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コラム

リスク予測とベキ分布

2011年06月20日

シニアコンサルタント

中村 定

シニアコンサルタント 中村 定

私たちは様々なリスクに囲まれています。企業には倒産、廃業に到る様々なリスク、個人にも生命の危険を伴う様々なリスクがあります。これらのリスクを予防し、対処するためには、そのリスクによる損害の大きさの最大、平均を評価し、その発生確率を悲観的、楽観的、最も可能性が高い確率で考え、対応策を考えなければいけません。

リスクの大きさは、

リスクの大きさ = 損害規模 × 発生確率 × 当該リスクに対する脆弱性

で表現されます。そのリスクを予測する際に有用だと従来考えられてきたのは、正規分布という確率分布です。物事は平均を中心として起きる確率が高く、外れ値は起きる確率が低い、という分布です。(下左図参照)

これに対し、企業の存続、個人の生命に関わるリスクおよびその周辺の考え方、分類には、ここ50年で急速に研究が進んだベキ分布に関係することが多いのではないかと言われるようになりました。ベキ分布とは極端な値をとるサンプルの数が正規分布より多く、そのため大きな値の方向に向かって曲線は長くなだらかに裾野を伸ばしていく分布です。(下右図参照)

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(ベキ分布に関する詳細な説明は用語集をご参照ください。>ベキ分布

こうした確率分布はリスク予測をする際の参考にすることができます。
今回はベキ分布に従うと考えられるリスクの例を挙げたいと思います。

リスクの種類:企業のリスク

企業が遭遇するリスクには様々なものがあり、新たなリスクが増え続けています。最近の企業リスクには巨大化/国際化/迅速化/社会化の傾向があります。表1に代表的な企業リスク(1)を表示しました。
赤字で表示されているのは最近までの研究でベキ分布に従うと言われているリスクです。緑字は筆者がベキ分布ではないかと疑っているものです。リスクがベキ分布であれば、損害が巨大化してしまう危険性があるということになります。

表1.代表的な企業のリスク
分類 リスク
政治リスク 戦争、内乱、テロ、誘拐、貿易摩擦、国家収用、税制変更、制度変更
経済リスク 為替変動、金利変動、原油高騰
社会リスク 不買運動、消費者運動、総会屋、暴力団、脅迫、電力危機
自然災害リスク 地震、津波、噴火、台風、水害、異常気象、渇水、落雷
事故リスク 火災、爆発、原発事故、労災事故、交通事故、停電、盗難
環境リスク 大気汚染、水質汚染、土壌汚染
製品リスク 製造物責任、リコール
法務リスク 役員賠償責任、株主代表訴訟、独禁法違反、公取法違反
財務リスク 市場リスク、信用リスク、流動性リスク、デリバティブ
労務リスク セクハラ、労働争議
知財リスク 特許紛争、商標紛争、著作権紛争
ITリスク システム障害、ハッカー、ウイルス、サイバーテロ、個人情報漏洩
医療リスク エイズ、SARS、BSE、医療事故
風評リスク 農作物、観光業、地価下落

リスクの種類:個人のリスク

私たち個人の最大のリスクは「死」のリスクです。図1. 様々なリスク一覧(2)は2004年の10万人当たりの年間死亡者概数をグラフ化したものです。大体100人につき1人が毎年亡くなっています。そのうち老衰によるものは2.3%に過ぎません。ガン、心疾患、脳血管疾患、肺炎の上位4つで7割近くを占めています。

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このグラフを見ると、死亡リスクもベキ分布に従っていることがわかります。

ベキ分布のリスクの特徴

ベキ分布に従う災害は「異常」な現象が起きる確率が、正規分布の場合よりはるかに高くなります。図2は東北地方太平洋沖地震発生日からのM5以上の余震の日毎の発生回数と積算回数をグラフにしたものです。正規分布と異なり、端のほうに行っても太く、大きな余震がなかなかおさまらないことが読み取れます。

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実際この傾向は2004年に起きたスマトラ沖地震でも見られました。

2004年12月のM9.0のスマトラ沖地震から3ケ月後、前の震源域のすぐ南東で、M8.6のプレート境界型地震が発生し、さらに3年10ケ月後の2007年9月にはさらに南東でM8.5のプレート境界型地震が発生しています。この地域では本震発生後5年間で、先のM8.5クラスを含めM7.0以上の巨大余震が15回も起こっています。

東北地方太平洋沖地震もM9.0でスマトラ沖地震と同規模なので、ここ数年はM7以上の大地震、M8以上の巨大地震が襲う可能性もあります。引き続きの注意が必要であると言えます。

ベキ分布に従うリスクに対処するには

多くのリスクや評価基準がベキ分布だと言うことは、過去のデータに基づく平均や分散は余り意味がないケースもありうることだと考える必要があります。またやっかいな事に、「異常」な現象が起きる確率が正規分布の場合よりはるかに高くなります。被害の規模もベキ分布に従うので、被害規模を「想定内」をより広く取ることが必要です。

ベキ分布性を知っておき、「想定内」を予算の許す範囲で広く取り、仮に「想定」を超えるリスクが発生しても、「想定内」の計画の外挿で対策が打てるようにする。そうした企業および人はリスクに備え、有事の際にも対応できるだけでなく、それをチャンスに変えることさえできるかも知れません。

物理学者であった寺田寅彦は「天災は忘れた頃にやって来る」といいました。このことはベキ分布に従う多くの災害の発生後の記憶もベキ分布に従うことを示しています。災害の記憶も30年も経てば途絶え、60年も経つと災害のあった地域でさえ忘れられ、300年もすると社会からも消え、1200年もすると誰も知らないようになります。

今回の震災がそのような記憶のベキ分布をたどらないように、私たちが取組を強化していかなくてはならないのです。
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