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なぜ落雷死する人の8割が男性なのか

掲載:2021年09月29日

執筆者:取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介

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目次

みなさま、こんにちは。

なんでもロジカルに整理しようとする。これはコンサルタントが陥りがちな職業病です。このようなことをプライベートでやり過ぎればおそらく家庭が崩壊しますよね。では、これがリスクマネジメントコンサルタントとなるとどうなるのか。はい、物事を何かとリスクマネジメントという色眼鏡を通してみてしまいます。

本日は、そんな色眼鏡が役に立った事例を1つご紹介します。

ある日、脳科学者の中野信子さんが、昨今の政治家の失言の多さを憂えて、次のような発言をなさっている記事を見かけました。

「(政治家の)迂闊な発言の背景には往々にして危機管理の甘さが見られます。例えば落雷の死者を性差で分析した(アメリカ国立気象局の)調査があって、実は8割方、男性なんです。」(月刊VOICE2021.8より)

これを読んで次のように考えました。

「落雷で死ぬ人の8割が男性!? いくらなんでもそこまで顕著に差が出るなんていったい何事だろうか。もしかしたら、そこに人間のリスク感度につながるヒントがあるのではないか」

早速、アメリカ国立気象局を検索して、2006年から2019年までのアメリカにおける落雷死についての分析資料(A Detailed Analysis of Lightning Deaths in the United States from 2006 through 2019)を見つけました。データによれば、2006年からの2019年までで落雷で亡くなった418人のうち、79%が男性。うち、約90%が釣りやスポーツ、仕事に関わっていたそうです。

中野信子さんも記事で言及されていましたが、遠雷のうちに建物に避難すればまず当たらないはず。それでも落雷で亡くなるというのは「大丈夫だろう」という根拠のない過信、裏を返せば危機意識の弱さが男性陣に見て取れるからだと推測できます。

ここでハタと考えました。何かの心理学上の問題か?正常性バイアス?プロスペクト理論?いや、それらでは性差を説明できない。問題は「なぜ男性ばかりが大丈夫だろうと思ってしまうのか」です。どうやら、生物学的な側面が強いようで、男性に比べて女性の方が「不安を感じる神経」がより反応しやすいようにできているみたいなのです。さしづめ、優れた「不安感知器」を持っている、といったところでしょうか。

私はこの事実を「リスクマネジメント」という色眼鏡をかけて捉え直してみました。真っ先に頭に思い浮かんだのは、「ダイバーシティ」というキーワードです。そう、リスクマネジメントにおいても多様性が重要な要素の1つになりうるのではないか、と思いました。新たなリスクをいち早く認知したいとき、あるいは、危機に直面し対応を行うとき、「勇猛果敢な人」だけではなく、「優れた不安感知器を持っている人」がいた方が、より好ましい対応ができるかもしれない、とは考えられないでしょうか。先の雷の例で言えば、「雷がきた!部屋に入ろう!危ない!」と忠告してくれる人が側にいるのといないのとでは、結果に大きな違いを生むと言えるのではないでしょうか。

みなさま、自分たちの組織を今一度、振り返ってみてください。リスクマネジメントのダイバーシティはうまく考慮できていらっしゃいますでしょうか。特定少数の人だけでリスクを考えたり、対応を考えたりしてしまってはいないでしょうか。ちなみに、「女性取締役が多い銀行は、不正が少ない*」という研究結果もあります。もちろん、男性・女性という性差だけでダイバーシティを捉える必要はなく、大胆な人・慎重な人、業界内の人・業界外の人、年配の人・若手の人など、さまざまな観点で考えるべきなのかなとも思います。

・・・とまぁ、私の職業病も、こんなふうに役立つわけです。皆様も機会があればたまには「リスクマネジメントの色眼鏡をかけて見る」を実践してみてはいかがでしょうか。おっとそうそう、そして皆様・・・特に若い男性の方々、落雷にはくれぐれもお気をつけくださいませ。

本日はこれにて失礼致します。

*”Banks with more women on their boards commit less fraud”, HBR, May-June 2021

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