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コラム

オリンピックテロを想定した東京都の国民保護計画

2015年05月10日

コンサルタント

山田 真司

コンサルタント 山田 真司

平成27年3月、東京都は国民保護計画の改訂案を発表しました。東京都が「国民保護計画」を改訂するのは、法律により策定が義務付けされた平成18年以来9年ぶりのことです。  東京都が「国民保護計画」の改訂を行った背景には、東京都を取り巻く環境に2つの大きな変化が生まれたことが挙げられます。

1つ目の環境変化は、国民保護に関する国の基本方針や関連するインフラ(「緊急情報ネットワーク(Em-Net)」「全国瞬時警報システム(J-Alert)」の変化です。国は武力攻撃や大規模テロが発生した場合の迅速な情報共有を目指しており、都としても国(そして関係機関)との情報共有体制の強化を図るため「国民保護計画」の改訂を行いました。

2つ目の環境変化は、何と言っても、2020年に開催されるオリンピック・パラリンピック東京大会の開催が決定したことです。なぜ、オリンピックの開催と「国民保護計画」改訂が関連するのでしょうか。それは、オリンピックが4年に1度開催される国際的なイベントであり、テロリストにとって世界にアピールする格好の機会になるため、オリンピックがテロの標的となる可能性が高いからです。

オリンピックがテロの標的になった例は決して少なくはありません。1972年のミュンヘン大会では、選手村をテログループが襲撃し、選手を人質にするテロが発生。空港に逃げ込んだテロと警官隊との銃撃戦により、多数の死傷者が出る最悪の結末を迎えました。以後、ソウル大会(88年)前年の大韓航空機爆破テロ、アトランタ大会(96年)における公園爆破テロ、ロンドン大会(2012年)のサイバーテロ攻撃未遂、ソチ大会(14年)前年の駅舎爆破テロなど、オリンピックは度々テロ攻撃に晒されてきました。

過去の例が物語る通り、東京オリンピックがテロの標的になる可能性は極めて高いと言えます。この度の「国民保護計画」改訂も、オリンピック開催中の大規模テロ発生を想定し、テロ対策の充実化を目的とした内容となっています。

オリンピック大会 テロの詳細
  攻撃 被害
ミュンヘン(1972年) 人質 人質(オリンピック選手)11名、警察官1名死亡
ソウル(1988年) 爆破 乗客乗員115名死亡
アトランタ(1996年) 爆破 死者2名、負傷者102名
ロンドン(2012年) サイバー 大会会場の停電(未遂)
ソチ(2014年) 爆破 死者41名、負傷者120名
【図表①:オリンピックを標的とした主なテロの一覧】

テロに強いオリンピックを目指して

改訂された「国民保護計画」では、充実化の具体例として以下のテロ対策が明記されました。
 
対策 内容
テロに対する情報収集の実施 テロ対策の専門家や関係機関との連携により、テロの動向や対策に関する情報収集を実施する
「東京都大規模テロ等対処マニュアル」の策定 「東京都大規模テロ等対処マニュアル」を策定し、「NBC(N(核物資)、B(生物剤)、C(化学剤))」等、テロの類型に応じた初動対処の手順等を明確にする
「テロ対策東京パートナーシップ推進会議」の活用 「テロ対策東京パートナーシップ推進会議」を活用し、警視庁を始めとする関係行政機関に加え、民間事業者と連携した協働対処体制の整備に取り組む
【図表②:充実化が求められているテロ対策】
 
これらの対策を一言で表せば、“官民連携によるテロ対策の充実化”と言えるでしょう。では、なぜ官民連携が必要なのでしょうか。 「国民保護法」によれば、“武力攻撃事態や緊急対処事態から住民の生命、身体及び財産を保護し、住民生活や経済への影響を最小化”することが国民保護の目的であるとされ、その目的を達成する為に「住民の避難」、「住民の救援」「武力攻撃災害への対処」の3つの措置が定められています。 この3つの措置が具体的にどの様な内容か、なぜ官民連携が必要なのか、「国民保護計画」で想定された大規模テロのシミュレーションを参考に説明致します。
【シミュレーション①:大規模集客施設へのテロ攻撃】

ターミナル駅や劇場等の大規模集客施設に対する爆弾テロを想定します。多くの利用客で賑わう施設で大規模な爆発が起きたとします。まず真っ先にすべき事は、施設利用客を安全に避難させることです。 しかしながら、爆発が起きてから迅速に避難誘導を実施することは非常に困難でしょう。なぜならば、大規模な爆発が発生したとしても、それが直ぐに“テロ”と断定できる人は少ないからです。多くの人は、ガス漏れ等による爆発と思うのではないでしょうか。そうこうしている間に、次の爆発が起きる可能性が高いです。この時点で爆発が連続することを不審に思った人が“テロだ”と叫ぶかもしれません。もしかしたら、更に爆弾テロが続いても誰もテロとは気づかないかもしれません。そんななかより迅速かつ的確な避難誘導を実施するにはどうしたら良いのでしょうか。

ありきたりかもしれませんが、テロやその発生可能性について都・関係機関・施設管理者との間でしっかりと情報共有がされていることが必要です。例えばインターネット等で流れている犯行予告等、について情報共有がされていれば、爆破が起きた時にテロをイメージできるかもしれません。その為にも、平時からのテロ情報の収集を行い、「テロ対策東京パートナーシップ推進会議」等を活用し、都・関係機関・民間事業者との間で情報共有がなされることが期待されます。

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【図表③:テロ対策東京パートナーシップ推進の概要図(出典:警視庁)】

【シミュレーション②:大量殺傷物資(生物剤)による攻撃】

いわゆるバイオテロの発生です。航空機による炭疽菌や天然痘の散布など、目に見えない(もしくは目での確認が難しい)正に悪夢のようなシナリオです。バイオテロが発生した場合、如何に二次感染を防ぐことができるかが重要となります。

感染拡大を防ぐには、感染者に対する適切な医療の提供、感染の疑いがある方の移動制限や立入禁止区域の設定が求められます。ここで言う医療の提供が「住民の救援」であり、移動制限や立入禁止区域設定が「武力攻撃災害への対処」となります。この2つの措置を適切に実施するためには、公的機関に加え、民間の医療従事者や運送事業者、テロ発生場所周辺の施設管理者からの協力が必須となります。特に感染拡大に最も効果を発揮する移動制限では、鉄道やバス等の公共交通機関を止める必要もあります。

東京都における現行のテロ対処マニュアルである「地域防災計画 大規模事故編」や「東京都NBC災害対処マニュアル」でも定められている様に、今後の策定が明記された「東京都大規模テロ等対処マニュアル」においても、民間企業との連携が明確にされるでしょう。

官民連携によるAll Tokyoのテロ対策

以上2つのシミュレーションを基に、国民保護に係る3つの措置と、それらを実施するために必要な都・関係機関そして民間企業との連携の必要性を説明致しました。「国民保護計画」を改訂した東京都は、今後も官民連携によるテロ対策を進めていくことになるでしょう。

しかしながら、都が積極的に取組を進めることや官民連携の必要性を訴えるだけでは十分なテロ対策とは言えません。民間企業もまた、テロに対する備えが必要となります。特に、病院や公共交通機関など住民生活と密接に関係している民間企業には、「指定公共機関(地方指定公共機関)」として「国民保護業務計画」の策定が求められています。

テロ対策といえば警察や自衛隊の役割と考える方も多いと思います。実際に“対策”と言われれば、未然にテロを防ぐ積極的な活動の様に思え、とても一民間企業ができることではないかもしれません。しかしながら、テロに狙われるかも知れない施設の多くは、民間の施設であることを忘れてはいけません。テロ発生可能性に関する情報の積極的に収集・活用、発生後を想定した避難誘導訓練などの普段からの取組が、“テロが起きにくい社会”“テロに強い社会”を作ります。

より一層官民が連携したALL Tokyoによるテロ対策がなされれば、2020年のオリンピック東京大会も無事に開催され、素晴らしいスポーツの祭典として幕を閉じることができるでしょう。残された時間は後5年。東京がより“テロが起きにくい社会”“テロに強い社会”になることを願ってやみません。

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