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リオ五輪取材記(前編) オリンピック開催に向けたリオ市のレジリエントシティへの取組み

掲載:2017年02月21日

執筆者:執行役員 兼 プリンシパルコンサルタント 内海 良

コラム

昨年夏のリオデジャネイロ オリンピック・パラリンピック競技大会(以降「リオ2016大会」)から半年が経ちましたが、メダルラッシュに沸いた日本では、活躍した選手たちが連日テレビ等のメディアを賑わせてくれたのは記憶に新しいところです。一方、大会開催の数年前から、治安の問題・巧妙化しているサイバー犯罪やテロの脅威などが懸念材料として取り沙汰されていました。

リオ大会開催中、結果的に大規模なインシデントには至りませんでしたが、その背景として、サイバーテロなどを最小限にくい止めたリスクマネジメントが功を奏したことが挙げられます。そこで、そのノウハウと対処法について、リオ2016大会終了直後に、政府の要人や実際に大会運営をした組織委員会、そして大会を影で支えた民間企業など、関係各所の要人を取材してきました。

         

「最終的には軍が責任を持つ」 上院議員:Jair Bolsonaro氏

最初に、後方支援としての役割を担う元陸軍/上院議員のJair Bolsonaro氏、連邦警察/上院議員のEduardo Bolsonaro氏のもとを訪れました。政府として最も懸念していたテロなどのリスク防止のために、複数の組織が連携する場合の指揮命令系統などについてインタビューしました。

おりしもブラジルではルセフ元大統領が罷免された状態。Bolsonaro氏は「ルセフ元大統領は反政府組織とつながっていた」と糾弾し、「それがテロを引き起こす可能性もあった」と言います。政府として最も懸念していたのがこの件に起因するテロとのことでした。結果としてリオ2016大会では、過去最大規模となる8万5000人もの警備要員をブラジル各地域から動員しています。

有事の際の対応について話が及ぶと、「テロなどの危機が発生すれば国が主導する軍はもちろん、連邦警察、州警察、市警察など、様々な組織が連携し対応する」とEduardo氏は言います。連携で難しいのは役割分担と情報共有、そして意思決定ですが、「有事の際は陸軍が最終責任を負う、最終的には軍の指揮のもとさまざまな組織が機能的に連携して動く」(Eduardo氏)とのことで指揮命令系統は明確になっていることが重要と話しました。

実はここに組織が連携して有事対応していく際の鍵があるのではないかと感じます。連携組織が多ければ多いほど混乱を極めるのが常であり、混乱を招く原因は意思決定とその意思決定を速やかに伝える機能の有無が大きく左右します。

2020年東京オリンピック・パラリンピック大会を控えた日本で、意思決定が明確になった組織・防衛システムが構築されているかという視点でみると、まだ練度を高める必要があるかもしれません。リオでは最終的に誰が責任をとるのかが明確になっているという一点においても、優れたシステムと言えるでしょう。
 

  左:Jair Bolsonaro氏と弊社代表副島、右:リオ市庁

「危機対応モードへ切り替え? 我々は24時間危機対応をしている」City Operation Centreセンター長:Pedoro氏 

次に訪れたリオ・オペレーション・センターは、2010年12月にリオデジャネイロ市の危機管理センターとして設立され、オリンピック以外でも災害や緊急事態に備えた対策本部として機能する施設。2010年にリオ市で発生した大雨による災害の悲劇を繰り返さないために独自のシステムを構築しており、リオ2016大会では、小池都知事も見学に来たとのことです。

 左:City Operation Centre外観、  右:市の状況が映し出されたCity Operation Centre内部

オペレーション・センター長のPedro Junquieira氏によると、「市職員だけではなく警察や道路メンテナンス、水道、下水、ガス・電力など、行政サービスやライフラインに関わる企業と主要メディア群の約30の関係機関が常時、施設内であらゆる情報の収集・監視に当たっています」。

対象事象は明確で、大雨、洪水、事故等による交通渋滞など。気象レーダーや幹線道路の状況が様々な大画面に映し出され、担当チームが24時間モニタリングしています。見るからに練度が高く、危機があれば、すぐに関係者が一角のスペースに集まり10分間限定のスタンディングミーティングによる情報共有を行う他、各主要メディアがすぐにテレビ報道できるようカメラを備えた施設も用意されており、そのカメラはメディアが自由に利用可能となっています。練度の高さは一目瞭然のため、Pedro氏にどのような訓練をしているのか訊いたところ、「24時間危機対応でありそんな必要はない。実地そのものが訓練だ」とのこと。レジリエンス能力の高い組織は日々軽微なインシデントが発生する組織と言いますが、まさにこの施設がそう。日々ストームや水道管が破裂するたび、各機関やメディアと連携対応し、時にはSNSやツイッターを利用して自ら市民に避難指示を行う役割まで担うそうです。

そのため、大会期間中は、不測の事態に備え、特別チーム「リオ・レジリエンス」を設置し、 組織委員会と都度連絡を取り合い、当日の要人や選手の移動について情報交換し、交通渋滞の未然防止や迂回路の検討について特に気を配ったとのこと。選手の到着が遅れて競技開始が遅れると、それは全世界へのテレビ中継にも影響するわけで、競技の遅延はあってはならない自体なのです。

このチームのリーダーも兼任するPedro氏は、「リスクに備え監視を続け、顕在化したリスクに対してチーム一丸となり対処し、学習を重ねることが重要」と締めくくりました。

同市では、2016年5月、「リオ・レジリエンス」の取り組みを国際的に発表し、ロックフェラー財団や国際的非営利団体らの支持で、2035年までに世界的な「レジリエント・シティ」になることを目指しています。
 

 左:Pedro Junquieira氏へのインタビュー風景、右:すぐにメディア放映可能なカメラ施設

「開会式開催後から肯定的な意見が増えた」 Info4代表取締役社長:Alexandre Macedo氏

リオデジャネイロに本社を持つInfo4社(社長Alexandre Macedo)は、ウェブサイトやソーシャルネットワークはじめテレビ、ラジオ、新聞、雑誌などあらゆるメディアに掲載されている情報分析のサービスを提供する会社。リオ大会では組織委員会からの依頼により、大会に関するニュースなどの分析に貢献した企業でもあります。具体的にはSNSやアンケート、街頭インタビュー等を駆使して、オリンピック・パラリンピック大会に向けた市民の感じ方について明らかにし、その理由を分析してその後の対応に活かす支援をしています。

具体的にはSNSであれば、リオ2016大会関連で使われている言葉は、ポジティブ、ネガティブのどちらが多いのか、それが大会前後でどう変わってきたか、アンケートや街頭インタビューであれば、具体的にどのような会話が中心を占めているのか、スポンサー企業が提供するオリンピックと連動したキャンペーンの感じ方は?などのデータを収集し傾向を分析していきます。

Alexandre氏によると「大会前は巨費を投じて開催することに大多数が反対だったが、開会式後は競技を見たいという声が加速度的に増えた」という傾向が顕著にあったとのことで、そういった情報を定期的に組織委員会に報告し、広報戦略にも反映いただいたとのこと。このような情報分析は、マーケティングはもちろん、リスク管理の観点でも重要視されてきており、2020年には様々なデータをリアルタイムに収集し、瞬時に解析して対策につなげるような状況が現出するでしょう。

 

 左:Alexandre Macedo氏、右:Alexandre Macedo氏(右)弊社代表副島ほか

後編では、リオ五輪そのものを運営したオリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会のCISOなどにサイバー攻撃への対応について取材した内容をご紹介します。
 
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