定める具体的な対応
  緑色 黄色 橙色 赤色
人員管理 海外渡航
従業員管理規程の見直しをする
(例:感染が確認された国や地域への不要不急の渡航を避ける、渡航した場合は帰国後、休暇をとる)
感染が確認された国や地域への渡航を延期する、またそういった国や地域に渡航中の従業員を帰国させる 感染が確認された国や地域への渡航を延期する 感染が確認された国や地域への渡航を延期する
従業員の働き方
従業員の詳細情報を更新する MOHやその他機関によるアドバイスを、定期的に従業員に伝える 定期的に従業員に対し健康維持に関するアドバイスを行う 定期的に従業員に対し健康維持に関するアドバイスを行う
事業プロセス・業務 個人における感染症対策(PPE : Personal Protection Equipment)
十分な数量のマスクや手袋を用意し、その使い方を従業員に教育する MOHやその他機関による推奨事項に従い、適切にマスクや手袋を支給する マスクや手袋を適切に装着する マスクや手袋を適切に装着する
清掃、消毒
職場における清掃、消毒のためのガイドラインを作成、または更新する 職場の共同利用エリアの清掃、消毒を行う(必要ならば、エアコンも含む) 職場の共同利用エリアの清掃、消毒を頻繁に行う 社員の共同利用エリアの清掃、消毒を頻繁に行う
従業員や来訪者への確認・調査
従業員や来訪者の感染有無確認のための準備をする
例:体温測定、渡航歴調査
(必要に応じて)従業員や来訪者の感染有無確認のための調査をし、十分な確認体制を整える 従業員や来訪者の感染有無確認のための調査を行い、隔離用の部屋を活用する 従業員や来訪者の感染有無確認のための調査を行い、隔離用の部屋を活用し続ける
リモートワーク
自宅、社外、感染国からの遠隔通信手段(従業員同士)を確保・準備する 自宅、社外、感染国からの遠隔通信手段(従業員同士)を活用する
例:稼働可能な代替サプライヤーがいない場合、在庫量を増やす
自宅、社外、感染国からの遠隔通信手段(従業員同士)を活用し続ける 自宅、社外、感染国からの遠隔通信手段(従業員同士)を活用し続ける
サプライヤー・顧客管理 供給と配送
サプライヤーの連絡先と重要顧客先をまとめる、もしくは更新する 代替サプライヤーや配送業者をまとめておく 代替サプライヤーや配送業者を利用する 代替サプライヤーや配送業者を利用し続ける
関係先とのコミュニケーション 社内におけるステークホルダー
社内ステークホルダー向けのコミュニケーションプランを作成しておく コミュニケーションプランを実践する
(例:感染症警戒レベルに応じて、従業員やその他社内ステークホルダーを更新する)
社内ステークホルダーに定期的に最新情報を伝える 社内ステークホルダーに定期的に最新情報を伝える
社外におけるステークホルダー
社外ステークホルダー向けのコミュニケーションプランを作成しておく
(例:サプライヤーや顧客)
コミュニケーションプランを実践する
例:サプライヤーや顧客に対し、自社でどのように供給を受け、製品やサービスを配送しているかを伝える
サプライヤーに対し、集配と配送における代替手段を伝える 社外ステークホルダーとの コミュニケーションプランを定期的に更新する
出典:Guide on Business Continuity Planning for COVID-19 p.24~26を一部抜粋のうえ弊社にて翻訳

日本企業が参考にすべきポイント

本ガイドラインは、シンガポールにおける中小企業向けに作られたものですが、日本国内の企業にとっても非常に有効なものと言えます。政府の相談先等を国内機関に置き換えるだけで、そのまま活用できるものです。COVID-19やその他感染症に対して社内で感染者を発生させないための対策、実際に社内で感染者が出た場合の対応方法等が細かく掲載されており、また内容によって誰が責任をもって実施すべきかも明確なため、活用しやすいものとなっています。

特に、付属資料に掲載された事業継続に関連する事項と感染症警戒レベル(DORSCON)の考え方、そのレベルに合わせてどのような対応をとるべきかという部分については、大いに参考にすべきでしょう。

COVID-19は世界規模で感染が拡大していますが、このガイドラインが示すとおり、迅速に動くための準備と体制づくり、明確な基準の整理、そして基準に基づく対策を行うことが非常に重要です。

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