リスク管理Naviリスクマネジメントの情報サイト

リスクマネジメントの効果を実感するために

掲載:2024年04月24日

執筆者:取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介

メルマガコラム・バックナンバー

         
目次

世の中を見渡しますと、次から次へと色々なことが起きていますね。「色々なこと」と言われて、ビジネスパーソンの皆さんの頭に思い浮かぶものはなんでしょうか。海外の戦争・紛争ですか? 気候変動の影響でしょうか?はたまた国内のメディアを賑わせているニュースでしょうか?

これだけ色々なことが起こる不確実性の高い世の中であれば、「リスクマネジメントが役に立ちそう」とは思えます。この分野に携わる私からすれば、実際に役に立っていますし、役に立ってくれているからこそ、世の中の混乱はこの程度で済んでいると考えるほうが正しいと思います。本当にそうか?と思う方がいらっしゃいましたら、ハンス・ロスリング氏らによる著書「FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」を読んでみてください。

ですが、なかなか実感できないのもまた事実です。なぜでしょうか。人は「何を失敗したか?」という目線で物事を振り返ることは多いですが、「何で成功したか?」という目線で振り返ることは少ないからです。例えばの話をしましょう。

「あなたは、楽しみにしていたサッカーW杯の試合を見に行きました。真夏日&炎天下ではありましたが興奮する試合内容に大満足です。全てが順調にいったかのように見えましたが、帰途につこうと席を立ち上がり、スタジアムを出ましたが、大混雑。交通誘導警備員が不足していたのか、スキル不足なのか、全く機能せず、満員電車のような人だかりの中で、あなたは1ミリも動けず40分近く汗だくでじっとその場にスタックしていました。そして徐々に動き出し、ようやく家に辿り着きました。その時に、思い返すのは興奮冷めやらぬ試合の中身よりむしろ、最悪だった帰りの出来事。あなたは『もう、さいあくっ!』と罵ります。」

どういうわけだか、この試合を見るために進めてきたさまざまな準備…例えば、その日のために1年以上前から会社に休みを申請していたことや、好カード・観戦しやすい座席を取るために行った毎日の情報収集、行きの混雑を避けるために歩く距離は長いが乗降者の少なそうな駅を選択したこと…には意識が向きません。もちろん、後から「いやぁ、頑張ってチケット取った甲斐があったよ」ってことくらいは印象に残るのかもしれませんが。試合後のスタジアムを出るタイミングこそ間違えたものの「それ以外の他の全てのリスクコントロールの積み重ねのお陰で、実は試合を楽しめたんだ」という事実に、気づくこともないわけです。

ただこれはプライベートの話であり、少なくとも「自分ごと」なのでだいぶマシです。というのも、無意識ではあるものの、自分で「どれだけ成し遂げたいのか、どこまでリスクを取るのか、取らないのか、絶対に取りたくないリスクは何か、どこまでコントロールするのか」を自ら決めて行動できているからです。この結果が自分の経験として残り、次の機会に(おそらくはまた無意識のうちにフィードバックされ)活かされます。

ではビジネスではどうでしょう?これが意外と上手くいかないんです。なぜなら「無意識に」というものが通用しないからです。色々なことが「自分ごと」になりにくいからです。「無意識に」が通用するのは「ワールドカップの試合の雰囲気を全身で楽しむぞ」などとする、自分で「達成したいゴール」をもち、その目的・目標達成のために、自分でリスクマネジメントを行う場合に対してだけです。ビジネスは組織で進めるものです。組織には、目的・目標達成をコミットする人と、そのコミットのために実務をこなす人と、それを管理する人とがいます。彼らの間では「どれだけ成し遂げたいのか、どこまでリスクを取るのか、取らないのか、絶対に取りたくないリスクは何か、どこまでコントロールするのか」は、必ずしも一致していません。いや、一致していないことの方が多いでしょう。そのような状況下では期末の振り返りで「あぁ、なぜかわからないけど目標を達成できなかったな・・・」とか「えっ、なぜそこ事前に手を打っておかなかったの!?」といった事態に陥ります。

だから、「リスクマネジメントが役に立ちそう」を、「リスクマネジメントは確かに役に立っているな!いや、事実として役に立っている」と思えるようにするには、「無意識に」ではなく、明示的なリスクマネジメント活動を行うことが必要なのです。そのためには前段で説明してきた落とし穴や回避方法、リスク認識力を高める方法などのスキルを一定程度、持っておく必要があります。リスクマネジメントの実務者は当然のこととして、「目的・目標を我こそは達成したい!」と思っている経営者やリーダー、それを実現するためにオペレーションする一般社員やそのマネージャー、経営者やリーダーの想いを実現するリスクマネジメントになっているかを監査する内部監査員、経営全体を監視・監督する取締役が、それぞれに見合った力量を身につけること。

それがこれからの不確実な時代を乗り切る鍵なのだ。そう、私は思います。

当社のWebサイトでは、サイト閲覧時の利便性やサイト運用および分析のため、Cookieを使用しています。こちらで同意をして閉じるか、Cookieを無効化せずに当サイトを継続してご利用いただくことにより、当社のプライバシーポリシーに同意いただいたものとみなされます。
同意して閉じる