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今、「ESGリスク」とどう向き合うか

掲載:2021年05月26日

執筆者:取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介

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目次

こんにちは、勝俣です。今回は、今注目の、あるいは、流行りつつあるリスクについて、私の考えをご紹介していきたいと思います。

今注目すべきリスクでぱっと思いつきますのは、情報保護リスク、サイバーリスク、地政学問題をも含めたサプライチェーンリスク、自然災害リスクでしょうか。これらリスクの深掘りはまたおいおいやっていくものとして、今回は、これらのリスクと深い結びつきを持つESGリスクにスポットライトを当ててみたいと思います。と言いますのも、「コロナ」を除いて、今年一番紙面を賑わせているのはESG(環境、社会、ガバナンス)というワードではないかと感じるからです。

現実問題として、環境や社会問題は深刻化しています。今回の新型コロナウイルス感染症の流行は、私たちに感染症の恐ろしさを再認識させただけでなく、格差社会というものを浮き彫りにしました。2020年の春、アメリカの超富裕層はコロナの影響に便乗して、なんと資産を約62兆円も増大させたと言われています。そして、異常気象もみなさんが実感するところでしょう。2019年には多摩川が台風19号の影響で氾濫しました。CO2増加の影響で気候変動が加速しており、多摩川の氾濫はまだ序の口だということが容易に想像できます。今、若い世代の間でもSDGsへの関心が高まっていますが、これから先の未来を担う彼らからすれば、今の大人たちが作った世界は受け入れがたいと思うのも当然と言えるでしょう。

こうした状況に呼応するかのように、2021年3月にはEU-SFDR(EUサステナブルファイナンス開示規則)が適用開始になりました。また、日本で2021年6月から適用される改訂コーポレートガバナンス・コードにも、サステナビリティ情報の開示に関する項目が含まれています。枠組みの話だけにとどまりません。今年の年明け早々、若者たちが、気候変動問題の観点から、石炭火力発電輸出への抗議の一環として、日本の複数の大企業に公開質問状を送りつけました。ESGリスクへの取り組みが「投資家の間の単なる流行り」ではなく「企業に本質的に求められている活動」になりつつあることを示した一事象だったように思います。これは決して、日本特有の動きではありません。中国やベトナムでも、環境面でマイナスに働く新事業は許可されない動きが強まり、日本以上にシビアな側面もあります。ちなみに、先日、私の中学生の娘が「『SDGs17の目標に対して家庭でできることを考えなさい』という宿題が出ている」と教えてくれて、影響はそこまで出ているのかと、ややびっくりしました。改めて、今、地球全体がこのテーマに向かって転がり始めていることを強く実感しました。

さて、企業に目線を戻したとき、「私達は何をしなければいけないのか」というと、その一つはアカウンタビリティ、すなわち説明責任であることは言わずもがなです。ここで説明責任とは、「企業はESG問題をどう捉え、そこに自らはどのような悪影響(またはプラスの影響)を及ぼす可能性があり、また自らがどのような悪影響(またはプラスの影響)を被る可能性があるのか、それにどう向き合っていくのか」について情報発信をしていくことです。先のコーポレートガバナンス・コードの改訂や内閣府改正令※などの影響もあり、ESGリスクに関する情報開示を進める企業が増えてきてはいますが、まだまだ「ポーズ先行」といった感が否めないのもまた事実です。つまり、「ESGリスクと向き合う中で、企業として新たな付加価値提供につながる取り組みをする」というよりも、「現状やっている組織活動の中で、これはESGリスク対応ネタとして使えそうなものだから情報発信しておこう」といった「後付けの活動」になっている印象です。

ですが、すでに前段でお伝えした通り、ESGリスクへの対応を求める社会の流れは止まりません。止まらないどころか、加速していきそうな気配です。今後ますます、世の中は企業に対して、ESGリスクへの本質的な取り組みを求めるようになっていくでしょう。

皆さんのリスクマネジメント活動は、先に述べた「企業はESG問題をどう捉え、そこに自らはどのような悪影響(またはプラスの影響)を及ぼす可能性があり、また自らがどのような悪影響(またはプラスの影響)を被る可能性があるのか、それにどう向き合っていくのか」について、付加価値を提供できる活動になっているでしょうか。子どもに宿題を課す前に、まず私たちが私たち自身に宿題を課すべきだと思います。私も、そうした企業のお手伝いができるよう日々邁進してまいりたいと思います。

※「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」。平成31(2019)年1月31日に公布され、有価証券報告書における記載様式の変更を求めている。

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