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リスマネスキルはビジネススキル。教育こそが、組織のリスクマネジメント力を高める最強の武器

掲載:2021年12月22日

執筆者:取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介

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みなさま、こんにちは。勝俣良介です。
今年、最後のメルマガコラムになります。

改めて思います。リスクマネジメントって大事ですよね。エベレスト登山で考えてみるとよくわかります。皆さんが、なんらリスクマネジメントをせずにエベレスト登山を始めたらどうなるでしょうか? ほぼ間違いなく死にますよね。リスクマネジメントをするからこそ、必要な装備を整え、トレーニングを行い、万全の準備で登山に立ち向かうことができます。極端な例ではありますが、リスクマネジメントの有り難みがわかります。リスクマネジメントは、目的・目標を達成するための必要不可欠とも言える手段なのです。

だからこそ、ビジネスでもリスクマネジメントが必要になるわけですが、利用場面がビジネスにおきかわった途端に、皆さん、落とし穴にハマります。そうそう、子供の頃、定期テスト前になると綺麗なノートを作り始める子、そしてそれで満足してしまっている子、いませんでしたか? 綺麗なノートを作ることは、自らの頭を整理し、理解をし、覚えるための手段であって、目的ではないはず。にもかかわらず、いつの間にか綺麗なノートを作ることで勉強ができたと勘違いしてしまう。典型的な目的と手段の取り違えです。これと同じことが、ビジネスにおけるリスクマネジメントでも起きている、とお考えください。綺麗なリスク台帳を作る。綺麗にまとめたリスク対応計画とその実行結果を経営に報告する。それで組織全体が満足する。こんな感じです。

なぜ、そのようなことになってしまうのか。結論から言えば、「組織のリスクマネジメントに特別なスキルは必要はない」と勘違いしている組織が多いからです。おそらく社員から経営にいたるまで、「リスクマネジメントとはなんぞや、落とし穴とはなんぞや」「どういうふうに実践すべきなのか」についてきちんと教育を受けた人は多くないことでしょう。しかし、学習が不要なほど、リスクマネジメントは簡単なものなのでしょうか。

とんでもない。リスクアセスメントでは、リスクの洗い出し方やリスクの作文一つとってもテクニックが必要です。例えば、ある人は「地震が起きて工場が損壊するリスク」と書いてくる。また別のある人は「地震によって在庫が破損する」と書いてくる。さらに別のある人は「地震によって従業員が怪我をするし、設備が壊れる」と書いてくる。皆さんはこのようなリスクが出てきたらどうしますか?このような状態では、取りまとめも難しいですし、リスク分析もブレてしまいます。

しかも、リスクを洗い出すと言っても、そこにはリスク感度が伴わなければ難しい。気づいていないリスクを出せと言われても、出せるはずもない。では、「リスク感度はどうすれば高められるのか」と言えば、ただ日常業務をこなしているだけでは身につかない。そこにはやはり多少の知識や意識づけが必要になります。

さらに、リスクアセスメントは、リスクマネジメントの事務局に言われた時に年1回やればいいというものではありません。リーダーが行うあらゆる意思決定場面で必要なものです。現に、エベレスト登山にしたって、登山開始前にリスクアセスメントを1回すれば終わりというものではないでしょう?登山中にも、新たなリスクを常に意識し、登頂を続行するのか、その場でテントをはるのか、あるいは諦めて下山をするのか判断しているはずです。ところが、これがビジネスになると、リーダーは必ずしもリスクマネジメントの有用性や使い方を理解していないものだから、年1回、リスクマネジメントの事務局から言われた時にだけやるものだと勘違いしてしまう。

かくして、目的・目標達成を手助けしてくれる有効な手段であるはずのリスクマネジメントが、やっつけな活動になってしまう。最終的には、先述のとおり、「目的・目標」は忘れ去られ、リスク台帳をまとめたり、綺麗な報告書を作ったりするという活動がメインになっていきます。私たちは一体、どこの山に登るためにこの活動を行なっているんだろうか。いつしかそんな疑問を持つようになります。

ゆえに、私は声を強く大にして言いたいのです。「適切なリスクマネジメントは教育も受けずにできるものではない。リスクマネジメントをビジネスパーソンの誰もが身につけるべき一つの重要なスキルとして捉えるべきだ」と。エベレストに登頂する際に、誰か一人がそのスキルを身につけていればいいというものではないのと同じで、誰もが身につけておくべきスキルです。まして、組織を束ねる各階層のリーダーであればなおさらです。なぜなら、リーダーは意思決定をするのが仕事であり、先述のとおりリスクマネジメントは意思決定に欠かせないからです。リーダーの立場になると、問題解決スキルや会計スキル、労務管理スキル、チームマネジメントスキルなどが必須スキルとして取り上げられがちですが、リスクマネジメントもその一つだと捉えるべきです。究極的には、組織の一人一人が正しいリスクマネジメントスキルを身につけることができさえすれば、立派なリスクマネジメントの仕組みがなくても、組織のリスクマネジメント力も自然に上がっていくと、私は本気で信じています。

皆さん、年の瀬が近づいている今だからこそ、今一度、自分達の組織のリスクマネジメントが子供の頃の定期テスト前のよくない勉強の仕方になっていないか、ぜひ初心に立ち返って考えてみてください。そしてこのコラムを読んで「なるほど、リスクマネジメントにはスキル習得も確かに大事だな」と少しでも感じた方々、思い立ったが吉日です。例えば、前段で取り上げた「リスク感度」の高め方について、弊社WEBページに記事をアップしております。ぜひそちらをご覧になってみてください。リスクマネジメントが、特定の人だけが知っておけばよい知識・技術ではないということを、より一層ご理解いただけるはずです。

人のリスク感度の大小を分けるのは何か
https://www.newton-consulting.co.jp/bcmnavi/voice/risk-sensitivity_size.html#contents3

さて、これをもちまして、今年の私のコラムはおしまいとなります。今年一年どうもありがとうございました。そして、来年もまたよろしくお願いします。皆さんどうか良いお年を!

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