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リスクマネジメントの今後を占う

掲載:2021年11月25日

執筆者:取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介

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目次

みなさま、こんにちは。

11月13日に第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)が閉幕しました。結論から言えば、「世界的な平均気温上昇を産業革命前から2度未満、できれば1.5度以内に抑えることを目指す」としたパリ協定の目標達成メドがたたず、2022年までに各国が再検討することとなりましたね。

納得のいく結果ではなかったかもしれませんが、間違いなく言えるのは、「気候変動リスク」を取り巻く環境は目まぐるしく変化していますし、今後も加速していくだろうということです。今回は、こうした動きをもとに、リスクマネジメントの世界の今後を占っていきたいと思います。

まず考えられるのは、気候変動リスクに関する情報開示が、より詳細に、そして厳格に求められるようになっていくだろうということです。私は最終的には、J-SOX(内部統制報告制度)のようにすごく厳しい情報開示ルールやそれに伴うリスクアセスメントルールが制定されていくのではないかと考えています。理由は単純、数字は何かと比較できて初めて意味を持つものですが、今の開示ルールのままだと企業のCO2排出量算定基準はバラバラで、何の意味も持たない数字になるからです。こうしたことを懸念して、グリーンウォッシング(環境問題に取り組んでいるように見せかける行為)という言葉も登場しています。また、気候変動リスクは年々、顕在化するケースが増え、社会の締め付けもどんどん厳しくなっていくことが予想されます。こうしたことを受けて、おそらく企業側の自主的な情報開示だけでは誰も納得せず、外部評価が常識化していくでしょう。

そして次に考えられるのは、情報開示の範囲が、気候変動リスク以外に対してもますます広がっていくであろうということです。ESGという言葉があります。Eは環境、Sは社会、Gはガバナンスのことです。前段の気候変動リスクは全てE(環境)の話であり、S(社会)やG(ガバナンス)の問題が残っていることを忘れるわけにはいけません。Sといえば、最近では、人権問題が真っ先に頭に思い浮かびますね。そしてGといえば、名だたる企業のガバナンス不祥事が思い浮かびます。社外取締役のスキルマトリックスも、ある意味その延長線上の活動ですね。

広がるのは情報開示の範囲だけではありません。リスクマネジメント部門や取締役会、内部監査部門に求められる役割も広がっていきます。例えば、最近では「フォワードルッキング」という言葉も目立つようになってきました。これは、企業価値維持のみならず、企業価値向上に資するリスクマネジメントにしていくことを求める言葉です。数年前までは「ブレーキ中心のリスクマネジメント」が主体でしたが、進んでいる企業のリスクマネジメント部門では、新しいビジネスモデルの評価や新製品の助言なども役割に入ってきています。

こうなってくると、リスクマネジメント部門の負担はもちろんこと、企業側にかかる負担がどんどん大きくなっていくことは明らかです。その一部は顕在化の兆しを見せています。これらの環境変化に合わせて、リスクマネジメント部門とは別にESG部門が新設されたり、以前はせいぜいコンプライアンス委員会やリスクマネジメント委員会だけだったものが、今では情報セキュリティ委員会、サステナビリティ推進委員会、品質委員会など、数多くの委員会を見かけたりすることが少なくありません。各分野の専門性を持つ取締役が招聘され、すでに社外取締役は逼迫気味です。おそらく現状の陣容ではリスクマネジメント部門や内部監査部門のリソースは不足していく可能性があります。

求められる役割が広がるが、リソースはギリギリ。ルールはより厳格化していく。そういう環境下で起こることは何でしょうか。そうです。誤魔化しや不正です。気候変動リスク対応の分野では、CO2排出量の算定誤魔化しや不正開示も横行する可能性があります。財務系に比べて非財務系の情報はどこまで行っても基準の明確化に限界があり、誤魔化しやすいから、余計にそうでしょう。また、目標は掲げてみたものの、本業とのシナジーが見出せず、目標達成の見通しが立たず、行き詰まる企業も出てくるかもしれません。目標達成を促進するどころか、その足を引っ張る不正の温床にすらなりかねません。

これらの将来予測からどんな行く末がみて取れるのか。私はやがてリスクマネジメント対応体制(リスクマネジメント部門や内部監査部門など)についての抜本的な見直しが必要になる企業が出てくるのではないかと思います。なぜって、すでにみてきましたように、新しいテーマが出るたびに専門委員会や専門部署など対応体制を作りパッチワークのような取り組みをしてきた企業は、やがてその負担に耐えきれなくなっていくと思うからです。

また、「リスクマネジメント部門やリスクアセスメント実務者など特定の人だけがリスクマネジメントスキルを身につけていればよい」という考え方が廃れて、「全社員がリスクマネジメントスキルを身につけていて当然」という時代がやってくると思います。負担はみんなで分担すべきですし、負担を負担として捉えるよりも企業価値向上に資する活動に変えてしまうことが楽だからです。そのためには、リスクマネジメントの本質やそのテクニックを全社員が身につけておくべきです。そして何よりも、無駄な(形式的な)活動がないかという観点で、リスクマネジメントに関する各種活動を再点検することが求められていくでしょう。

「気候変動リスク」が何かと気になる今の世の中ですが、今のうちから原点回帰をし、「リスクマネジメントが本質的に役立つ活動になっているか」を自らの組織で問い直したいものですね。

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